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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
プロローグ 願いを受け継ぐ貴方に
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第2話 今はまだ自由に

 あの大型トラックの衝突事件から一日経った。


 斉藤広樹はこの身に何かが起きていると自覚していた。

 あの事件場所で人々の目から逃げるように走る少年は、有り得ない程のスピードで移動できることに気付く。


 そして数時間もすれば、少年はこの異常な身体の『法則』が分かるようになったのだ。

 集中すれば1キロ先の音を拾え、この目は見渡す限りの光景を見通せた。

 だが普通に集中するだけでも力が勝手に働き、力を制御出来ない最初は頭痛を感じる日々を送るもすぐに解決した。


 広樹の思考は常に冴えてる状態のようになっており、一度見た物は完全に記憶出来るようになっていたのだ。

 これにより広樹は僅かな試行錯誤だけで自らの能力を短時間の内に把握できるようになり、一通り確認した広樹はこの力のことを『強化』と呼んだ。


 何故ならばそう名付けたのに相応しい効果が備えられていたからだ。


「なんだこれすげぇ……!!」


 今、広樹は山の中をかなりの速度で走っていた。

 木々を避け、地面に這っている根にも足を取られずに走っていく。


 強化された感覚によって最適な走行ルートを捕捉。

 そしてその異常な感覚に対応する様に体が自由に動く。

 強化された肺や心臓により息切れする事も無く走り続ける。


 傍から見れば電車と同程度の速度で走っているのが分かるだろう。

 だが少年はその事に気付くこともなく、ただ只管に夢中になって疾走する。


 走り続けると目の前に崖が見えた。


 それでも少年は止まらず、むしろ更に加速するように足に力を込める。

 そして崖が目の前についたその瞬間、広樹は足のバネを強化するように集中し力を込めて跳躍したのだ。


「イィィィヤッホォォォォォ!!!!」


 気が付けば、自分は空を飛んでいた。


 先ほど見た崖が遠ざかるのが見え、未だに自分の身体は空へと上昇し続けているのが分かる。

 眼下では緑色の絶景が水平線まで続いているのが分かり、吹き荒ぶ心地よい風が身体を包み込む。


「最ッ高……!」


 まだ能力の検証は始まったばかりだ。




 ◇




 結局能力の検証が終わったのは深夜に届く時間だった。

 この山から自分の住んでいる町に戻るには電車に乗らなければいけなかったが、とっくに終電を過ぎているということに広樹は脱力する。


 そこで普段の自分なら何処かに泊まるだろうが今では便利な能力がある。

 広樹は自分が住んでいる町の方角を強化した感覚で確認した後、先程崖から跳んだように自身の脚力を強化した。


 そして飛距離を上げるために助走し、一気に跳躍する。


 景色がかなりの速さで広樹の後方へと流れていく。

 幸い今は深夜帯であるため今の自分を見る人はいなかった。

 やがて上昇し続けるのが終わると、自分の身体は降下し始め、地面に着地するとまた助走して跳躍した。


 これを5回ぐらい繰り返すと漸く自身が住んでいる町が見えた。

 街に近付いて行くにすれ、広樹は自身の能力について思い出す。


 山の中で検証した結果分かったのは、『強化』という能力は文字通り自身の能力を強化するということ、それも能力というと感覚や身体だけではなく体温や適応能力、果てには霊感なども強化できるということが分かった。


(霊感強化したときはどうなるかと思ったぜ……)


 ただ強化できるのは己自身のみで木の枝を強化しても何も変わらず、振りかぶっても広樹が持っている木の棒は真っ二つに折れた。

 それによって強化の範囲に欠点があるということが分かったがそれといった制限は見当たらず、集中力の続く限り強化を維持できた。


 未だに強化の上限が見えない自身の能力。

 その強力な力が己に備わった現実に最初は困惑した。

 だがそれでもこの能力が危険になるか救いになるかは己次第。


 少なくとも斉藤広樹はこの能力について感謝していたのだ。


 物心ついた時、虐めや悪いことを見かけるとすぐに飛び出して関わっていくようになった。

 別にその人を助けたいわけじゃない。

 むしろ何故自分がこんな面倒事に関わっていくのか不思議だった。

 周りが言うように正義感がある……というわけではない。

 

 ただ、身体が勝手に動く。

 

 例え助けに行く先に危険があろうとも、飛び込んでいった。

 助けに行くのを止めたら、目の前にいる人はきっと何かを失うだろう。

 そして自分も、その人と同じ何かを失う。

 

