第16話 援軍
砲弾の一つ一つが意思を持ったエネミーの一部。
避けても生物の反応を確認して爆発し、逃げても自動的に追尾してくる厄介な砲弾。
それが数万の数で放たれた。
強化された広樹一人なら当たっても問題ない。
一人抱えながらだと多少傷を負っても守るきる自身はある。
だがそれ以上だと流石に広樹では守りきれない。
そして今広樹ではサイとアイ、二人の女の子を抱えていた。
(クソッ……! クソッ……!)
広樹は今、ある一つの予感がある。
それは姉妹達の生存危機。
能力があっても身体は普通の人間だ。
広樹みたいに身体を強化して戦うタイプではない。
つまりはあの砲弾を受けても平気でいられる広樹ではないのだ。
確実に姉妹だけは殺される。
――そして広樹だけが生き残る。
(それだけは……)
強化した脚力で後ろへと逃げる。
追いつけないほどに速く、生き残るために一刻も速く。
「無駄な足掻きだな、それで生き残れると思っているのか!」
当然、放たれた砲弾は意思を持って広樹達の後を追尾した。
広樹を殺すために、能力者である姉妹を殺すために、刻一刻と広樹達の下へと迫ってくる。
「…………」
今の所、強化に上限はない。
脚力を更に強化させ、更に加速させる。すると徐々にだが砲弾を突き放すことができた。
そのまま加速すれば砲弾を突き放せる、そう思う広樹。
――だが。
「ウゥ……グゥ! ……ウグッ!」
やはりというのか、腕に中にいる姉妹は苦しげな表情をしていて、呼吸もままならないでいた。
「…………クソ」
普通の身体である姉妹二人に、音速以上の壁は身体に負担が掛かりすぎていた。
強化を緩くすると速度が徐々に落ち、エネミーの砲弾は広樹達へと迫っていく。
更なる加速は出来ない。それ以上に、今のままの速度でも姉妹達にとってかなりの負担を強いることになっている。
「やっぱり無理なのか……?」
手に入れた能力は使い方次第で何でも出来ると思っていたその能力は致命的なほどに、守ることに特化していなかった。それは敵を倒すことにのみ、特化していた万能な能力だった。
広樹一人であれば、姉妹がいないこの状況ならば。
守る対象がいなければ、自分はここまで悩む必要は無いのか?
「――なんだ?」
歌が聞こえた。綺麗な音色で紡がれる歌は何故か心を穏やかにさせる物があった。
「――広樹……来た……先輩の『声音』だ……ッ!!」
「なんだって?」
歌の発信源はサイの携帯からだった。
それに気付いた次の瞬間、広樹達を追尾している砲弾一体が爆発、それに誘発され次々と爆発する数万の砲弾。
「ウオオォォォォ!?」
「キャアアアアア!?」
その強烈な爆風に背中を押された広樹達は元々かなりの速度で走った分と合わされ吹き飛ばされていく。
身動きが出来ない空中でせめて姉妹を地面に当たらないよう身体を反転させ背中を地面に向けるが、突如広樹の身体をクッションとは程遠い硬さながらも地面よりかは柔らかい何かに受け止められた。
「おっとぉ!! 大丈夫か能力者の小僧!!」
「はっ? 誰――」
声からして男性。筋肉質な体型で体つきからは広樹以上の巨漢だと予想するもその正体を知る前に先に巨漢の男が動き出す。
「ほれ、口を閉じる! 舌を噛むぞぉ!!」
するとその巨漢の男は広樹達を放り投げたのだ。
「うわぁ!!?」
「キャア!?」
浮遊時特有の不快感が胃の底からやってくるも直後に不思議な感触をした何かに再度受け止められる。
「今度は一体なんだ!?」
まるで磁石のSとSが反発している独特な感触が受け止められている所から感じられたのだ。
「これは……バーリ先輩の『結界』!!」
「援軍遅くなってごめんねサイちゃん」
サイがそう叫ぶと直ぐ傍で一人の男が言ってきた。外見はまるで好青年然としているがその糸目の所為で胡散臭い感じが出る青年……サイが言うにはバーリ先輩と言われた男だった。
