第13話 災害を超える
不定形の流動体が四体。
その一体の大きさは山一つと比べて、ほぼ同等の大きさを持っていた。
だがその存在の脅威はそれではない。
その身に流れる莫大なエネルギーはそれぞれ、かつて起きた災害を司る属性。
火、水、地、風。
災害級エネミーと呼ばれるその四体のエネミー。
それは、能力者の世界で確認された至上、二番目に強いエネミー達。
だがそんな化け物共は、ある一人の少年に対して警戒していた。
あの超高高所から落下していながら四方向から来る攻撃をさらに落下速度を上げることで回避。
だが落下速度を上げたため地面との激突はかなりの威力を持ってしまったが、その地面との激突を相殺という無茶な方法で着地した。
普通なら、いや例え能力者であっても生き残ることは出来ない。
だがそんな不可能な状況をあの少年は生き延びたのだ。
――これが、自分達の主が、殺せと命じた能力者のゴミ。
――なるほど。なかなかどうして、殺しがいがあるのだろうか。
◇
『負ける気がしねえ』
そう言った広樹の顔には見るものを戦慄させる顔をしていた。
だがその笑みにサイは救われ、それと同時に安堵を抱いていたのだ。
前の自分ならこんな状態の自分を見たらどう思うのだろうか。
趣味が悪いというのだろうか。それとも雰囲気に流されているだけというのだろうか。
それでもサイは、自信持って言えることがあった。
――あんな顔をした広樹は、頼もしいぐらいに安堵させる何かがある。
僅か数日しか知り合ってもいない間柄なのに、サイは自然とそう感じていたのだ。
だがそれとこれとは話しが違う。
例え、頼もしさを感じようとも相手はたった一体で広範囲に渡り、災害を撒き散らす存在。
そんな相手が四体いる状況で挑む広樹を、力づくで反対するしかないのだ。
故に、声を張り上げようとした。
自分も戦うと張り上げようとして、止めた。
(何で、一緒に戦うと言おうとしたんだ?)
本来なら、一緒に逃げようと言おうとした。
それなのに咄嗟に出た言葉はそれと真逆な発言。
一番足手纏いなのは自分なのに。
――何故?
そう思う前に、サイは理解した。
広樹を一人にさせたくなかったのだ。
幾ら強力な能力を覚醒させようとも、能力者は『孤独』という存在に恐怖を覚える。
自分も経験した事があるから、一緒に戦おうと声を張り上げようとしたのだ。
これから一人で戦いを挑む、『孤独』なヒーローと一緒に。
「広樹」
「ん? なんだ、サイ」
「――頑張れよ」
そう言って、サイは自身の能力を使い姉を抱えてこの場から離れた。
『念力』で疾走する二つの影。
その一人は、能力の後遺症で眠っており。
もう一人は己の無力さを噛み締めながら、振り返らないように走った。
◇
『頑張れよ』
そう言った、サイの顔は悔しそうな顔で笑っていた。
頑張れと、己の弱さを受け止めてそう言った彼女の言葉は誰よりも広樹の心に突き刺さった。
「ああ、今度は一緒に戦おうぜ」
サイの心の内に気付いた広樹は化け物しか存在しないこの場所でそう呟いた。
空を見上げると、心なしかこちらを警戒している化け物が見える。
「さぁお前ら、待たせたな」
強化した殺気を上空にいる化け物へと解き放つ。
その殺気に答えて、四体の災害級エネミーも広樹へと咆哮らしき声を上げた。
時が止まったのは一瞬。
広樹は強化した脚力で、残像を残しながら地面へと低空跳躍。
地面すれすれへと飛翔する広樹の頭上に、激流の尻尾が通過した。
水の災害級エネミーの尻尾が通過したのを確認すると、広樹は地面を蹴り前方へと加速する。
目の前には風で覆われた化け物が一体。
敵の姿を確認すると同時に、広樹は強化した感覚で目の前にいる化け物の身体を調べ上げた。
分かったのは、身体を構成するあれだけのエネルギーを生み出しながらも実際に制御しているのは直径75cmのコア。
僅かバランスボール並みでしかないのだ。
あの高密度、高出力のエネルギーを制御しているのは。
あの巨体で戦いながら、中心にあるコアを潰す。
なるほど、これは確かに厄介な相手だ。
(だが、それがどうした?)
