第2話 制限された能力
あれから暫く経った後、広樹は失った己の体力を回復するということでサイと別れ、病室に戻ることにした。しかし回復をするといっても、『強化』の影響か広樹自身の体力は既に回復していた。未だ健在な常識外れの身体能力にホッとするも、まだ頭痛が治まっていないことに疑問を覚えたのだ。
広樹の能力は『強化』。自身の身体にのみ適用され、集中力が続く限り強化することが出来る。強化できる内容はかなり幅広く、身体機能の強化は勿論、五感を含めた神経関係と霊的な精神能力や単純な筋力、自身に及ぶ悪意ある能力に対する耐性など、異常に汎用性が高い。
その際、広樹の学習能力も強化されているため、能力を使った傍から素の身体能力が上書きされていくのだ。それにより、度重なる戦闘から帰還した広樹の身体はもはや超人並みと言えよう。
勿論広樹自身の回復力も異常と呼ばれる程高いが、それでも未だに頭痛が治らないというのはおかしい。
「試してみるか……一年ぶりの『強化』!」
そう言って、自身の能力を発動しようと集中する広樹。
――その瞬間。
「――痛っ!?」
頭に激痛が走り、集中が切れた。そして広樹の集中力が切れた瞬間、発動しようとしていた能力は発動できずに霧散したのだ。
「……まさか」
再度、自身の能力を使う為に集中する広樹だが先程と同じように頭痛が起き、能力の使用が阻害された。それから何回も試みても結果は同じだった。
「能力が……発動出来ない」
広樹の予想以上に、あの戦いから受けた傷は深かったのだ。
◇
それから何度も能力を発動しようとするも、一向に進展しないまま一度寝ることにする。そして翌日の昼一時に起きた広樹は、想像以上に熟睡していた事に驚く。
「まさか、気付かない程ダメージが残っていたのか……?」
それと同時に、昨日常に感じていた頭痛が治まっていることに気付く。
「もしかして、後遺症の治癒に時間が掛かったから寝坊したのか」
言うまでも無いが、現在の広樹の回復力は異常である。ロードの攻撃により切り飛ばされた腕を瞬時に接合し、スピリットにより傷つけられた脳が一年で回復すると言った例があるので、もしかしたら昨日の能力が発動出来ない状態も回復されているのかもしれないと、僅かながらに期待を抱く広樹。
「よし……痛っ!?」
だがそんな期待は、能力を発動しようと未だに頭痛が起きた事により消えてなくなった。
気分転換にと、それから能力なしで身体の調子を確かめていた広樹に、見舞い人がやってくる。一年という月日が経ったことで、身体が成長した彼女の名前はサイ。そんな彼女を見た広樹は、改めてサイの姿を見る。そして、ある事に気付いた。
(何か……大きくなってないか?)
言うまでもなく、胸の部分である。瞬時に過去のサイと現在のサイの姿を、一寸も狂わずに比較できる己の記憶力と超人並の身体能力を持っていながらもちゃんとそういう感覚も残っているんだなと己に呆れる広樹であった。
「……? どうしたんだ?」
「えっ!? いや! ど、どうしたって?」
「いや、何か遠い目をしているし……」
「べ、別に? なんでもないよ?」
流石に貴女の胸を見てましたという馬鹿正直に言うわけにも行かず、挙動不審になる広樹。何とか話題を変えようと広樹は、サイが何やら大きめの袋を持っていることに気付く。
「それって……制服か?」
「そうだぜ。これから広樹はその制服を着て、学園に通うことになるんだ」
「ほー……学園か……は? 学園?」
サイの言葉に思わず聞き返す広樹。まさかサイの発言から学園という言葉が出ると思わなかったのだ。
だがしかし、思えばサイ達の発言でそれらしき単語を聞いた様な気がする広樹。学園長、先輩、先生……確かに学園に関係する単語ばかりだ。だが学園と気付くまでの広樹は、勝手ながらもサイ達が所属している組織というのは、軍事組織なのではないかと勘違いしていたのだ。
これには、サイ達が会話の端で聞いた能力者を保護するという任務。能力者の中でもランク制があり、まるで階級みたいな制度があると言うこと。広樹が勘違いするのも無理は無かったのだ。
「……感覚では一瞬の出来事のように思えるけど、実際は一年経過したわけだよな……今更学園に入るのかって気持ちが無くは無いのだが……」
「広樹はまだ十七歳だろ? ならまだ高校生で、学生をやるべきだと思うんだ」
