第3話 学園と時空
サイの案内で学園に行く間、広樹は周囲の町並みを見た。近代的な町並みかつ、どの建物もデザインが統率されており、日本みたいに家ごとにバラバラな様相ではない。これを見れば確かに、ここは日本ではない。まさしく、異郷の地。それも月の地下世界だというのだから、格が違う。
「あっそうだ。学園につく間、これを読んで見たほうがいいぜ」
まるで今気が付いたというような様子で、サイは広樹に一つの分厚い本を手渡してきた。
「何これ?」
「パンフレット」
自信満々にパンフレットと言うサイに、広樹は彼女の頭の中を心配した。心配し、一応そのパンフレットと呼ばれている本の表紙を見る。なるほど確かにそこにはパンフレットと書かれていた。パンフレットと書かれているからには、勿論学園の名前も書かれているのだろうと、広樹は学園の名称を探した。
「これは……酷い……」
数瞬掛けて見つけた学園の名前を見て、広樹は脱力をした。何故ならその名前は『超能力学園』と、そう書かれていたのだ。
「なぁこの学園の名前って――」
「読んで見たほうがいいぜ」
広樹の疑問をばっさり途中で断ち切って、サイは広樹にパンフレットの内容を勧めた。その露骨な誤魔化しようを見た広樹は、このネーミングについて突っ込むのは止めようと決意をする。
「えー何々……」
要約すると以下のような内容である。
超能力学園とは、能力者の保護並びに超能力の育成を目的とした施設です。
また、近年多発しているエネミーを対処するためのカリキュラムも導入しており、毎年更新される最新設備で生徒を全面的にバックアップします。設備だけではなく教員達も皆優秀で生徒達は教員達に気軽に相談できます。そして万が一にも生徒達に危害を加えられないように学園長自ら施した結界により、学園のセキュリティ周りは万全です。
本学園の創設者であるクロノス学園長は、世界を救ってきた実績、そして数多の能力者を保護し、導いてきた実績があります。
歴史の始まりは中世ヨーロッパ初期にクロノス学園長が娼婦の間に生まれてきたのが始まりであり、生まれて早々娼婦達を絶望の淵から救い出し、村の飢餓を解決しました。そこから間もなく軍が侵攻を開始し……。
「途中から学園長の武勇伝しか書かれてねーじゃねーか!」
「うお!? 読むの早いな!?」
広樹がパンフレットを読み始めて反応を示したのは、約五秒後の出来事である。強化された学習能力により、広樹はこの五百ページにも及ぶパンフレットを五秒で読破できたが、広樹が言いたいのはそれじゃない。
「学園に関する内容が三ページ以内で、他全部が学園長の武勇伝ってどういうことだよ?」
「でも面白かっただろ?」
「まぁ想像以上に面白かったけど!」
そう、かなりの厚さであるにも関わらず結構面白いのだ。次々と故郷に起きる事件、その事件を学園長が想像もつかない方法で解決して行き、事件の黒幕を容赦なく断罪する様にスカッとさせる内容で読者を飽きさせない。だがそれはそれ、これはこれである。この様な、世間に出せばベストセラーが確実な内容を、学園のパンフレット程度でやっていい内容ではない。
「まぁこれには深い訳があってな」
そうしてサイが語ってくれたのは、学園のあり方である。この学園の目的は、能力者を育成して、エネミーに対処できる程の実力を持つことである。ここらへんは、パンフレットに書かれていたため広樹も疑問は無い。だが次にサイが話してくれたのは、パンフレットに武勇伝を載せた丸秘情報であった。
「実はこの月の地下世界にいる能力者全員が全員、広樹みたいに後天的に覚醒して保護されたわけじゃないんだ」
この地下世界には、地球出身とは違う地下世界出身の能力者がいる。その遥か昔、学園長の能力により月に地下世界が生まれ、学園長と一緒に移住してきた能力者がいるのだ。彼らは、ここで独自に文化や国を作り、やがて地球とは違う歴史を歩んできたのだ。
だがそんな地下世界にも、とある問題がやってきた。
――エネミーの襲来である。
全ての能力者がこの月の地下世界に移住する前までは、現れなかった異形の化け物共が、この地下世界で文明を築いた能力者達に襲い掛かって来たのだ。確かに通常の人間とは違い、特異な能力を持つ能力者たちだったが、その本質は他となんら変わらない一般人なのだ。
瞬く間に殺されていく一般の能力者。それでも学園長を筆頭に実力を持った能力者達の尽力により、何とか全滅されずに済んだ。
この事態を受け、後に学園長となるクロノスは学園の創立を決意。エネミーにより一方的に蹂躙されないためにも、能力者の保護と育成を目的とした学園を作ったのだ。