目の前に化け物がいながらも、走るのを止めない。
寧ろ、さらに加速させ殺気を浴びせたのだ。
――絶対に殺すと。
強烈な思いが一瞬、風の災害級エネミーの身体をその場で固定させた。
「《一点全力強化》……!!」
強化するのは己の両脚。
地面が割れる勢いの力を入れ、広樹は目の前にいる化け物へと跳躍した。
次に強化するのは身体の強化。
より頑丈に、よりしなやかに、例え攻撃を受けようとも再生するほどの身体へと強化させる。
『――――――!!!??』
そのエネミーの体内は、はっきり言って地獄だった。
風のカマイタチが縦横無尽に広樹の下へと襲い掛かり、無数の傷を作り上げる。
時折、舞っている異物にも当たり、広樹の腕があらぬ方向へと曲がる。
だがそれさえも耐え切り、身体から伝わる激痛を感じながら再生し始める己の肉体。
如何なる障害でさえも中へと突き進む広樹を止める物はない。
やがて耐え切った先にはこの災害級エネミーの弱点があった。
「先ずは一匹……」
化け物の身体を突き抜けた広樹は、その身を空中に晒されながらも闘志を練っていた。
後方で爆風を放ち朽ちる災害級エネミーを見ながら、まだ残っている化け物はあと三匹だと考える広樹。
地上へと着地した広樹が待っていたのは、目の前に広がる小太陽。
それは火の災害級エネミーが放った理不尽な災害。
あまりの巨大さに逃げることも出来ない広樹が取った行動は、身体の全能力を底上げして受け止めることだった。
「ウォォォォォオォォ!!!!!!」
焼却、再生、と繰り返す己の両腕。
立っている地面がその質量に耐え切らずに徐々に崩壊していく。
だがそんな状況にも諦めず、一歩、また一歩前へと突き進む己の足。
一歩進むその速度は徐々に加速していき、やがて目の前の小太陽を押し返しながら疾走し始めた。
「ウォラァ!!」
一定の距離を進んだ広樹は、周囲の存在をその強化した感覚で把握する。
次に自分の右腕を小太陽へと突き刺し、ハンマー投げの要領で水のエネミーへとぶん投げたのだ。
『―――――!!!!』
声ならぬ悲鳴を上げ、その身の水を蒸発させる化け物。
やがて広樹の投げた小太陽がコアに当たったのか辺りに洪水を撒き散らせながら、消滅した。
「あと二匹」
再生していく己の腕を見ながら、残りのエネミーへと殺気を込めて睨む広樹。
最早その身体は人間を超え、先程の状況に遭っても未だに息切れ一つ起こさない。
否、体力が失った傍から驚異的な速度で回復していくのだ。
徐々に上がっていく、広樹のプレッシャー。
上がっていくにつれ、見るものを戦慄させる笑みをする広樹。
それはかつてサイが安堵した物とほぼ同じ笑みだ。
だが今目の前にいるエネミーにはその笑みに強烈な恐怖を味わっていた。
彼が放つ殺気は最初の頃から比べ物にならないほど膨張をし続け、加速させていく強化の力は最早災害を超えていたのだ。
『―――――?』
その許容量を超えたのか物の見事に動きを止める二体のエネミー。
もう殺気を感知することも己の存在すらも認識できず、ただ死を待つだけのエネミー。
その瞬間、広樹の身体がブレた。
それは一瞬だった。
瞬きとほぼ同等の時間にも拘らず、広樹はエネミーの遥か後方に移動していた。
その手には破壊された二個のコアが。
今、この場所にはその身体を崩壊させ崩れていく二体のエネミーしかいなかった。
「……はぁ!! はぁ!! ……畜生! 結構キツイじゃねえかこれ!!」
だが思ったよりも強化に使う集中力の度合いが大きすぎた。
この身体の限界を超えている事を遅まきながらも認識した広樹は、悪態を吐きながら回復するためにその場に寝転がった。




