第11話 災害級エネミー
明けましておめでとうございます。
そしてお待たせしました。今年初の投稿です。
空中に放り投げられ、身動きが取れない広樹達に更なる絶望がやってくる。前後左右それぞれ、軽く見てもその巨体の全体像を測る事が出来ない災害の塊がまるで広樹達の周りを取り囲んでいた。
「災害級のエネミーが四体……」
サイが絶望と共にそう呟くのが聞こえる。サイは放心状態、アイは未だに能力の副作用で睡眠状態になっている現状、今動けるのは広樹しかいない。
だが、強化という自分だけしか効力を発揮出来ない能力を持つ広樹ではこの状況を打開するのは当然無理な話であった。
(まさか……こんな化け物が……これがエネミーだというのか……)
広樹が生きた時間の中で山並の巨体で尚且つ、動いている存在は見たこともない。これほどの存在、これが広樹達が退けたエネミーと同じ存在だというのだ。
現在、自分達が戦っているエネミーとはこれ程までに脅威を誇っているという現実に頭の中が真っ白になる広樹。
(こんなもの……どうやって戦えばいいんだ……)
広樹が愕然としている内に自分達の周囲を取り囲んでいるエネミーが遂に動き始めた。
それぞれ火、水、土、風を司っている四体のエネミーの身体からそれぞれ自身が対応した属性の色がまるで粒子の様に、自身の手前へと集まり強大な塊を形成しているのが見えた。
(なんだ……あのエネルギーの塊は……)
現在進行形で落下している広樹達には今起きているエネミーの行動を見ているだけであった。
暫くするとエネミーの身体から放出している粒子が止まり、エネミーの手前にあるのは膨大なエネルギーを宿した『何か』。訝しむサイだが、広樹はこれから起ころうとしている事を理解し、顔を青褪める。
瞬間、轟音と共にそのエネルギーの塊が広樹達へと襲い掛かってきた。
「――マジかよ……、サイィッ! お前の能力で避けられるかァ!?」
広樹は今襲い掛かってきている周囲の轟音に負けないように声を張り上げて一緒に落下しているサイへと言う。
サイの能力は手を触れずに物体を動かす『念力』だ。
あのゴブリンの大群を蹴散らしたサイであれば、その能力により現在落下している自分達の動きに干渉し、あの災害の塊を避けられるのかも知れない、そう考えた広樹。
「無理だ……もしあの攻撃が学園長が書いた本の通りなら、あの塊は謂わばあいつ等の一部……! どんなに避けても追尾されて避けられない……!!」
だがサイは絶望したかのような声色でそう呟いた。その情報に愕然し、絶句する広樹は呆然と周囲の状況を見渡す。
現在進行形で落下し身動きが取れない現状に加えて前後左右には追尾機能付きの攻撃があり、その下は地面。
正に絶体絶命の状況、八方塞がりの状態である。
(だがまだ死んだわけじゃない……考えろ! 考えるんだ俺! 何のためにこんな使い勝手がある能力を持ってるんだ! こんなヤバイ状況を解決するためだろうが!!)
それでも死ぬわけにはいかない。呆然としてる意識に渇を入れ、広樹は生きるために強化の能力を使い、思考速度を高速に回転させた。
(これじゃダメだ。作戦の再構築は時間の無駄だ。修正もダメだ。時間が惜しい。頭の中を分裂させて案を練るんだ)
それでも足りず今度は同時に思考出来るように並列思考までに強化させ必死に考える。傍から見ればそれは瞬きする程度に等しい短い時間だが広樹の中では既にかなり時間を経過していたかのように感じる。
そしてやっと、広樹は先程の呆然としたような表情は消え、笑みを浮かべた。
「これなら……サイ! 俺達の落下速度を上昇させろ!」
「なっ……お、お前自分が何をいってるのか分かってんのか!?」
落下速度を上昇させるという事は即ち地面へと激突する時間が早くなるということだ。
この絶望的な状況で気でも狂ったのか。自殺行為に等しいその案は当然サイにとって到底認められない、行ないたくない案だった。だが今はそんなことを言っていられないほどの状況だ。
それに加えて、四方向に襲い掛かってくる塊もあって、焦っている広樹はそんなサイに怒号を発した。
「ッ!! どうなっても知らないぞ!!」
「やらずに後悔するより、やって後悔しやがれ!!」
「んな滅茶苦茶な!?」
広樹の腕で未だ眠っているアイを左に抱き寄せ、あーだこーだと騒いでいるサイを空中で右肩に寄せる広樹。
一瞬サイの表情は赤く染まり、広樹に対して口を開こうとしたが真剣な表情をしている広樹の顔を見て、決意した。
「サイ、心の準備はいいか?」
「……ああ、大丈夫だ」
「よし、それじゃあ――やれ!」
「……ッ! 対象を『オレら』と下の『地面』に指定、――『引き寄せろ』ッ!」
広樹の合図と共にサイは能力の使用を始める。瞬間、広樹達の身体はまるで下の地面に引き寄せられるかのように落下の速度が上昇し始めた。
地面へと落下していく自身の身体を尻目に広樹は四方八方に襲い掛かってくる災害級エネミーの攻撃を見やる。
広樹達の落下速度が上昇したお陰で本来広樹達に攻撃が当たるルートから離れ、このままだと化け物共の攻撃から避けれそうだった。
