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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第4話 破壊級エネミー

「さて、調子はどう?」


 自己紹介を終え、学園長が開口一番言い放ったのは、広樹の健康についての問いだった。


「今の所問題は無い……能力以外は」


 本来ならば初対面の人間に対して、自身の手の内を晒すことはしない広樹。だが今目の前にいるのは数世紀生きた伝説の能力者だ。時空を司る彼女の前で敵対することは即ち、死を意味する。


 それなら未だに味方でいる今の現状、自身の能力が使えない状態について意見を聞いたほうが己の身になると広樹は判断し、学園長の問いに素直に答えた。


「能力に何が異常が?」


 広樹の返答を聞いた学園長は広樹の身体を心配した。この反応を見た広樹は、己の直感に間違いはないと確信をする。目の前にいる女性――今の外見は少女だが――は信用できると。それを確認した広樹は、自身が昨日起きた出来事を詳しく説明した。


「まさか広樹がそんなことになっているなんて……」


「寧ろ今でも生きている事に驚愕に値するわね」


「なぁ俺の能力は一体どうなっているんだ?」


 サイと学園長がそれぞれ反応を示す中、広樹は答えを早急に求めた。かつて破壊級エネミーとの戦いで、度重なる強化の結果、素の身体能力は最早人間ではなくなっている広樹。


 だがそれが何時、自身の身体能力を超えるエネミーと出くわすかは分からないのだ。表情には出さないが内心広樹が焦っているのは当然の事である。


「貴方が帰還した当時、無数の血痕とボロボロの状態で発見されたわ。しかし貴方に身体的な損傷は見受けられなかった。脳、以外はね」


「脳……?」


 その言葉により、まるで脳の状態を確かめる為に広樹は思わず自らの頭を触れた。


「能力者にとって脳は大事な部分なの。能力が使用できるのも使用領域が増えた脳のお陰だと言っても過言ではないわ」


「そんな大事な部分に……損傷を見受けられたと?」


「本来ならば良くて全身麻痺などの後遺症。最悪の場合脳死により死亡というレベルの損傷具合よ。でも貴方は今でも生きている。能力の使用が出来ない程度で五体満足という驚異的な結果よ」


 広樹には何故自身が生きているのか心当たりがあった。それは先ず間違いなく自身の能力によるものだろう。『強化』という能力は、自身のみとはいえ非常に幅広い汎用性持つ能力だ。そして時折強化の能力が、広樹の意思とは無関係に勝手に強化してくれることもあった。


 恐らく今回も同様に、強化という能力が勝手に働いたという可能性が一番高い。


「貴方があのロードとかいう破壊級エネミーと対峙した当時、一体何が起きたの? サイやメタリカの報告によると、あのロードの力はエネミーを操る能力だった筈。それにロード自身の身体能力はメタリカと同程度。サイの報告が正しければ貴方の身体能力は、メタリカと同じかそれ以上の筈。そんな貴方が、脳に損傷を受けるほど不覚を取る筈がないわ」


 メタリカとは、あの場に現れ広樹達を助けた能力者の一人だろう。あの場でロードと戦ったのは確か大柄な男だった……と、当時連続して起きた出来事に混乱していたため、おぼろげな記憶ながらも確かそんな印象の人物だと広樹は思いだす。


 あの時一体何が起きたか。それは当然あの場にもう一体の破壊級エネミーが現れたからだ。ロードが呼んだその新たなエネミーの名前は、スピリット。結果的に不完全とはいえ、広樹の能力を消そうとした半透明の人型エネミー。それを思い出し、広樹は静かにその事を説明した。


「……あの場にもう一体のエネミーが出現した。半透明な奴で、能力者の能力を封じる手段を持つエネミーだ。……恐らく、ロードと同じ破壊級エネミーだろう」


 広樹の言葉を聞いた学園長は、額に手をやり仰ぐような仕草でため息を吐いた。


「……いやな予感が当たったわ……もう一体破壊級エネミーが現れたのね……」


「学園長……じゃあこれで破壊級エネミーは……」


「これで合わせて四体の破壊級エネミーが存在することになったわね」


「――は? 四体だと?」


 広樹が記憶している限り、広樹が出会った破壊級エネミーはロードとスピリットの二体のみ。しかし学園長が放った言葉の中には、四体。


「まさか……!!」


「察しの通り、私達は既に二体の破壊級エネミーに襲撃されているわ」


 これは広樹が、激闘の末に受けたダメージにより寝ていた時の出来事。

 広樹が病室で眠り、様々な問題を対応していた超能力社会のある日に、奇妙な人型が現れた。完全に人語を解し明らかに知性も持っている、パッと見少年みたいな体格を持ち、全身クリスタルで出来ている人型エネミーが何処からともなく、現れた。


 困惑する能力者達にそれは、自身の事を『究極アルティメット』と呼称したのだ。


「それからはもう地獄だったわ。あらゆる能力を物理で突破し、あらゆる術理も理不尽な力で覆すそのエネミーに、上級能力者部隊が全滅にまで追い込まれた」


「学園長がいなかったら……まぁ色々終わってたな」


 苦笑しながら言うサイだが、その言葉に込められた意味はかなり重かった。サイが言った終わるという言葉。恐らくそれは、能力者達の命でもあるし、能力者全体の文明や文化。果てにはこの地下世界全体の崩壊を示す物だった。