 ただ、漠然とそう思った。


 空中で町を流し目に見て、強化された感覚でこの町に起きている事件を探す。

 すると二つの場所からこんな話声が聞こえる。


『頼むっ! 娘を返してくれ!!』


『俺からの要求は一つ。現金で3億を用意しろ』


『そんなっ!? こちらは借金だらけでそんな金は無い!!』


『ならお前の娘を売るしかないな』


『止めろ!! ……まさかお前なのか!? 俺達を嵌めて多額の借金を背負わした詐欺師は!!』


『よく気付いたな。こちらはお前の娘を渡すつもりは無い。娘を売って金を稼ぐのが俺達の目的だ』


『何故、何故こんなことをする!!』


『借金を背負わして、実の娘を奪われた表情を楽しみたいだけだ。それ以上もそれ以下も無い』


『この糞野郎!! ……おい! おい!? クソっ!!』


 これはどうやら最近多発している詐欺師グループの誘拐事件のようだ。

 先程二つの場所から聞こえたのは電話の声らしい。

 一方は被害者の声で一方は詐欺師の声だ。


 斉藤広樹は全速力で詐欺師の声がする方向に向かった。




 ◇




 病院の廃墟にて、複数の男がたむろっていた。

 どうやら彼らがここ最近ニュースでやっている詐欺師達の集団らしい。

 そして男達のいる部屋の奥には年端も行かない子供達が手足を縛られ捕まっていた。


「ひゃははははは!! どうだ? あの声! すごかっただろ!?」


「いやいや、俺の方がより絶望を与えたと思うぜ?」


 人を不快にさせるような声で話す男達。

 自らの欲望と快楽のために平気で人の未来を奪い、仲間同士で下品に笑い合っている光景がそこにあった。


「パパ……ママ……怖いよう……」


 その姿を見て、一人の子供が恐怖のあまりそう呟く。

 だが恐怖しているのはその子供だけではない。

 他の子供も声に発さないものの恐怖していたのだ。


「あ~ん? 君達のパパとママはね……助けに来れないんだなぁこれが」


「多額の借金を背負わされて誰にも信用されず、警察行っても裁判やっても無理無理!」


「全部グルなんだよねぇ~!」


「僕チンの親戚が警察やら裁判のお偉いさんでねぇ……あちゃ~そんなこと言っても君たちには理解出来ないか!」


『ギャハハハハハ!!!』


 ここに救いはなかった。

 例え男達の言ってることが分からなくとも子供達はその様子から自分達を助ける人はいないと悟ってしまった。

 これから自分達はどんなことをされるのかは未だ幼い子供達は想像できなかった。


 そこに、


『ほう……これは良い事聞いたな』


 突如廃墟に響き渡る少年の声。

 詐欺師グループは突然来た声に驚愕し、子供達はより恐怖する。


「だ、誰だ!?」


「何処にいやがる!?」


 男達は探そうと辺りを見渡すが見つからない。

 

