第14話 新たな脅威
斉藤広樹が四体の災害級エネミーを討伐した同時刻。
「なんだこれは……」
そこは遠隔支援ルームと名付けられている場所で、遥か遠い場所でも観測することが出来る場所だ。
その場所で、大柄な男を筆頭に画面に映し出されている光景に誰もが言葉を失っていた。
「これが能力を覚醒させ僅か三日経過した能力者の戦闘力だとでも言うのか……」
きっかけはこの遠隔支援ルームでとある町に能力の覚醒反応があり、いつものように能力者を保護するため、サイとアイを遣わせたのが始まりだった。
それだけならばいつも通りの業務だった。
だが昼間で尚且つ能力者でもない一般人がいる中で突然のエネミー襲来という異常事態。
不幸なことにその現場に居合わせているのは中級能力者であるサイと覚醒したての新米能力者だけで、肝心の上級能力者であるアイは自身の副作用で昏睡中だ。
加えて類を見ないエネミーの大群に事態は絶望的だと思えた。
新米能力者と思われる彼がエネミーの大群相手に圧倒している光景が映し出されるまでは。
そこから、余裕が出来たサイの連絡によりアイを昏睡状態から復活させ戦闘に向かわせ、その新米能力者が一瞬でエネミーの大群を蹴散らした事に驚きながらも事態は収束に向かうと誰もが思っていたその矢先。
「大変です! サイ、アイ、そして例の能力者の反応が途絶えました!」
突如モニターから彼らの反応が途絶え、音信不通になったのだ。
「感知系能力者を総動員させろ! 絶対に彼らを見失うな!」
まさかの事態に遠隔支援ルームにいる人たちは焦り始める。
突如襲来してきたエネミーにこの状況、明らかに出来過ぎている。
もしや三日前に覚醒した新米能力者が関係しているのではないのかと、そう考えるほどこの状況は異常な出来事なのだ。
結果彼らの反応がロストしてから僅かな時間でモニターの映像がノイズ混じりにだが回復した。
「なんだ……これは……?」
モニターに映し出された光景。
それは例の能力者が二人の姉妹を逃がし、四体の災害級エネミーと対峙している光景だったのだ。
「災害級エネミーが四体!? いやそれよりもあの能力者は一体何を考えている!?」
災害級エネミーといえば、この能力者の世界では知らない者はいないと言えるほどの恐怖の権化。
たった一匹が放つ攻撃で、広範囲に渡り地獄を生み出す様はまさに災害を冠する化け物。
上級能力者の中で更に精鋭を誇る能力者数人でようやく一体倒せるほどのレベルだ。
――それをあの四体のエネミー相手に一人だけだと?
「早く学園長に連絡してこことあの場所を繋げるように進言しろ!!」
最早あの能力者の命は終わったも当然、ならば逃げたあの二人を救出するように動かないといけない。
すぐさまそう判断した大柄な男は部下の一人にそう言うがここでとんでもない報告が来た。
「さ、災害級エネミー一体の消滅を確認しました!!」
まるで悲鳴を上げるような報告に一瞬この場の時間が止まる。
そこで誰よりも早く復帰した大柄な男が報告された通りにモニターを見るとそこには信じられない光景があったのだ。
火の災害が生み出した小太陽を受け止め、尚且つぶん投げる新米能力者。
上級上位と同等の力を持つ自分でさえも見逃すほどの移動と攻撃。
「なんだこれは……」
そしてこの冒頭の台詞である。
数々の修羅場を潜り抜けた経験を持つこの男でさえこれほどの馬鹿な事態に遭遇したことはあるだろうか。
だが感じたのは驚愕だけではなかった。
あの四体の災害級エネミーを撃破した驚愕よりも感じた恐怖。
(あの笑みは……なんだ……?)
あの災害級エネミーに向けて放った新米能力者の笑み。
確実に人間が浮かべる笑みではない。それほどの残酷な笑み。
その恐怖は、学園長がこの遠隔支援ルームに来るまで続いた。
◇
一方その頃。斉藤広樹から離れ、姉を背負いながら逃げているサイはというと……。
「クソッ! なんだこのエネミーの数は!?」
全方向から来るエネミーに襲われていたのだ。
絶え間ないエネミーの波状攻撃。
それに対し、サイは己の持つ能力である『念力』で対応していた。
「吹き飛ばせ、吹き飛ばせ、吹き飛ばせぇ!!!」
自身の姉を抱きしめ、ただ祈るように自身の念力を発動するサイ。
それに答えて念力はサイの一定の範囲に展開され、範囲内に入ったエネミーを吹き飛ばしていた。
それはまるで結界のよう。
だが慣れない全力の発動でサイの鼻からは血が出て、目は徐々に充血して行っている。
制御しようにも制御できず、命令ではなくイメージで発動したため暴走しているのだ。
「あ……ぐうう……あああああ!!」
だがそれでも自身の能力に耐え切れず、そのまま自壊するのは時間の問題である。
そんな絶望のような状況は突如、周囲のエネミーが一瞬にして吹き飛ばされたことで終わった。
「サイ、周りのエネミーは片付いた! だから能力の発動を止めろ!!」
斉藤広樹だ。あの災害級エネミーを倒したのか。
生きてくれたことに嬉しいと思う反面、また助けられたことに申し訳なく思ったサイである。
「すまん……」
「いいって事よ。取りあえず今はこの場を何とかしないと」
「それなら大丈夫だ……多分もう直に救助が来る、と思う」
「なんだその曖昧な言葉……」
遠隔支援ルームからの支援は贔屓目に見てもかなり優秀であると思っているサイ。
だがこんな得体の知らない場所では救助に来れるか分からないのだ。
「クソ……ここは一体何なんだ……」
「ディメンジョンの転移先がここといい、災害級エネミーといい、エネミーに関係するものだというは分かるが……」
「地面からエネミーが這い出てくるとか聞いてないぞ……」
今でも、三人の命を奪い取ろうと次々に這い出てくるエネミー。
それを這い出た時点で感覚と脚力を強化した広樹が次々と蹴散らしていくため特に危険といったような状況には陥っていない。
だがそれでもこの不気味な現象に不安を抱かずに入られないのだ。
――まるでこの惑星自体が、エネミーの……。
「……!? 広樹!!」
「ああ、分かってる!!」
突如、エネミー同士の連携が増したのだ。
拘束系のエネミーが連携し広樹の行動を抑え、サイ達を狙う動き。
これまでとは比べ物にならない程のやり辛さを感じる広樹だが、それでも力任せに突破することは可能だ。
だが問題はこのエネミーの連携の錬度が徐々に上がっているということ。
そのあまりの上達速度とまるで意思を伝達しているかのような連携速度に広樹は驚愕する。
広樹一人であれば問題ないがここにはサイとアイがいるのだ。
このままではジリ貧なのは明確である。
「チッ……《一点全力」
「おっとその技は反則だな……」
『!?』
広樹の拳が何かに掴まれていた。
そう理解すると同時に薙ぎ払って後方へと移動しようにもビクとも動かないのだ。
「まさか我の配下で二番目に強い四体を倒すとは、少々予想が外れたぞ?」
広樹の拳を掴んでいる得体の知れない影に周囲のエネミーが集まっていく。
「自己紹介をしよう」
エネミーの身体がまるでその影の身体になるように徐々に形成されていく。
それと同時に拳を握り締める力が増す感覚がし、広樹は顔を歪める。
「我が名は『ロード』。貴様らで言うエネミーを……支配するエネミーだ」
瞬間、広樹の拳は握りつぶされた。




