第17話 激闘の最終幕 前編
お待たせしました。
長くなりましたので前後編に分けました。
遠隔支援ルームにて、自身の能力の消失を確認した一人の妙齢な女性が呟いた。
「――ったく私の力でも二回が限度とか、一体何がどうなっているのよ」
生まれて来て今まで味わったことがない未知の現象。能力の通りが悪く、干渉しようとすればより強固になっていく場所に彼女、能力者を保護し育成する学園の長である学園長は自身の手の及ばない出来事に苦々しく顔を歪めた。
「学園長! 能力者四名の帰還を確認しました!」
自身の手の平を開閉しながら様子を確かめる学園長に一人の男が報告した。
しかし報告した内容には違和感があった。
「――四名? 残りの一名は?」
聞けばあの不可解な場所にいるのは一人の新米能力者に二人の姉妹。
そして彼らを救出するために行った能力者を含めて計五人。
だが帰還した人数はたったの四人だけだった。
「そ、それが……」
「姉ちゃん! 広樹は!? 広樹はどうしたんだよ!!」
男の報告を聞く前に帰還した彼女らの声が聞こえた。
その内容を聞いた学園長は、あの場所に取り残された人物が誰なのか分かった。
「広樹は……あの場所に残った……」
「残った!? な、なんで……」
「あの得体の知れないエネミーを倒すために残ったんだ……」
「馬鹿な! ワシでさえも着いていけるのがやっとな相手だぞ!?」
アイの脳裏に浮かぶのは先程アイを助け、肘から先を切り飛ばされた広樹の顔。
(笑っていた……)
切り飛ばされても尚笑っていた広樹に、アイは何故か安堵している自分に驚いていた。
(私が寝ているときに何かされたのか? この異常事態に私は何故……?)
不思議と緊張も、危機感も、恐怖も和らいでいく自身の感情に戸惑うアイ。
その時、アイの考えを吹き飛ばすように学園長が言った。
「詳細は分かったわ。貴方達準備しなさい」
「学園長……?」
「あらどうしたの? まさかとは思うけどこれから新しく入る新人能力者を諦める私だと?」
その言葉に、遠隔支援ルームにいるメンバーはハッとした。
「し、しかし幾ら学園長の能力を持ってしてもパスが切られた状態の空間移動は難しいかと……」
そして更にあの場所に干渉したお陰で妨害が強化された。
だが学園長である彼女の顔は笑っていた。
奇しくも、その表情が先程の広樹と同じ表情をしていることに目を見開くアイ。
「どうってことないわ。パスが切られたのならまた繋げればいい」
未だにノイズが走り続けているモニターを見て、学園長は不適に笑う。
「私を誰だと思ってるの? この学園の長で史上最強の特級能力者よ! これぐらいどうだってことないわ!」
◇
迫り来る無数のエネミー。
空も、大地も、全てがエネミーの領域。
強化という能力を得た斉藤広樹は今、目の前にあるエネミーの大群と相対している。能力を得て僅か三日。この三日間で得たエネミーに関する知識はたった五種類だけ。
連携を用い、数で攻めるゴブリン。
殺すことに快楽を得る、ジャイアントマーダー。
意思を持つ砲弾を発射する、バスタースパイダー。
空間と空間を繋ぐ、ディメンジョン。
各自然災害の力を司る四体の災害級エネミー。
勿論、今この場にいるエネミーの種類はこの五種類よりも遥かに多い。そのほとんどは広樹の記憶に新しく、見た事がない物がほとんどだ。
だがそんな大群ですら、広樹の敵ではなかった。
「《全力強化》」
全身を均等に、かつ限界まで強化。そこに一切の容赦は存在せず、上乗せされた強化が能力の下限を積み重ねるように強化しながら、更に強化の度合いが加速していく。
それはまさに敵を滅ぼすための能力だった。
拳を振り上げれば、空ごと数千のエネミーの身体を引き裂き。足を振り下ろせば、大地ごと数万のエネミーを蹴散らした。この場に味方も、守るべき対象もいない。いるのは殲滅すべき敵であり、滅ぼすべき害虫だけ。
この時こそ、広樹が能力を覚醒して初めての全力で全開だった。
「バスタースパイダー、全方位掃射」
ロードというエネミーを支配するエネミーの声が聞こえる。ロードの号令と共にディメンジョンの亜空間に隠れているバスタースパイダーが広樹に向かって砲弾を発射する。
かつては強化した広樹の防御を貫通するほどの威力を誇る砲弾だが、限界を超え、未だに上昇している広樹の強化はその砲弾でさえも相手にならなくなった。