広樹自身の記憶では、自身は十六歳だと思っていたがそういえば一年経っていたと思い出す広樹。それにまだ十七歳と言われても、広樹は捨て子であるため本当の年齢は分からない。しかし、拾われた年を生年月日にしたため、戸籍上では十七となっているはずだ。
「それに学園長から許可を貰ってんだ。因みに広樹に拒否権は無いぜ? 無数のエネミーを蹴散らせて、あの破壊級のエネミーを倒すし、その功績を考えても学園長からは絶対に学園に連れて来るようにと言われてるんだぜ?」
サイが語ってくれた内容に、否応にも学園に通わされる羽目になる未来を思い浮かび、苦笑する広樹。そこで広樹は、サイが言った内容の中に気になる発言を見つけた。
「破壊級? それってもしかして、あの人型エネミーの事か?」
「あー……この名称は広樹が寝てる間に決まったんだ。すまんもっと早く言うべきだったぜ」
「いや、いいよ。俺も忘れてたからな」
デストロイヤー、つまり破壊者。何もかも破壊するモノ。惑星規模相当の能力を持つロードのような規格外エネミーの事を定義とする名称。なるほど癪だがあの出鱈目な力に相応しい名称だと広樹は思い、それと同時にもう二度と会いたくないとげんなりした。
確かにロードは、広樹が放った攻撃により血反吐を吐き倒れたと言うことを記憶しているが、それでもちゃんと倒したと断定するのは自信が無い。それほどまでに、破壊級エネミーは驚異的だったのだ。それにスピリットとかいうロードと対等な関係にあると思われる存在もいる。能力者たちがこの人型エネミーに対して名称をつけたと言うことは、何かしら対策なども一緒に考えたに違いない。
だが今はエネミーの事よりも、学園の事を優先する広樹であった。
「まぁそのことはいいよ。で、いつ学園に行けばいいんだ?」
「そうだな、この一年間何が起きたか後で話すぜ。学園については、取りあえず広樹の体調が回復したらいつでもいいが、流石にあと一年とかは無理だぞ」
「流石にそこまで掛からねーよ。それじゃあ今すぐにでも行くか」
「え? お前もう身体は大丈夫なのか?」
「あぁ、一年しっかり寝たからな。ちゃんと回復してるよ。それにあともう一日療養とか言われても、何もすることはないし」
「そうか……まぁ広樹がそういうならいいけどよ。無理しないでくれよ?」
そう言いながらサイは、広樹に制服が入った袋を差し出す。広樹はそれを受け取るが、そこでジッとサイの顔を見つめた。
「……? どうしたんだ?」
未だに気付かないサイに、広樹は頬をかき、気まずい様子でサイに答えた。
「これから……着替えるんだけど……」
それを聞いたサイは一瞬の間が空き、漸くその言葉の意味を理解したのだろう。顔を真っ赤にしながら「す、すまん広樹!!」と慌てるように言い、急いで病室から飛び出す。
途中、病室の扉を閉めていないことを思い出したのかまた病室の前に戻り、扉を勢い良く閉めて今度こそ退散した。
「はは……アイツあんなおっちょこちょい奴だったっけ?」
そう言う広樹だが、サイ達と過ごした時間は僅か三日ぐらいだ。広樹がサイのことを知らないのは無理のないことだった。
それから着替えが終わり、サイに連れられ病院から出た広樹は、空を見ながら呆然と呟いた。
「なぁサイ……俺が見ている光景は……嘘じゃないよな……?」
「? 何が?」
だがサイは広樹の言う意味が分からないらしく、首を傾げた。だがサイの反応は正しい。何故なら広樹が見ているのは、空の遥か先。強化で超人と化した視力があったからこそ、広樹が見えたのは本来地球ではありえない光景がそこにあったのだ。
やがてサイは心当たりに見当がついたらしく、口を開いた。
「あぁそうか! 今広樹が見ているのは何かの町だろう?」
そう広樹が見えたのは町だ。町が逆さまになって、空の遥か先にある地面に建っていたのだ。
「オレには遠くて見えないが、そうか広樹は視力を強化したから見えたんだな」
今は能力が使えないため、その認識は間違いだ。正確には強化のし過ぎで素の視力が異常になっているわけだが、広樹は自身が見ている光景に呆気に取られているため訂正する余裕が無い。
その広樹の反応が面白いのか、サイは笑いながら大げさに説明を始めた。その説明は広樹の常識を軽く飛び越え、頭の中を混乱させた。
「ようこそオレ達の世界へ! ここはアンダームーン」
――月の地下世界さ!