急な展開で混乱する広樹だが遠くで巨漢と戦っているロードの姿を見る。
「チッ死に底ないの能力者に援軍が来たか!!」
あの忌々しいロードの声が聞こえ、広樹はやっとサイが言っていた援軍の事を思い出した。
「なっ人型のエネミーじゃと!? 貴様は一体……」
「メタリカ先生!! 早く元の場所に移動しないと!!」
「ええい貴様は後回しじゃ!!」
「逃げさせると思うかな?」
「なっメタリカ先生! 地面からエネミーが!?」
「バーリ!? 貴様ァ!!」
一方で広樹の方にも地面から這い出てきたエネミーの襲撃を受けていた。
「クソ結界の中じゃ防ぎきれ――」
「ウォォォォオオオオ!!」
『GAAAAAA!!??』
だがそれを見過ごす広樹ではなかった。迫り来るエネミーを拳で吹き飛ばし、地面から這い出ようとしているエネミーのクビを蹴りで刈り取った。
「これが、君の力か……!!」
「先輩……でいいですよね? 先にサイ達を避難させないと……!!」
見れば、バーリという男の後ろに空間が裂かれているのが分かる。中は暗く、先が見えないが恐らくバーリと巨漢の男がこの空間を通ってここに来たのだろう。
だがバーリが答えたのは予想を裏切る言葉だった。
「……駄目だ。学園長の『時空』で何とかこの場所に繋げられたが、本来無いはずの場所を繋いだため学園長の能力が長続きしないらしい」
言ってる意味が分からないがつまり、学園長(この時点で既に分からないが)という人の能力でサイ達が所属していた場所とこの訳の分からない場所の波長と強引に空間を繋げてしまったため、一回の空間移動で人が通れるのは行きと帰りで合計二回だけだという。
つまり今ここで空間移動するとこの場所に繋げられていた空間が消えて、ロードと戦っているメタリカという巨漢がこの場所に取り残されるというのだ。
「だからここでメタリカ先生の帰りを待つしか――」
「先輩はサイとアイを守ってください!!」
「なっ!? おい待て!!」
それを聞いてジッとしている広樹ではなかった。
すぐさまに結界を内側からこじ開けて戦っている二人の間へと割ってはいる広樹。
「なっ小僧のいつの間に――」
「うおりゃぁ!!」
「ウォォォォオオオオ!!?」
背負い投げの要領でメタリカと呼ばれる男をバーリの元へとぶん投げる広樹。
そのあまりの行為により一瞬呆けるロードだが、すぐさまに広樹へと笑みを浮かべる。
「何を考えている貴様。あの老いぼれを見捨てて行けば生き残れるかも知れんというものを……」
「勿論、生き残るために考えているさ」
「――何を急いでいる?」
「……《全力強化》」
「……チッ能力者風情が……」
身体中を全力強化して一気に元の場所へと駆け戻る広樹だが、ロードは多少イラつきながらもエネミーを襲わせるがたかがエネミー数百体程度広樹の相手になるはずも無く、一瞬で蹴散らされるエネミー。
「グッ……あの小僧よりにもよって説明無しでぶん投げるとは……」
「メタリカ先生!? 一体どうしてここに……」
突如ここまで吹き飛ばされたメタリカに驚愕するバーリ。一方で、姉であるアイを守っていたサイに、眠っていた筈の姉から声が聞こえる。
「うっ……ここは……?」
「先輩の『声音』でも時間かかったけどやっと起きたか姉ちゃん!」
それでも未だに能力の副作用が治っていない状態で、携帯越しに鳴らしていた『声音』の能力により無理矢理起こされたため、未だに意識を朦朧としているアイ。
周囲を見れば見知らぬ景色。そして止めどなく聞こえてくる化け物共の奇声。
「……どういうことだ? 一体何が起きて――」
「説明は後だ」
突如目の前に現れた広樹に面食らう四人。実際はかなりの速さで着いたため目の前に現れたと勘違いしただけだが。
アイはいきなり現れた広樹に面食らうも、何か急いでいるということに気付く。
見知らぬ場所にメタリカ先生やバーリ先輩という本来の任務とは関係ない人物がいることで現在置かれている状況の酷さを察する。
