第17話 光の速さ
クロノスが言うにはコウの能力は『独自系光明』といい、光を司る能力らしい。
だからこれを聞いたアッパーはコウが持つ能力の使い方を一つ思い浮かび、そしてそれを親友であるコウに使わせようとコウの両肩に手を置いて提案したのだ。
「つまり俺の能力で俺自身を『光』にして、お前を連れてアフリカ大陸に行くってことか?」
アッパーの提案を聞いたコウが、自身がこれからやることを確認するように復唱した。
コウは能力者になったばかりではあるが能力者という例に漏れず、覚醒した能力の使い方とやらは本能である程度把握している。
だがそれでも自身の能力をどの程度で扱えるかは、使用者の訓練によって把握するしかない。
「学園長の言っていることが本当なら、お前は光になれるはずだ」
「客観的に聞けば結構な厨二ワードだなそれ」
だが自身も能力者に覚醒したため、アッパーが真剣に言っているということを知っているコウは、軽口を叩きながらも力強い決意でアッパーの提案を承諾した。
「あぁいいぜ。お前の言う通りに光になってやるよ」
「頼んだぞコウ。……そういえばお前のお袋は?」
コウの家は母子家庭であり、コウの父親は彼が幼い頃に亡くなっている。
だからアッパーがコウを全力で守るつもりではあるが、曲がりなりにもコウを戦いの場所に連れて行くことになるため、アッパーはコウの母親を心配したのだ。
「あぁ、今はママ友だけの国内旅行で他県に泊まっているし問題ないぜ」
「……相変わらずお前のお袋さんは放任主義なのな」
「実質一人暮らしだ。……だがまぁ、今後は本格的に一人暮らしになりそうだけど」
能力に覚醒した能力者を『孤独』に陥らせないよう、アンダームーンに移住することを推奨されている。
そのことについてもコウに説明していたため、コウは自身がアンダームーンに移住すると言うことを把握しているし、そしてそのことについても受け入れているようだ。
「まぁお袋とは永遠に別れるってこともないんだろ? それに今は親友のために使いたいしな」
「……世話焼きだなお前」
「お前に言われたくねーよ」
そう軽口を叩き合う二人は、一年ぶりにやった互いのやり取りに二人は笑みを浮かべて懐かしむように肩を叩き合った。
「さて、先ずどうすればいい?」
光となったコウがアッパーを連れてアフリカ大陸に行く必要があり、そのためには道中建物や壁があれば光速で激突する羽目になるため二人は天つ名町を見渡すことができる展望台にいた。
天つ名町で最も高い場所にいる展望台なら障害物なしで光速で行けると判断したからだ。
『はーいここからはクロノスに変わって私、ノウンが説明するわよ』
『ちょっとノウン、『念話』に割り込まないでくれる?』
途端に聞こえる新しい声の人物であるノウンが、アッパーとコウの脳内に響き渡りクロノスがノウンに苦言を呈する。
そんな彼女たちのやり取りにコウが頭を抱えて苦笑いを浮かべる。
「おぉ……頭の中で女性の声が響くのまだ慣れねーな……」
「館内放送だと思えば行けると思う」
念話に慣れないコウに、アッパーは適当にアドバイスを送る。
館内放送だと思っても声は耳ではなく直接頭の中に響いているため、すぐには慣れないだろう。
『さてコウ君と言ったわね、私が貴方に能力の使い方というものを教えてあげるわ』
「うっす!」
『ざっくり言うとイメージよ。以上!』
「うっす! ……え?」
『使い方というのは覚醒した時点で既に分かっているものなの。それに新たな発想や小さなきっかけだとかで新しい使い方に気づくのよ』
「え、でも俺能力の使い方とかそんなに経験があるわけじゃ……」
『能力を出すという経験があれば十分よ。先ずはその経験を思い出して、貴方の体に光が包み込んでいるイメージで能力を使いなさい。そして走って』
「えぇ……と」
矢継ぎ早に説明してくるノウンに困惑しながらも、コウは彼女の言う通りに体を包み込むように光を纏う。
コウの体が発光し、夜の時間帯からなのかその強い光源にアッパーは眩しそうに目を細める。
『光というものは常に前に進んで行くものよ。だから貴方が光を纏って走る際はただ一歩前に進めばいい。そして止まるにしても方向転換をするにしても貴方が自分の足で使うしかない』
「……」
『貴方が光を纏ったことで、これで晴れて貴方は光になったわ。当然貴方の反射神経は光の速さに対応できるぐらいになっているから、自分の速さに着いて来れるはずよ』
ノウンの説明を聞きながら、光と化したコウが走り出すために左足を前にそして右足を後ろにやり、腰を屈める。
コウの深く息を吸う音が聞こえ、暫くした後にコウの体は光の残像を残して先ほどより後方の場所に現れた。
「はぁはぁ……ヤベェ……」
「お、おいどうしたコウ?」
既にコウの体を纏っていた光はない。
コウの様子からして恐らく光の速さで走ったのだろうと分かったのだが、一歩前に進んだ瞬間からアッパーの目であってもコウの姿を捉えることはできず、そして気が付けばコウが先ほどいた場所より後方に現れたと言うことでアッパーは一つの仮説を思い浮かんだ。
