第14話 光明の能力者
アッパーもコウも先ほど起きた光景に呆然とした。
一般人であるはずのコウの手のひらから線状の光が現れ、アッパーの元へと落ちてくるエネミーの体を消し飛ばしたのだ。
「な、なんだよこれ……」
「コウ……お前まさか」
この事態を起こした自身の手のひらを見つめながら困惑するコウに、アッパーが何か心当たりがあったのか目を見開いてコウを見つめた。
『どうやら目覚めたみたいね』
「な、なんだ!? 頭に女の声が!」とコウが頭を抱えて悲鳴を上げる。
アッパーの方にもクロノスの声が聞こえるため、目覚めたという言葉を使ったクロノスに確認するように声を出した。
「学園長……もしかしてコウは」
『えぇおめでとうアッパー君。貴方の親友は貴方と同じ能力者に目覚めたわ』
「アッパー? 能力者? お、おいどういうことだよ広樹!?」
未だに何が起こっているのかは分からないコウは同じく動揺しているアッパーに詰め寄る。
しかしその直後にやってきたイスの歌がやってきたため、アッパーはコウの質問を答えることができなくなった。
「な、なんだよ……」
コウの目から見れば、再びやってきた歌声をアッパーが口を開いただけで和らいだように感じた。
そんなコウにクロノスが説明するように頭の中に語りかける。
『今アッパー君は先ほどの歌を軽減するために、逆位相の音を出しているのよ』
「は、はぁ!? 逆位相の音って人間が出せるものかよ!?」
一時期バンドに憧れて勉強をしたことあるコウは、その途中で音の波を逆位相の波を重ねれば音が消えるということを知ったことがある。
当然その音を出すのには専用のソフトを使うということも知っており、人間の声じゃ逆位相の音は愚かその音の完璧な逆位相を把握するのは不可能だということも知っている。
『それをできるようになるのがアッパー君の能力なの』
「の、能力……? いやそれよりも聞きたいことがいっぱいあるぞ!」
何故広樹のことをアッパーと呼ぶのか、そもそも能力とは一体何のか。
その様子はまるで初めて能力者について聞かされた時期のアッパーのようだ。
『説明したいのは山々だけど、残念ながら時間はあまり残っていないの』
クロノスが残念そうに言う。
だがその次の彼女の言葉にコウ、そしてアッパーが驚いた。
『コウ君、と言ったわね? 今から貴方にアッパーのフォローとして上空のエネミーの討伐に参加してもらいます』
「え!?」
「――ッ!」
クロノスの言葉にアッパーはクロノスを睨めつけようとするが、先ほどからコウとクロノスが会話していたため、必然的にコウを睨めつけているように見える。
(学園長! 能力者と言ってもコウは能力に覚醒したばかりなんですよ!?)
心の内に言葉を思い浮かべて『念話』しているクロノスに抗議するアッパー。
そのかつて能力に目覚めて三日のアッパーがエネミーの大軍に立ち向かった過去を棚に上げた発言にクロノスは乾いた笑みを浮かべるも、顔を引き締めて確固とした決意で反論をした。
『アッパー君、これは緊急事態なの。こちらで人員を用意してもいいけどそれじゃ時間がかかる。幸いコウ君はクライシスクラスのエネミー相手でも有効な能力を持っていると先ほどの発現で証明されたわけしね』
(そういう事を言ってるんじゃない! エネミーも、イスも俺一人で十分なのは学園長も分かっているんだろ!? この戦いに無関係なコウを巻き込むなと俺は言っているんだ!)
