表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
プロローグ 願いを受け継ぐ貴方に
12/210

第12話 広樹の決意

 そこは何処にもない暗い場所で、ある二つの存在を除いて何も無く、その存在の一つは人型で、目を閉じながら空中に漂っていた。

 そしてもう一つの存在はその人型から少し離れたところにあった。それは映像で今現在広樹達が空中に放り出されている光景を映していた。


「ただいま帰りました我が主」


 瞬間、辺りに声が響きその直後にこの映像と空中に漂っている人型との中間に半透明な物体が現れた。


「我が主のご命令通り、彼の者をディメンジョンの能力により『ロード』の下へと飛ばしました。……彼の者と一緒にいた能力者のゴミもですが」


「……放っておけ」


 突如現れた半透明な物体からの報告を受け取り、空中を漂っていた人型は口を開いた。まるで透き通った綺麗な声だ。だがそれと同時に、今半透明の物体は底知れない圧倒的な『力』の響きに内心恐怖していた。


「……はっ、ではその様に」


 だがこれもいつもの事のように返事をする半透明の物体。これぐらいの『力』程度で恐怖をし、主の機嫌を損ねる行動を取れば恐怖では済まされない出来事が待っているのだ。

 故に自身の感情から湧き上がる恐怖を途轍もない精神力で封じ込める。この程度で梃子摺っていたら、今の目の前の主に仕えることは出来ないのだ。


「ところで我が主、一つ質問よろしいでしょうか?」


「……なんだ」


 半透明の物体は映像に流れているその人物、今現在空中から落下し何やら一緒に落ちている仲間の能力者を説得している少年――斉藤広樹を横目で流し見て目の前に居る自身の主へと質問した。


「我が主が、我らに彼の者を殺せと命じられましたが、彼の者とは一体何者なんでしょうか?」


 思い出すのは斉藤広樹が能力を覚醒し、まるでそのことを見越したかのように自分等に斉藤広樹を殺せと命じた三日前。

 その時は、唐突な抹殺命令で多少困惑もしたが、たった一人の能力者を殺す事など造作も無いことから楽観視していた。


 だが能力の把握速度、その能力を使った一つの事件の解決、そして百匹を超えるゴブリンとの戦闘。

 明らかに覚醒したての能力者のレベルを越えている。


「…………」


 目を閉じているが長年仕えてきたから分かる。自身の主の意識は斉藤広樹が映っている映像に向けている。そして気を付けていなければ気付かないほどの『感情』を、目の前に居る人型から感じた。


(長年仕えてきた私ですら見たことの無い主の『儚げな感情』……。そんな感情を抱かせる彼は一体……)


「……私は眠りに落ちる」


「御意に……」


 結局、質問には答えてもらえないまま空中に漂っている人型は消え、部下である半透明の物体と未だに映し出されている映像だけがこの場所に残った。

 その場所で半透明の物体は映像の方に目を向け、呟いた。


「だが、それで理解できたこともある」


 映像にはこれから斉藤広樹が何かしようとしている光景が映し出されている。


「斉藤広樹……ロードの所へと飛ばしたお前には万が一にも生き残ることはできん。だがそれでも……億が一に生還できたとしたら……



 最期が近いかも知れんな」







 地上衝突まで後五秒を切った。


 身体全体に強化を行き渡らせ、全体の耐久力を底上げする。次に、脳の伝達速度を増幅させると下から上に流れていく光景がゆっくりと見えるようになった。


 残り三秒。


 次は足のバネを中心に身体全体のバネを限界までに強化。これで地面と衝突してもいかなる衝撃に対応できる。


 残り一秒。


(後は……衝撃に備えるだけだ)


 そう、広樹は地面からの衝撃を受け流しこの場をやり過ごそうとしているのだ。幾ら、特殊な力を扱える能力者でも上空降下による地上衝突で無傷でいられる程頑丈な能力者はいない。

 例外としてこの状況に特化した能力を持つ能力者か、かなり強力な能力を持った能力者だけこの状況を打破できるのだ。


 最も、自分等は災害級エネミーという化け物共の攻撃を避けるため、より下へと加速したため彼らでさえも助かるかどうかは分からないが。


(あれ? どうして俺はこの高さから落ちて無傷でいられる能力者はいないって思ったんだ?)


