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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第一章 失った時間を取り戻すために
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第1話 物語の始まり

「波長、リンク成功……――よし! この反応は間違いなくあの少年……ッ!?」


 自身の能力が目的の所へと繋ぐことに成功した女性、周囲から学園長と呼ばれる彼女は、その手応えに喜びの声を上げる。

 だが、現在の空間と別の空間を繋ぐワームホールから出てきたのは、血みどろの少年だった。


「広樹!? 広樹おいしっかりしろ!!」


 その状態を見て真っ先に反応したのは、サイと呼ばれる念動力の能力を持った活発そうな少女。だが広樹と呼ばれた少年の状態を見るや、泣きそうな顔をして広樹を揺さぶっていた。

 呆然とその様子を見た学園長は、一瞬で我に帰りサイを止める。


「待ちなさい、サイ。そんなに揺さぶると余計に悪化するわ」


「で、でも!」


「大丈夫よ。病院へと繋ぐ空間を構築したわ」


 見れば学園長の隣にはワームホールが出来ていた。そのワームホールの中はまったく違う光景が現れており、学園長が言うには、その先は病院という場所に繋がっているのだろう。

 それを見たサイは、そのワームホールに連れて行こうと広樹を持ち上げようとする。だが素人考えで満身創痍の広樹を動かすのはむしろ悪手。咄嗟にサイを止めて、ワームホールの中から救護班が来るまで応急処置を施そうとする学園長。


「やっぱり、酷い状態ね……」


 学園という学びの園の長をやっている彼女には当然、応急処置に対する知識はある。それも下手をすればそこら辺の医者よりかは、経験も知識も持っていると自負しているぐらいだ。

 そんな彼女が見た広樹の容態は、とても不味いものだった。


「外見に傷跡は見られない。この血は全部返り血なのかしら? しかし頭部の出血が酷いわね」


 広樹が着ている服は、これまでに想像を絶する戦闘を経たのだという事が分かるほどにボロボロだ。だがその下を見ると傷は見受けられず、服についているかなりの量の血痕は返り血なのでは、と判断する学園長。

 しかし学園長が診断した通り、それ以上に酷いのは頭部の出血。目や鼻、耳からも血を流している広樹の状態は、脳にかなりのダメージを受けていると予想できた。


「不味いわ……能力者にとって脳は一番重要な部分よ……。一体あの場所で何が起きたの?」


 脳にダメージを受けているのなら、これ以上の応急処置を施すことは出来ない。これ以上悪化しないよう、頭を動かずに他の負傷している箇所を探す学園長。

 呼吸は小さく、鼓動は弱い。だが身体には一切の傷跡が見受けられない。一先ず、広樹の主な容態はその頭部にあると判断した学園長は、病院へと繋がっているワームホールに向かって、迅速な行動を呼びかけた。


 それから僅かもしないうちにやって来た救護班が、広樹を慎重に運び出す。あとは彼らに任せるしかない。そう思った学園長は、今いる遠隔支援ルーム内の人々を見た。

 誰も彼もが、今の状況を喜ぶことをしていない。本来は、この部屋で察知した新しい能力者を保護するという任務を受け持っている彼らだ。それがその新人能力者に、エネミーの脅威から助けられ、挙句の果てに保護するはずの能力者が、自分達を庇って重傷を負ったのだ。


「これは……時間が掛かるかもね……」


 そう言って、学園長は一人の少女を見る。名前はアイ。サイの姉でありながらサイよりも子供っぽい体型をしている彼女はしかし、その凛々しい顔つきからは想像出来ないほどの絶望を宿した表情をしていた。

 満身創痍の広樹がやってくるまで、聞けばアイは広樹と別れる際、広樹の腕が切られた光景を見たのだという。そういう衝撃的な別れ方を経たアイの心情は如何なものか。それもそれまでは自身の能力の副作用により、広樹が抱えながら守られていたのだ。そんな彼女が、先程の広樹の容態を見れば内心どう思っているのかは想像に容易い。


「本当に……一体どうなっているのかしらね……」




 ◇




 まどろむ意識。瞳が重く感じ、身体が思うように動かせない。それでも己の喉から発する飢渇感が、水を欲しようと手を必死に動かす。宙を彷徨い、それでも何も掴めていない己の手に疑問を感じ、ゆっくりと目を開けようとする。


「……ここは」


 まるでカメラがピンボケしているかのような光景に広樹は戸惑いの声を上げるが、時間が経つにつれて徐々に視界が鮮明になっていった。

 そこで認識した光景は、清潔そうな白い天井。己の視界が正常に戻ったことを確認した広樹は、周りを見渡そうとした。

 白い壁に、窓に映る晴れ晴れとした青い空。夏の香りが窓から漂い、そよ風が白いカーテンを膨らませる。そこで広樹は、自分がベッドの上で寝かされていることに気付く。


「ん……重い……」


 言うまでもなく重いのは自分の身体だ。ベッドから起き上がろうとする広樹はその鈍重な己の身体に違和感を持った。


「こんな重かったっけ……」


 四苦八苦しながら漸く上半身を起こせた広樹。今度は自分の足をベッドから下ろそうとするが今度は頭痛が起きる。

 これは寝すぎた時に頭痛がする現象で、確か偏頭痛と緊張型頭痛だとということをかつて見た番組を思い出した広樹。それと同時に対処法も思い出すが、広樹はそれを無視して起き上がった。