「《一点全力強化》」
その言葉を引き金に広樹の右手が白く光り輝き、そのまま地面へと拳を突きたてる。
たったそれだけ、たったそれだけの動作で起こった現象は、広樹を中心にまるで波紋のように地面が隆起していき、周囲の砲弾を吹き飛ばし、空間を生成していたディメンジョンごと内部のバスタースパイダーを殲滅したのだ。
「まさか、まさかこれほどまでとはな!!」
「…………」
「能力者どころか貴様等で言う我ら、エネミー以上の化け物だ!!」
自身をディメンジョンの空間移動で瞬時に広樹の傍まで移動し、ジャイアントマーダーの大剣で薙ぎ払うロードの顔には笑みが浮かべていた。
広樹は迫る来る大剣を手刀でいなし、カウンターをするもいつの間にか現れていたゴブリン数体によりロードへの狙いがずらされた。
「……チッ!」
「流石だ、恐れ入るよ。何故貴様はここまで強いのだ?」
「知るかよ!!」
空間を移動しながら攻撃を加えるロード。
広樹は自身の空間把握能力を強化しロードと渡り合った。
「私がこれまで殺してきた能力者のどの個体よりも遥かに強く、ここまで我のような個体相手にも互角に戦う生物は初めてだ!!」
災害級エネミー十六体に広樹を攻撃せよという命令を出すロードだがそれでさえも広樹の前では有象無象のエネミーと大差はなく、処理するまでの時間はかからなかった。
「今の貴様は普通の人間とは違う。それどころか能力者の世界でも異常だと思われる程に途轍もない力を持っている!! それもあの特級能力者という意味も無い最高ランクの能力者よりも遥かに強いのだぞ!」
「それが……どうしたよ!!」
攻撃を加える。だがロードの身体はまるで霧のように散り、次の瞬間広樹の周りには数百のロードの姿が現れた。
「クソ、幻影の力を持ったエネミーか!」
ここまで戦って分かったことはロード自身、強靭な肉体を持っていること以外特殊な能力が無いこと。
あると言えば多種多様なエネミーを扱うことだった。
今見ている光景はロードのエネミーを支配する力により、幻影の力を持ったエネミーに命令させた光景だろう。だが広樹は一瞬だけ混乱するも強化された学習能力によりにより一瞬で対処法が完成した。
空間把握能力を更に強化。波紋のように知覚感覚が周囲に広がり、圧倒的な存在感を放つ一体の個体を見つける。それ以外は姿形を真似た薄い存在のエネミー。これが幻影の力を持ったエネミーなのだろう。
「そこか!!」
「一瞬で見破るとはな!」
全身を強化して拳を突き出す。だがそれでさえもロードは片手でいなす。
まるでこの程度の攻撃は痛くも痒くも無いというような感じだった。
「まだ強化が足りないのか……!!」
「我としてはまだまだ強くなることに驚きを禁じえないな!!」
実際、初めに現れた時は広樹の拳を片手で受け止めたロード。だが戦えば戦うほど広樹は徐々に強くなっていき、いなさないと多少ダメージが通る所までに強くなっているのだ。
「上限も無い、リスクも無い! 貴様はその能力が異常だと思わないのか!?」
「テメーみたいな奴を倒せるなら受け入れるさ!」
「そうやって強くなっていく貴様はいつか必ず孤独に陥るぞ!」
まるで広樹の事を心配しているような文面だがロードの顔には笑みが張られており、明らかに珍妙な生物を観察しているような視線だった。
しかし広樹はロードの言っていることを一応理解していた。
サイ、アイの姉妹によれば能力者は孤独を嫌う。それは遥か昔に虐げられてきた能力者の本能か、それとも別の要因かは分からないが能力者は孤独に対する耐性が常人よりも低かった。
そして世の常として強者は孤独に陥りやすい。つまりこのままロードを倒すことためだけに強くなっていけば広樹は孤独に陥りやすくなり遠くない内に広樹の精神が磨耗する、とロードはそう言っているのだ。
「ならもう一度言ってやる」
広樹はロードの命令で襲い掛かるジャイアントマーダーを掻い潜り静かに言った。
「テメーみたいな奴を倒すためなら……受け入れるさ」
笑みを浮かべる。
「お前みたいな奴を倒すためならなんだってやるよ」
それは慈悲の微笑みかそれとも無慈悲な狂喜か。
かつてそれを見たサイは安堵を浮かべ、その笑みを見た敵は……。
「……ッ!?」
一斉に恐怖した。