 男達は混乱していた。

 ここの廃墟はだれも近づかないし、仲間の親戚に警察の上層部がいるためここまで捜索されないためここの居場所を知ってるのは自分達とグルになってる奴以外いないのだ。


「な、何!? 真っ暗になった!? 助けて!! 何も聞こえないよ!!」


 唐突に子供達が悲鳴を上げる。

 男達は子供のほうに向くとなんと子供達全員が目を隠され、耳栓をされていたのだ。


「何が起きていやがる……」


『これから起きる惨劇を見せないようにするためさ』


 その瞬間、仲間の絶叫がこの廃病院の中に轟いた。


「な、なんだ!?」


 悲鳴の起きた方向に向く。

 そこには手足を変な方向に曲がれ、泡を吹いて倒れている仲間の姿、そしてその傍には高校生ぐらいの少年が立っていたのだ。


「まさか……てめぇがやったのか……!?」


「お前達は殺さない。グルになってる奴等諸共法で裁いてもらう」


 一斉に襲い掛かる男達。

 斉藤広樹は静かに自分の身体能力と感覚を強化して迎え撃った。


「もっとも楽に気絶させないけどな」


 男達の手には釘バット、コンバットナイフなど殺傷力が高いものばかりだった。

 先ず、手前からコンバットナイフで切りつける男を回避し、コンバットナイフを持ってる右手首を掴まえ、捻り、相手の膝に突き刺す。


「ぎゃああああああ!!!!」


 あまりの苦痛によりコンバットナイフを手放す男だがそれは悪手だった。

 広樹はコンバットナイフを男の膝から抜き、そのままもう一つの膝を切り、倒れた男を地面に縫い付けるように思いっきり肩に突き刺した。


「先ずは一人」


 一瞬で仲間を倒されたことにより他の仲間は硬直する。

 その隙を逃さず、少年は硬直した男達の下へ走り出した。




 ◇




「ほらもう大丈夫だよ」


 目隠しされた子供を廃墟から連れ出し、近くの高台で開放する。

 いきなり視界と聴覚を塞がれ、そして何者かにより運び込まれ、視界が明けたと思ったら見知らぬ少年が目の前にいた。

 先程の廃墟から恐怖していた子供達はパニックになったが少年が自分達を助けたのだと知ると安堵から泣き出す。


「もう大丈夫。君達は家族の下に帰れるんだよ」


 後日、誘拐された子供達が警察の下に送られ、家族と再会した。

 そして子供の一人にある手紙が握られていた。


 手紙の内容は廃墟にいる詐欺師グループの男達の居場所とそのグループに通じている警察の上層部や裁判官の情報があったのだ。

 ご丁寧にそれに関わる重要な証拠等が詐欺師グループの涙の混ざった自白証言とそれを裏付ける証拠もあった。


 だが子供達は誰か救ったのかは口を閉ざして一向に喋らなかったという。


 かくして、一つの謎を除き、世間を騒がしていた詐欺師達の誘拐事件はここで幕を閉じる。




 ◇




 先程助けた子供に広樹が助けたという事を秘密するように言った際、子供達は分かったと言わんばかりに首を振った。

 だがここで広樹は強化の能力を使って、本から学んだ催眠術の能力を強化して使ったのだ。


 結果、子供達は大人達から聞かれても言わないように、まるで一生の誓いかのように黙秘する覚悟を決めたのだ。

 広樹は自身の事を今の所隠したい、しかし強化した催眠能力で広樹の記憶だけ消すとどのような齟齬が起きるのか分からないし、純粋な子供のことだろう大人の理屈によって喋る可能性がある。


 そういった考えから、広樹は半信半疑ながらも催眠術を使ったのだ。

 催眠とは相手の認識や思い込みも含んでいるが、掛けた本人の技術も高くなければ上手くいかないものが多い。

 だからこそ広樹は自身に強化を使い催眠に関わるあらゆる物を片っ端から強化した結果、思いの外上手く行ったというわけである。


 そんな出来事から数時間後、斉藤広樹は自身の部屋で寝転がりこれからの事を考えていた。

 

 自身の能力についての事とその能力を使って自分は何をするのか。

 自身の幼少の頃の願いを思い浮かべるも小さい時から人を助けるために躊躇無く悪人を傷つけていたことを思い出した広樹は結局の所、この能力を得ても変わらないらしい。


 むしろ助けられる範囲が増え、心の底では喜び、知らずの内にこの能力を得たことに感謝していたのだ。


 これから先、自分はどこに向かうのかは分からない。

 だがせめて、せめてその時が来るまで、今はまだ自由に、自らの信念の貫かせて欲しい。

 そう願いを込めて、彼はそのまま目を瞑った。




 ◇




 時は遡り、斉藤広樹が山で空の旅をしている時間。

 ある二人の少女はこの町で右往左往していた。


「私の『千里眼』でさえも反応しないとは、もしやこの町にいないのか……?」


「ね、姉ちゃん……オレ、疲れたぞ……聞き込み調査も進展しないし……」


 昨日の夜に斉藤広樹の家の隣に引っ越したものの、夜遅くに押しかけるのはどうかと思い明日に変更したのだが翌日、彼は家にいなかった。


 アイの能力である『千里眼』でさえも引っかからなかった。

 つまり相手は範囲外の距離にいるということしか推測できず、何処にいるのか聞き込み調査をしても進展はなかった。

 それにこの街の外に出て探しても、対象とすれ違っていたら任務達成が遠のく。


 故にこの姉妹は引越し先の家で斉藤広樹を待つことにした。


「今度こそ見つけてやるぞ」


「散々俺達を探し回せるとはやるな……コイツ」


 結局、深夜になっても斉藤広樹が帰宅する様子も無いので姉妹は寝たが。

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