「それでも私が出来たことはアイツを足止めするだけ。異空間に飛ばしても、何故か空間ごと引き裂くし、それで何重にも空間を囲っても得られた結果が一定時間だけ動きを止める程度。時間を止めようにも、何故か動けるし本当に最悪だったわ」


「……そんな状況で、どうやって対処できたんだ……?」


「残念だけど、対処できてないのよね……」


「は?」


 動きを止める程度と学園長は言ったが、それだけでは襲撃したエネミーを倒せるわけではない。現に学園長やサイも生きていて、この地下世界も存在している。ということは何とかそのエネミーを退けたのではないのかと思う広樹だが、どうやら違ったらしい。


「私に出来たのは、足止め程度だけで本当に何も出来なかった。それなのにあのエネミーは刻一刻と空間を破壊し迫ってきていた。そんな絶望の最中にそれは起こったのよ」


「……何が起こったんだ?」


「突然の反応消滅。勿論私は愚か他の人は何もしてないわよ? ソイツが、私の作った異空間からいなくなったの。それはもう忽然とね」


「当時のオレ達は、その理由が分からなかった。だが二回目に別の破壊級エネミーが襲撃してきた時に、確証を持てたんだ」


 次に現れたのは地下世界ではなかった。それなら何処に現れたのか。探知系能力者が気付かなければ恐らく誰も気付かなかったであろうその場所。答えは単純、月の地上に現れたのだ。


「ソイツもアルティメットと同じ言語を解し、知性も持ってた」


 そしてそのエネミーは自身の事を『巨人ギガンテス』と呼称したらしい。その名の通り、圧倒的な巨体を誇る黒い鎧の人型エネミー。


 その大きさは、月の約半分。


「映像出力で見た当時は、軽く絶望したわね。そんな巨大なエネミー、一体どうしろと言うのさ」


 その動作一つ一つが必殺だ。それでも尚、アルティメットと同じくこの地下世界が残っているのだ。曲がりなりにも、どうにか退けたはずである。


「この地下世界を作った当時は、少しずつ月の核やら何やらの周りの空間を弄って朝と夜を再現した。空気も自然も取り入れ、環境を整えた。あの時は小さかったけど、少しずつ居場所を広げていって漸くここまでの広さになってきたのよ? 逆に言えば、私が空間を弄れる範囲はちょっとだけ」


 だがそのちょっとだけの範囲は、人間の視点から見てもかなり広さを持っているのだろう。だがその程度の範囲には、月の約半分の大きさを持つギガンテスには届かなかった。


「だから時間を弄った。アイツの思考でも、動きでも、神経でさえも、とにかくアイツの動きを鈍らせることに集中したわ」


 何せ相手は動くだけでも必殺。一歩だけでも動いていたのなら、地表を打ち破って地下世界に甚大な被害を出していたのだろう。そしてそれから、約一時間後。突如としてギガンテスの反応が消えた。


「この現象はアルティメットの時と同じ状況だった。そして私達は死に物狂いで調べた結果、次の結論を出した」


 ――破壊級エネミーには、活動限界時間があると。


「アルティメットが活動してた時間は一時間と十三分。ギガンテスが活動してた時間は一時間と二分。この二つの個体が活動してた時間にある程度の差はあれ、大体一時間前後が限界だと結論を出したわ」


 勿論それでもその結果が間違いだと言う可能性は存在していた。しかしそれが存在していたからこそ、彼ら能力者達は、出した結論を信じたかったのだ。


「幸いあの二度の襲撃以来、何も問題は起きなかった。それでも学園長がいなければオレ達はとっくに死んでいたんだ」


 そのあまりにもなスケールの大きさに、広樹は言葉を失う。そんな広樹に学園長は、真剣な様子で口を開いた。


「広樹君。貴方の力を借りたいの」


「俺の……力? でも『今の』俺は能力を使うことが出来ないんだぞ?」


「ふふ……そんな言葉を聞いて、私が諦めるとでも? それに貴方の目を見れば分かるわ。貴方はまだ何も諦めていない。だからこそ私に今の自分の状況を素直に言った。違う?」


「…………」


「貴方の能力は私が責任と全力を持って戻させるわ。だからお願い――」


 そう言いながら学園長は、広樹に頭を下げる。


「――破壊級エネミー二体と交戦し、生き延びた貴方の力を……貸してください」


 それから広樹が口を開いたのは、一瞬の事であった。広樹の返答は学園長に言われるまでも無く、既に決まっていたのだ。今でも人々を救いたいという気持ちはなくなっていない。それに攫われた妹助ける為にも、強化の力が必要なのだ。


「……学園長が頭を下げる必要なんて無いんだ」


 そう言って、広樹は学園長に頭を下げた。深く、自身の思いを吐露する気持ちで折り曲げながら。


「お願いします……俺をこの学園に入れさせてください!」


 破壊級エネミーという絶望を聞かされても、その信念は未だに消えず。


「……俺に力を取り戻させてください!」


 寧ろ己の信念がより強固になり。


「俺に……皆を救うための力をください!」


 全てを救う。そんな広樹の信念は、より固く、決意を改めたのであった。

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