「まさか、コウ……」
「ヤベェよ俺……世界、一周してしまった」
光は秒速約三十万kmの速さで動き、これは一秒で地球を七週半もする計算になり、時間でいえばまだ一秒にも経っていない頃だ。
つまり光を纏ったコウはアッパーの想定通り、コンマ数秒以下で地球の各地へと行ける速度を誇っており、これによって当初は三時間も掛かるかと思われた道のりが一気に短縮されたわけである。
「あぁ、でも俺アフリカ大陸の場所知らねーわ」
そう頭を掻きながらアッパーに言うコウ。
どうやら先ほどの世界一周は直線上にアフリカ大陸はなかったらしく、そのまま世界を一周した感じらしい。
そんなコウにクロノスがこう提案する。
『そこはアッパー君に案内するしかないわね。光の速さじゃあテレちゃんの『念話』で届いても私たちの話すスピードじゃあ貴方の速度にとって遅すぎるもの』
「はい? でも光の速さっスよ? 広樹でも着いて来れるんスか?」
『まだまだアッパー君の凄さを分かってないらしいわね』
現在のアッパーでは確かに光の速さに着いて行くことができない。
だからアッパーの能力である『強化』で自身の反応速度を光の速さにまで強化するのだ。
そう言ってクロノスがコウにやって貰ったのは、アッパーの前で自身の手を光の速さで右から左に移動させるというものだった。
そして移動している途中、コウは指を立ててアッパーは自身の能力でコウが立てた指の本数を把握するまで強化し続けるというのが今回の訓練法だ。
そして三分後。
「よし、今度の指は何本だ!」
「三本」
「お前順応早くね!?」
最初の一分は流石にアッパーの目で持ってもコウが立てた指の本数は見えなかったが、徐々に反応速度が上がり僅か三分で光の速度に対応できるようになったのだ。
このあまりの速度に提案したクロノスも呆れており、コウに至ってはアッパーのデタラメな成長速度にアッパーが規格外だというのを理解した。
「……ということで準備は万端だな」
「そうだな……アフリカ大陸ってこの方角でいいんだよな?」
地図アプリを開いて自身が立っている方向とアフリカ大陸への直線上の方角をアッパーに確認しながら、向きを調整するコウ。
そして確認し終えたコウはアッパーを呼び、アッパーはコウの前に立った。
『コウ君』
「ん? えーと学園長で良いんだっけ?」
『えぇ、今後貴方が転入する超能力学園の学園長だから別に間違っていないわ。……ごめんなさいね、本当なら能力に覚醒したての能力者をこのような危険な任務に参加させるのは間違っているのだけれど……』
何せ能力に覚醒したての能力者がいきなり実戦投入されるという前例がアッパーによって作られ、現地で見つけた能力者が強力な能力を持っていた場合、協力を申し込むことも作戦の一部となっていた。
それに加えてデストロイヤークラスエネミーの襲撃によって現在のアンダームーンには強力な能力者の人材が不足しており、コウの意思も手伝って止む得ず参加させることを認めたのだ。
『だけどこうして貴方が参加してくれたことには頼もしく思うし、感謝もしているわ。だからコウ君、貴方もちゃんと生きて帰ってくるのよ』
「大丈夫っスよ! 何せこっちは超人の広樹がいるんスからね!」
「コウのことはちゃんと守って、そしてちゃんとみんなも助けますから」
『ふふふ、それじゃあ頼んだわよ二人とも。みんなを救って、あの半透明野郎をぶっ飛ばしなさい!』
『はい!』
コウが前に立っているアッパーの両肩に手をのせ、アッパーを含めて自身の体を光で包み込む。
そしてそこには暗闇の展望台に輝く光の塊があり、そして消えた。
「うぉ!?」
時間にすればコンマ数秒以下。
だが本来ならば瞬間移動的な感覚で移動するつもりではあったが、アッパーたちが目的地に着いた途端コウが体勢を崩したのか二人は結構な距離を転がった。
「ぐっ……おい、どうしたコウ!?」
「す、すまんなんか引っ張られた感覚がして……」
辺りを見渡せば砂漠が広がってはいたものの、遠くに見える風景とアッパーが記憶していたアフリカ大陸の地図を見比べても、本来の目的地よりも数キロメートル離れていた。
コウ曰く、光速移動中に何かコウの体が引っ張られたことでコウの集中が途切れたことで目的地に着く前に能力が途切れたらしい。
「引っ張られた? ……まさか」
嫌な予感がアッパーの脳裏に浮かぶ。
そして自身の感知に良く知った存在が引っかかったことで、アッパーは顔を顰めて感知した存在がいる方向に目を向けた。
「いてて……ん? どうした広樹」
「本当に……俺の神経を逆撫でをするのが得意なようだなスピリット……!」
その瞬間、アッパーの目の前に一人の少女が突如として現れアッパーに向かって拳を振り下ろしていた。
「――まゆりッ!!」
見間違える筈もない。
そこには正気を無くし、涙を流しながら義理の兄に向かって攻撃しようとしている妹の姿がいたのだ。