「のう小僧、いきなり人をぶん投げるのは――」
「説教も後!!」
メタリカが何か言おうとしたが広樹はお構い無しにバーリと一緒にメタリカを空間の裂け目に押し入れた。
「なぁああああ!!?」
「またか!!?」
すると人が入ったため空間移動用の裂け目が徐々に狭まっていくのが分かる。
「さぁお前達もだ」
広樹が姉妹二人の手を握って先程の二人のように空間の裂け目に入れようとする。
「なぁおいひろ……キャァアアアア!?」
唐突な広樹の行動に異議を唱えようとするサイを無視して空間の裂け目に投げ入れる広樹。
「アイも早く――」
次に広樹がアイに手を伸ばそうとするも、まるで拒絶するかのようにアイは、伸ばされた広樹の手を払い除ける。
そのことに一瞬苛立ちを感じる広樹だが直後に発せられたアイの言葉により口を閉ざしてしまう。
「残るつもりだな?」
「……なんで、と言っても分かるか」
「能力は関係ない。……お前の顔を見れば誰でもわかる」
そういうアイだがもしそれが本当だとしたら先に入った三人も気付いていたはずだがその様子は無かったと考える広樹。だが目の前にいるのは心を読める能力を持った少女だ。
もし少女の言うように能力を使っていなくとも、長年心を読んできた経験から自然と他人の考えることを分かるようになってきたのだろう。
「お前は一体何を考えている?」
「生き残るために考えているつもりだが?」
「なら一刻も早くここから逃げる必要があるな。だがどうして残ろうと――」
瞬間サイの能力が発動し、嫌なビジョンが見えた。
そこには腕を切られ、血を流す広樹にその腕を切った人型の光景が。
「広樹、逃げ――」
「――まぁつまりはこういうことだがな」
かくして目の前の光景は先程見たビジョンの予定通りとなった。
アイは広樹により空間の裂け目へと押し出され、振り返るアイの目の前で広樹の腕が宙に舞ったのが見えた。
「ひ、広樹……?」
広樹へと呆然と手を伸ばすアイだが空間は閉ざされ、目の前が真っ暗になる。
広樹があの場所に取り残されたのだということを、アイは落ちていく己の身体を感じながら気づく。アイの脳裏には先程の光景が、頭から離れられなかった。
自身の腕が宙に舞っているのを尻目に広樹はいつの間にか現れたロードの姿を睨む。
痛みは無かった。否、痛みは先程からシャットアウトしているためそういう感覚が消えていたのだ。
「貴様……生き残るために考えた結果がこれか?」
ロードが先程の笑みから一転、無表情で広樹に聞いた。
「ああ、生き残るためには俺がここにいないといけなかった」
ロードの問いに答えた広樹は、宙に舞っている自身の腕の腕首を掴みまるで鈍器のようにロードの顔面に叩き込んだ。
「グッ……重い……ッ!?」
予想外の攻撃に予想以上の威力に一旦後方へと回避するロード。
目の前を見るとそこには完全に切られた腕の繋ぎ目の所に腕をくっ付けようとしている広樹の姿がいた。
「……それで治るとでも?」
「ああ、治るさ。……《一点全力強化》」
すると腕の繋ぎ目が完全に消え、そこには腕の様子を確かめる広樹の姿がいた。
「そういえばそんな芸当が出来る能力だったな……治癒力を強化して繋げたのか、人間とは思えないな」
「……人間じゃないお前に人間語る資格はないな」
「…………」
「――結果は予定通りだ」
「何……?」
「生き残るためには……テメェを殺す必要がある」
そのためには……味方が邪魔だったのだ。
「クックック……そうかそうか! 味方が邪魔だったのか!! だからあんなに急いでいたと! 味方を、自身の守る対象の所為で我を殺すのに邪魔だったために先に逃がしたと!! 孤独を嫌う能力者の発言とは思えないな!!」
「…………」
「ククク……良かろう。貴様の目的に付き合ってやる」
「ああやってるやるさ。帰りはマイペースで帰らせるとするよ」
戦いは……終わりに向かおうとしていた。