「――無関係、ね」
敬語も忘れるほどのアッパーの怒り。
だが心の内で思い浮かべたその言葉はテレの『念話』を通じてコウに伝わっており、そのアッパーの言葉を聞いたコウは自身の声を低くして、呟いた。
「無関係だと思うか広樹?」
「……」
その言葉にアッパーはコウの意図を理解すると目の前の親友を睨み、コウもまた決意を込めた眼差しでアッパーを睨んでいた。
「あぁ確かにこの戦いと俺は無関係だよ。だがそんなもの関係ねぇ!」
目の前の親友に信念を叩きつけるように声を上げる。
幼い頃から他人を助けては怪我を負い、まるで強迫観念のように人を助ける自分に悩みながらもそれでも人を救い続ける親友。
幼少の頃から精神は異常だった。
現在はその身体までもが異常になっていた。
まるで人を救うための機械が人の皮を被って稼働しているような存在に、だからこそコウは目の前の親友に自分が戦う理由を叩きつける。
「俺はなぁ、お前が戦うから俺も戦うんだよ!!」
単純に放って置けないだけなのだ。
人を救うために自分の身を顧みず、それでいて周りが礼を言おうとも誰も目の前の親友を助けないし、助けられない。
誰も親友に着いていくことはできず、追い付こうともすぐ引き離される。
だからコウは親友を助けたい。
他ならない目の前の人に助けられた存在の一人として。
「――」
その言葉にアッパーは呆然とした。
だがイスの歌にコーラスが追加したことで激しさを増していったことで、アッパーはコウの参戦について諦めることにして、イスの方向に体を向いた。
(……勝手にしろ)
その際、後ろにいるコウに向かって言い、アッパーは跳躍した。
『なんとか許可が降りたわね』
「あぁ見えて、あいつ照れてるんスよ」
クロノスとコウがそのように言葉を交わす。
そしてコウは先ほどのやり取りで数体地上に着地したエネミーと未だ空中に落ちているエネミーの大軍を見て、二つの拳を突き合わせた。
「さて! 戦うって言った手前、俺初めてなんスけど大丈夫っスかね?」
『えぇ大丈夫よ。声のみの初対面だけど、私を信じなさい』
戦う本人ではないのにその自信満々に断言した女性の声にコウは笑みを浮かべて「了解!」と声を出した。
『能力者は自らの命の危機や大切なモノに対する危機に能力を覚醒しやすくなるわ』
コウは元々能力者に覚醒する素質はあり、その証拠としてアンダームーンの記憶処理を受けてもアッパーの事を記憶していた事がその証拠だ。
能力者の脳はある程度脳に対する外部の干渉に耐性があり、アンダームーンの記憶処理程度ならば能力者、もしくは能力者になれる素質を持つ存在なら耐えられるのだ。
その性質を利用して能力者を探す方法もあるので、コウがアッパーの事を覚えていたと分かった時点でクロノスはコウが能力に覚醒する可能性があると感づいていた。
『貴方は自分の親友に危機が迫っていると思って能力を覚醒したの。さぁあの化け物に向かって手を伸ばしなさい』
「……」
クロノスの言葉通りにコウは先ほど線状の光を出した右手をエネミーに向かって伸ばす。
『貴方は能力を使った時点で自身の能力に関する認識が貴方の脳に刻まれた』
あとは自分の認識通りに能力を使用するだけである。
息を吸い込み、そっと吐く。
思い出すのは手のひらから出した線状の光の感覚。
その感覚を思い浮かべると同時にコウの手のひらが光輝く。
――準備は終わった。
「ッ! 食らいやがれェ!!」
その瞬間、自身の意思で出したその自身の身長をも超える幅の光線は目の前で縦に並んでいる地上のエネミーを一気に消滅させた。
「う、ウォォオオオオオオ!!!」
だが止まらない。
コウはそのまま手を上に振り上げると、手のひらから出しているその光線の軌道も上に移動し、上空にいるエネミーどもを巻き込んで徐々に小さくなり消えた。
「は、ははは……すげぇ」
自分が起こした通常では考えられない異常な光景にコウは乾いた声を出した。
『まだまだ終わりじゃないわよ』
「あ、あぁ! そうだな!」
先ほどの光線で目に見えるエネミーの姿は消し飛ばした。
だが上空では先ほどのように消し飛ばしても次から次へとまるで滝のように空間からエネミーが溢れていた。
「なら今度は!」
両腕を空に上げ、二つの手のひらをエネミーに向ける。
「行くぞォ!」
声高らかに叫ぶと、コウの両の手のひらから先ほどのような光線が飛び出た。
だが今度はそれだけじゃない。
コウの両手の指からも細長い光線が現れ、手のひらから出た二つの光線を間一髪で避けたエネミーに誘導し追撃していったのだ。
『(短時間で使いこなしている……! 今代の光明の能力者は才能がぶっ飛んでるわね!)』
能力者の世界はまるで隔世遺伝のように過去の人と全く同じ能力を覚醒する能力者がいる。
その中でもとりわけ太陽、大海、大地、大気、暗闇、光明と呼ばれる『独自系』の能力が隔世遺伝しやすく、その能力を持った能力者はその時代に一人しか生まれないのだ。
コウはその『独自系』の中で光明と呼ばれる『光を司る』能力に覚醒させた存在だ。
ならばこれまでの光景に説明が付く。
クロノスがコウの素質に気づいたのは確かにコウがアッパーについて記憶していたからではあるが、それでも流石にコウがどのような能力を覚醒するのかは分からない。
しかしコウはアッパーの予測していた合流時間よりもアッパーの目の前に現れ、エネミーと戦っているアッパーの速さに目が追いついていた。
それに加え、コウがアッパーを助けるために使った光線によってクロノスはコウが覚醒したのは『独自系光明』だと気づいたのだ。
コウがアッパーの動きを見えていたのは彼の視神経が光の速さで動いているからであり、アッパーの予測していた合流時間よりも速く合流して見せたのはコウが無意識に自身の体を速くさせていたからだ。
『神に愛されているわね、アッパー君』
似た能力である体外で光を操るだけの『現象系』とは違う、光そのものになる能力がコウの能力。
偶然この町に転移し、偶然能力者の素質があった親友と出会い、偶然その親友が能力者に覚醒した。
三度も続いた偶然ならばこれは必然であり、そのあまりの展開にクロノスは思わず笑みを零した。