だがそんな学園でも、また一つ問題が起きた。
エネミーと戦うことで、自身の子供が殺されるかもしれないと危惧した一部の保護者達は、クロノス学園長が創立した学園への入学を拒否したのだ。
クロノス学園長が持つ能力の特性により、クロノスを筆頭にその盟友である能力者は不老不死である。保護者達はその点を突いて、エネミーが襲来した際、また学園長達が戦えばいいと主張したのである。
だがそれでも学園長達は万能ではない。もしも万が一が起きた際、自衛能力が無い能力者は殺されるだけだと反論するも、一部の過保護な保護者達は聞く耳を持たなかったである。
そこで学園長は発想を逆転させたのだ。保護者が無理のならその子供に、自分の意思で学園にくるようにアピールをすることにしたのだ。
「……それがこの武勇伝か」
「何気に当時の学園長もノリノリだったらしくてなぁ……一時期暴走して、ライブを開こうとしたんだぜ?」
「アイドル活動かよ」
「結果は大成功で、その翌年には入学希望者が増えたらしいとよ」
「成功したんかい!?」
武勇伝に書かれている学園長の人柄には、自由気質で頼りになり、皆に愛される英雄と書かれていたが、どうやらそれは控えめな表現だったようだ。そこまで考えた広樹は、いきなりサイが急に立ち止まったことに気付く。どうやら、サイと話し込んでいていつの間にか例の学園に辿り着いたようだ。
「ようこそ、超能力学園へ。オレ達は広樹の入学を喜ぶぜ」
「――おいおいなんだここは……」
パンフレットで見た構内案内図である程度分かっていたが、実際に見るとではその迫力は断然違った。超能力学園それは、地下世界中の有望な生徒を集めた本校舎を中心に、様々な建物が乱立する巨大なマンモス校だったのだ。
「あそこに見える建物は『音楽館』。あそこは『科学館』。あっちは『国際館』……と言ったように、ここの学園は科目毎に建物を作ってるんだぜ」
「『全ては様々な能力を持つ能力者のため』……地下世界といい、やってる事が大きすぎる……」
「さぁ、感想はそれぐらいにして、学園長室に行くぜ」
◇
本校舎に入り、エレベーターに乗って最上階である十階に着くと、そこには学園長室と書かれている巨大な扉があった。サイはその扉の前に行き、ノックをした。
「学園長。広樹が目覚めたんで、連れてきたぜ」
「お前……学園長の前でもその口調なんだな……」
いつも通りな口調のサイに呆れる広樹。サイのノックから数瞬が経ち、中から一人の女性の声が聞こえた。
「入っても良いわよー」
学園長も学園長で軽い口調を発したことにより、広樹はこういうもんだなと、内心諦め半分で慣れることに務めた。学園長の入室許可を貰ったサイは、巨大な扉を開き広樹を中に招き入れた。
中は一般的な執務室と何ら変わらない内装だったが、よく見れば広樹から見て右側にはプライベートルームと書かれている扉があった。どうやら学園長はここで寝泊りをしているらしい。
「ようこそ広樹君、この能力者の世界と我が学園へ」
「……斉藤広樹です。よろしくお願いします」
机に座り、広樹の来訪に喜んでいた人物こそが、この能力者世界の英雄にして、遥か昔から存在していた生きる伝説にして偉大な能力者、クロノス。妙齢な女性でありながら、静かに微笑むその仕草は、大人の色気が漂っており、十人中十人が見ても満場一致で美女と形容される外見をしていた。と言っても、強化により感情の制御が出来ている広樹には関係ないことだが。
そんな学園長だが、丁寧な口調で自己紹介をした広樹に不満な表情を隠さずに、頬を膨らませた。
「やーね、普通に喋って頂戴広樹君。 サイちゃんみたいに、ね!」
「は、はぁ……」
目の前の美女は、軽く数世紀は生きている伝説の能力者である。明らかに自分より年上で、尚且つ初対面の人間に楽に話しても良いと言われても、流石の広樹でも返答に詰まった。そんな広樹に、学園長は不思議そうな顔で広樹に尋ねた。
「あら? もしかしたら年上のお姉さんだと緊張するタイプ?」
「――は?」
見当はずれな問いに、広樹は瞬きをした。
――その一瞬。
妙齢な美女である学園長の外見が、広樹と同程度の年齢の美少女に変わっていたのだ。
「これなら楽にして貰えるわよね♪」
顔には出さないが、広樹は内心驚愕していた。そして同時に思い出したのである。目の前にいる能力者は遥か数世紀を生きている伝説の能力者。その能力ゆえに不老不死。そして月に巨大な地下世界を作り出したその能力とは。
時間と空間を司る『時空』の能力者。
「私の名前はクロノス。この学園の長であり、この地下世界の長よ。よろしくね♪」