だが最初にサイが言っていた通り、あの攻撃が奴等の身体の一部だとしたら必ず此方へと追尾してくるはずだ。
結果、サイが予想していた通り僅かだが化け物共の攻撃の軌道が徐々に此方に向かってきていたのだ。
今、この落下速度を維持していても結局あの攻撃が当たる、そう計算する広樹。
だが、これも広樹の予想通りだ。唯一予想外なのは、落下速度が予想以上に上がっていないということ。例え、これから広樹がやるあることを加えてもこの落下速度のままじゃあの攻撃に当たり、三人ともあの世行きだ。
やはり、この作戦は失敗なのか。
(いや、そんなはずはない)
広樹の能力を最大限に使用し最早予知に近い感覚で練った作戦なのだ。サイの能力を使用すれば必ず、この作戦は成功すると判断した。では何故予想以上に落下速度が出せていないのか。広樹はふと横に居るサイへと目を向けた。
「……サイ」
目に恐怖を宿し、サイは震えていたのだ。
当たり前だ。自分の周りには当たれば自身の身体が消し飛ぶほどの死の塊が、そして下には地面があり例え能力者であっても激突すれば命はない。
そんな中で自分は能力を使い、下にある死へと加速させるように行使しているのだ。
これがサイでなくとも誰でも恐怖する。『念力』という能力を持つ『能力者』である彼女もまた、一人の人間。そして一人の女の子なのだ。
「サイ……お前……」
「すまん……! ごめん……! オレには無理だ! 死にたくない!!」
弱音を吐露するサイ。もしこれが普通のエネミーの攻撃であったのなら、サイはこれまでの戦闘経験でこんなに弱音を吐かなかったのだろう。
だが今対峙しているのはサイの心を一瞬で折れさせた災害級エネミーだ。それも四体。サイの口ぶりからして、つい最近戦った広樹でさえもこれが如何に異常な状況だと認識させられたのだ。
「お前の表情を見て、決心したんだ! それでも足りなかった! オレはここで死ぬ訳にはいかないのに! 死にたくないのに! オレはッ! ……お前を信じてやれなくて――」
「サイ。別に俺を信じてくれ、なんて言わねえよ」
「ッ!?」
「だから別に謝らなくてもいい。だが安心しろ。サイも、お前の姉ちゃんもここで死なせる訳にはいかない。死ぬという恐怖に怯えなくてもいい。だから安心して全力で能力を使え」
「広樹……」
「なんなら事の成り行きが終わるまで目を瞑っててもいい。目を開いたら、もう全て終わってるんだ。俺が、お前達を絶対に助ける」
広樹はそう言って、サイへと微笑む。そしてサイの不安を取り除くために広樹は自身の体温を上げた。アイの方へと見ればその寝顔は安心しているかのような表情をしているのが見える。
「――広樹。オレはやっぱり怖い」
「……サイ」
だがその表情は、言うほど恐怖に怯える表情ではなかった。
「だからオレは、目を瞑っているよ」
「…………」
「目を開いたらもう助かっているんだろ? だったらこれは広樹に任せるぜ」
「――ああ、任せろ!」
「信じる以前にお前に任せれば、全部上手く行きそうだ」
そう言ってサイは目を瞑りまるで広樹から離れないように、強く抱きしめる。瞬間、先程よりも落下速度が加速した。
それでもまだ、あの攻撃からはギリギリ逃れられそうもなかった。だが広樹は、まるで予定通りだと顔に笑みを浮かべ、強く、強く、二人を己から離れさせないように強く抱きしめる。
(《一点全力強化》……! 対象は、俺の全体重だ!!)
自身の体重を重くしたということで、落下速度がかなり速くなっているのが分かる。だがそれと同時に違和感が押し寄せてくる。
脂肪が、臓器が、筋肉が、骨が、全て重く感じ意識が朦朧とする。急激な体重の増加により、広樹の身体にずれが生じ、強烈な違和感により意識が朦朧としてきたのである。
確かに、集中力さえあれば強化の能力で際限なく体重を増加させサイの力を借りなくとも落下速度が上がり、広樹一人の力でこの状況を解決できた。
だが前述の通り、このような現象が起きるということを事前に予測できていたからこそサイの力を借りたのだ。
徐々に近づいていく地面との激突。朦朧とする意識を繋ぎとめ、後ろを見るとあの化け物共の攻撃が各々他の攻撃に当たって直ぐ近くで爆発しているのが見えた。瞬間、広樹達は爆風に巻き込まれ、より地面へと近づくことになった。
(あぶねえ……もしサイが全力で能力を使わなかったらアウトだったな……)
一歩間違えればあの爆発に巻き込まれるのは自分達だった。そんな未来もあったかと思うと鳥肌が止まらない広樹。
(次は下か……)
そう、あの化け物共の攻撃を避けても地面への落下は止められない。あと数秒もしない内にこのままでは地面へと激突してしまうだろう。広樹は一旦、自身へと掛けていた体重の強化を止め、次の作戦へと移行した。
「サイ! もう『念力』はいい! 後は任せろ!」
「頼むぜ……!」
落下速度は急激には変わらなかったが先程感じていた地面に引っ張られる感覚はなくなった。サイが能力の使用を止めたのを確認し、広樹は次のステップへと準備し始める。
(――ふぅ……さて、やりますか!)
息を吐いて精神統一する広樹。地面への激突はあと五秒。
広樹はまた自分の身体に強化を始めた。