 今広樹がやろうとしていること。それは自らの状況を把握することだった。


「ここは……病室?」


 思えばこの清潔そうな白い部屋にベッドがあるということは、ここが病室だと主張するようなものだ。かつて人を助けるために無茶をして、毎回入院し、義理の妹に心配させていた幼少の頃を思い出した広樹は、その時の自分に苦笑をした。

 さっきは自分がどこにいるのかを把握した。次はどうして自分が病室にいるのかと考える広樹。暫くすると、広樹は漸く自分がここに寝る前の最後の記憶を思い出した。

 それはまるで非日常の光景。自分に能力が芽生え、エネミーと呼ばれる人外の生物が襲い掛かってきた光景。それと同時に次々と思い出す記憶。


「そうだ……ロードにスピリット……! ここが病室ということはあの惑星から脱出できたのか?」


 そこまで思い出した広樹は、ふらつく己の身体を何とか動かしこの部屋から出ようとするも、部屋から出ようとする直前、足が絡まり転ぶような形で部屋から出ることになった。


「イテテ……」


 幸いドアが開け放たれていて良かったと感じた広樹。だがそんな広樹に一つの甲高い声が掛けられる。


「ひ、広樹!!」


「うぐ!?」


 そう言って一人の少女に抱きしめられるような形で固まる広樹。その重たい己の身体に人一人分の体重が掛けられた事に苦悶の声を上げるも、その少女から感じる二つの柔らかい感触に広樹の鼓動は早くなった。


「良かった、本当に良かった! やっと目が覚めたんだな!」


 肩にまで届くセミショートの少女。しかしそんな少女に広樹は見覚えがなく困惑する。あと胸がデカイ。


「え、ええと君は?」


 その広樹の言葉に、少女の動きが止まった。そしてまるで出来の悪い機械の様に顔を離れる少女の顔は、泣きそうな表情をしていた。


「……もしかして、覚えてないのか? 脳にダメージがあるから後遺症が残っているかもしれないって言われてたけど、まさか記憶喪失!?」


「ちょ、ちょっと待て! そんなに揺さぶるな!」


 肩を揺らしながら泣く少女に、広樹はなんとか押し留めようとする。だが少女が発した次の言葉により、広樹の思考は真っ白になった。


「オレだよ! サイだよ! 本当に覚えてないのか!?」


「……は?」


 だがそう言われれば、今目の前にいる少女には、かつて自分と一緒に戦った能力者の少女と似ていた。そう、似ていた。そして広樹は気付いた。どうして自分は今まで気付かなかったのかと。それはそうだ。何故なら今の少女は、広樹が記憶しているサイという少女よりも……。


 ――成長していたのだ。


「サイ? サイなのか?」


「やっぱり覚えているんじゃないか!!」


 そして再びサイに抱きしめられる広樹。だがそれよりも広樹の脳裏に浮かんだ可能性が、広樹を余計に混乱した。


「どういうことだ……? だって俺が記憶していたサイよりも、その……成長している?」


「へ? ……あ、ああそうか、オレ……広樹から見ると成長しているのか……」


 その広樹の言葉に顔を赤くしギクシャクしながら離れたサイは、広樹を起こそうと手を差し伸べた。広樹もまた差し伸べられた手を握り何とか起き上がる。


「なぁサイ……俺は……どれ位寝ていた・・・・・・・?」


 寝起きで頭痛をしたあの症状。あれは寝過ぎにより起きた物で、そして能力があるにもかかわらず身体が鈍重になっていたことから、自分は長時間寝ていたことになる。

 そして今目の前にいる少女の成長。もし広樹が長時間寝ていたことになったら、その時間分彼女は成長したことになるのだ。

 確信を持って放った広樹の質問に、サイは目を見開き、僅かに逡巡するもやがて口を開いた。


「一年……広樹、お前は……一年眠っていたんだ」


 広樹が起きるまでの、時間の流れをどう説明しようかと色々考えていたサイだが、今の広樹の顔を見てストレートに説明をすることにした。それで広樹が悲しみ、己に当たる事も覚悟していたサイ。しかし、それに反して広樹の反応は全く逆の反応を見せた。


「……そうか」


「……え? いや一年だぜ? もっとこう……なぁ?」


 サイがそう困惑するのも無理はない。普通だったら一年という月日に何かしら感情を示す物だ。かといって、広樹自身も何も感情を浮かべなかった訳ではない。広樹は広樹で、内心驚愕していたのだ。一年という短期間・・・の内に目が覚めたことに。


 広樹は思い返す。あの時、ロードの惑星テリトリーにいた時の事を。ロードと同程度の存在であるスピリットが、広樹に対して行った『能力封じ』。スピリットが広樹の頭に何か行い、広樹は能力を得てから久しぶりに激痛を感じたのだ。


(そしてあの時、最初に激痛が起こったのは頭からだった)


 広樹はそこで、頭つまり脳に該当する部分こそが、能力者の根源だと核心に近い予想を立てた。奇しくも学園長が診断時に漏れた言葉と一致しているが広樹は知らない。

 だがそれでも己の建てた予想により今、己が目覚めている事こそ奇跡に近いと想像する。


 もしも、もしもあの時無意識の判断で自身の能力である『強化』を、スピリットの『能力封じ』に対する強化・・をしなかったら……。


 ――最悪このまま目覚めない可能性だってあったのだ。


「――広樹?」


「なぁ、サイ」


 だがもしもはもしも。あったかも知れない架空の想像を隅に追いやり、広樹は今目の前にいる一人の少女に言わなければならない。


「な、何だ?」




「これから、よろしくな!」




 これは、少年の全てを救うという理想を追い求める物語……。

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