 能力を覚醒してまだ三日の広樹には当然、今腕に抱いているこの二人の姉妹以外の能力者を見たことが無い。

 それが何故、先程のような先入観を抱いたのだろうか。


 だがその疑問は強化された脳の伝達速度により足から伝わる地面の感触がゆっくりと感じた瞬間に消えた。

 今、自分がすべきことはこれから来る地面の衝撃を受け流し生き残ること。サイに任せろといった手前、広樹に失敗は許されない。


 ここからが正念場。広樹は早鐘する心臓の鼓動を聞きながら加速された思考でゆっくりと動く自身の身体を半ば他人事の様に見つめる。


 見つめながら、広樹はこれまで起きてきた事を思え返す。


(思えば、俺に能力が目覚めてから色々巻き込まれているな……)


 だが例え能力に目覚めてなくとも、広樹は率先して厄介事に首を突っ込むのだろう。

 生まれついてからの性分なのか、人が困っている所に出くわすと必ず身体が勝手に突っ込む癖がある広樹。その所為か喧嘩に巻き込まれることもあり、ほぼ毎日傷だらけになって妹を心配させてきた。


 だがその後も広樹は必ずと言っていいほど厄介事に突っ込んだ。それが両親を亡くし、たった一人の妹がどこぞの誰かに連れて行かれても、広樹は己の持てる全力で妹を探しその途中で遭遇した全ての厄介事に首を突っ込んだ。


 その厄介な性格のお陰であの日、迫る来るトラックから少女を助けようとしたことでこれまで以上な厄介事がやって来た。


(つくづく、俺は損な性格をしてるな……)


 内心そんなこと思いながら苦笑するが、それでも広樹に後悔という感情は思い浮かばなかった。

 

 ――人知を超えた能力?


(上等だ。それで気兼ねなく厄介事に首を突っ込める)


 ――エネミーという化け物?


(襲い掛かってくるなら、掛かってきやがれ。徹底的に叩き潰してやる)


 ――そして何よりも一向に手がかりが無かった斉藤まゆりを探し出せる。


 その決意が、広樹自身に掛かっている強化の力がより強化されていることに広樹は気付かない。それが無意識か狙ってやったことかは分からない。


 ただ分かるのは。

 

 既に地に着いている足をそのゆっくりとなっている視界で、普通の速度・・で腰の高さまで膝を曲げ、そのまま地面に叩きつけたのだ。


 地面を受け流すという真逆の行為。広樹が咄嗟にやった行為は地面に蹴りを叩きつけて、衝撃を相殺したのだ。


 異常な脚力、そして尚且つ両脇に抱えている姉妹に何も衝撃を感じさせないほどの身体制御。広樹は事前に考えてあったプランを無視して咄嗟の内にやってのけたのだ。


(……咄嗟に何やってんだ俺)


 もしこれが失敗したら広樹諸共両脇の姉妹までもあの世行きだ。いや、受け流しという作戦も失敗すれば結局は同じこと。問題なのは思考能力を限界まで強化し導き出した作戦を無視して行なったのだ。

 この受け流しと相殺、どちらが成功率という点で高いかといえば勿論ちゃんと考えた受け流しのが高い。


 はっきり言って、自殺行為の行き当たりばったりなのだ。この相殺という行為は。


「はは……まぁ、えー着地完了! ……ということで」


「ん? もう着地したのか……?」


「お、おう! そうだぞ! ちゃんと完璧な作戦だったぜ!」


 広樹の言葉に反応したサイに広樹は必死に言い訳……もとい作戦成功の報告を行なった。

 まさか馬鹿正直に予定に無かった事をしたと言うのは主に彼女の精神衛生的にかなりマズイ。


「ふぅ……さすが広樹だな! やっぱお前に任せて良かったぜ!」


 と、感謝の言葉が広樹の心に突き刺さった所を横に、サイが地面に降り立つと自身の姉であるアイを広樹の代わりに抱きかかえ、漸く一息吐いた所でサイが今現在抱えている問題について声を上げた。


「そ、そうだ! 災害級エネミーはどうするんだ!?」


 そう、まだ残る問題どころか最も重要な問題が残っていたのだ。広樹は上空を見上げると未だに落下しながら此方に近づいてくる災害級エネミー四体を確認した。


「災害級エネミーというのは一体だけで上級能力者が精鋭で挑んで倒せるレベルなんだ! それが四体……!」


「上級なんてのもあるのか……。因みにサイ達は?」


「お、オレは中級で姉ちゃんが上級だ……って今する話じゃないだろ!?」


 かなり慌てているサイとは裏腹に広樹は笑みを浮かびながら上空を見上げていた。どこか楽観視している節がある広樹にサイは声を再び上げようとしたところに、広樹が先に言葉を発した。


「なーに、あの四体は俺に任せろ。お前はどうにか仲間の能力者に連絡出来ないか試せ」


 もしこれが先程までの広樹だったら、今この場の空気はかなりの悲壮感が出ていたことだろう。

 だが『今』の広樹ならば、決意を新たにした広樹ならば――


「正直言って今は負ける気がしねぇ」


 今広樹が浮かべているその笑みには見るものに恐怖を抱かせる程の残酷な笑みを浮かべていた。

 

 だがサイには何故かその笑みに対し、安堵を抱いたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