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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
第三章 前に進むために
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第11話 親友との再会

 水無月光ことコウと斎藤広樹ことアッパーは、物心ついたときから一緒に過ごしていた幼馴染である。

 そこにアッパーの義理の妹であるラビィも加わって、三人はラビィが八歳になるまで過ごしていた。


 八歳、つまりラビィが烏丸家に誘拐された年である。

 その異常事態にアッパーは隣家や警察に駆け込み、妹が攫われたと相談したがその時は既にラビィに関する記憶や持ち物が消えており、誰もアッパーの相談を真に受ける者はいなかった。


 誰も真に受けることが無かった理由の一つとしてはアッパーを育ててくれた両親が亡くなったこともあり、そのショックからいもしない妹の幻覚を見たのだという理由もあった。

 やがてどうにもならない現実に諦めたのか、アッパーは誰の助けを借りずに一人でラビィを探すこととなった。


 その傍ら、アッパーは自身の体を突き動かす人助けへの本能から人を助けるための活動も並行して行っており、幼き頃からその本能について知っていたコウもアッパーの助けとなるよう一緒に活動していた。

 そしてそれらの活動は彼らが十六歳となった頃、とある事件が起きたことで止まった。


 そう、世間では原因不明の爆発事故とされたが裏では地球では現れない筈のエネミー襲撃事件のことである。

 その事件を経て、コウとアッパーは離れ離れとなった。




 ◇




「広樹、広樹だよな! お前今までどこに行ってたんだよ!?」


 一年ぶりに会う親友は、一年前よりも成長はしているものの外見的な変化は無かった。

 短く切り揃えた明るい茶色の髪にラフな服装を好むなど、チャラい雰囲気は感じられるもののその整った好青年のような顔立ちをしている彼は、その顔をやつれさせながら広樹に詰め寄った。


「心配、したんだぞ……畜生……ッ」


 アッパーが昏睡状態に陥っている間にも、そして昏睡状態から目覚めた時からでもアッパーのことを探していたのだろう。

 ようやくアッパーを見つけたからなのか、やつれ気味な顔に笑みを浮かばせ、その目尻には涙が浮かんでいた。


「コウ……」


 アッパーもまた一年ぶりの再会に喜びの感情はあったが月世界の仲間がエネミーの傍にいるという現状に彼との再会に喜んでいられなかった。


(いやそれ以上に……どうしてコウが俺のことを覚えているんだ?)


 クロノス曰く、アッパーがアンダームーンに移住すると決めたその日にアッパーが育った町である『天つ名町』の住民にアッパーに関する記憶の処理を施したという。

 具体的な記憶処理の日は昏睡から目覚めた日以降からなので、大体一ヶ月前の話である。


 流石にラビィの存在ごと忘却という規模とまではいかないが、アンダームーンの記憶処理はその人物に対する認識を薄れさせ、その人物に関する出来事を思い出さなくなるという物だ。

 ならば記憶処理を施した日数が足りなかったのかと思えばそうでもない。

 アッパーが能力を覚醒したきっかけである交通事故を僅か一日に隠蔽したということもあり、アンダームーンの隠蔽処理能力は非常に速効性の早い物だ。


『へぇこの子まさか……』


 すると『念話』で繋がっていたクロノスが何かに思い至ったのか面白げに呟くのが聞こえる。


(学園長は何か分かっているようだ……だけど)


 今のアッパーはなるべく早く仲間たちを救わなければいけなく、学園長の面白げな様子から鑑みてもコウに関する危急性は無いと見た方がいいだろう。


「……なぁ広樹」


「すまん、俺行かないと……」


 本当はラビィやアンダームーンの事を昔のように語り合いたかったが、能力者ではないコウにアンダームーンの事を話せないし、その時間もない。

 コウの呼びかけを無視してアッパーはコウの横を通った。


「待てよ……お前人を助けようとしてんだろ?」


 その声に、アッパーの歩みが止まった。


「その様子を見れば分かるさ、お前はこれから人を助けようとしてるってな。……そんで久しぶりにあった親友を振り切ってまで行くということは俺を巻き込ませないようにか、もしくは時間がないか……だろ?」


 その今のアッパーの状況をほぼ完璧に推測したコウに、アッパーは内心笑みを浮かべる。

 やはりコウは鋭いなと思いながらも、それでも今の状況を悟らせないように無表情を装いながらコウに向かって振り返る。


「……やっぱり、ポーカーフェイス上手くなったな広樹」


「……それって、何か関係あるのかよ?」


「無関係じゃないさ、それってつまりお前が消えた一年の間に色々なことがあったから上手くなったんだろ?」


 確かにコウの言う通り、今のアッパーのポーカーフェイスはその様々な出来事から経た強化によって誰もアッパーの内心を読み取ることができない精度となっている。

 しかしコウの前では逆にその精度のポーカーフェイスをしているアッパーだからこそ、アッパーがこれまでどういった出来事を経験してきたのか察することができたのだろう。


「本当はもっと話したかったけど……行けよ」


 コウの表情は寂しげではあるが、先ほどのやつれていた表情より晴れやかな様子だ。


「……いいのか?」


「優先順位考えろよ、お前は今急いでるんだろ? それに全然変わらないお前を見て、俺はホッとしてるんだ」


「……」


「まゆりっていう妹を見つけたんだろ? お前を必要としてくれる人がいるんだろ? もう分かった。お前はお前だった」


 ――それで十分だ。

 その言葉を聞いたアッパーは一瞬目を見開いて、そして久しぶりにコウに向けて笑みを浮かべた。


「……やっぱり、お前は俺の親友だよ」


 伊達に長年アッパーの親友を務めてた存在ではない。

 しかしアッパーもコウの親友でありコウが今どのような気持ちなのかも理解しており、だからこそアッパーは何も言わずに、いやただ一言だけ言ってその場から消えるように去った。


「……消えた」


 常人離れとしたアッパーの去り方にコウは呆然とアッパーがいなくなった場所を見ていたが、やがて何か察したのかコウは、壁に背を預け夕暮れの空を見上げる。


「……『終わったら全部話す』、か……ったくお人好しめ」


 アッパーが去り際に放った言葉だ。

 本来ならば能力者であるアッパーが一般人であるコウに能力者に関する話を話すのはアンダームーンの決まりに反するものだ。

 だがこれはアッパーのコウに対する誠意であり、せめてもの覚悟だ。


「……俺は」


 本当の事を言えば、コウはアッパーの助けになりたかった。

 だが先ほどのアッパーの動きや、彼の纏う雰囲気からは助けになろうとも足でまといになるのは目に見えていたため、自身の感情を抜きにしてもアッパーの用事を優先させたのだ。


「……また、な……親友」


 そう言って、コウはこの人気のない場所から表の道に向かって歩き出す。

 しかしその瞬間、コウの耳元に脳を揺さぶるほどの『音』が聞こえ、思わずその場に膝をついて頭を抱えた。


「ぐっ……!? な、んだよこれ……!!」


 何が起こっているのかは分からない。

 だがこの人気のない場所から見える表の道を見れば、誰も彼もが今のコウと同じく頭を抑えながら呻いていた。

 その光景に困惑するコウだが、この現象とアッパーが無関係ではないと何故か思った。




 ◇




 体を全力で強化し、一瞬の内に『天つ名町』の外れまでやってきたアッパーはそこで立ち止まり、かつて自分が育った町に振り返る。


『アッパー君、良かったの?』


 クロノスが気を使うようにアッパーに尋ねるが、アッパーは首を振って問題ないとクロノスに返した。


『そう……貴方たちの信頼関係はとても強いようね』


「……親友、ですから」


 多くは語るまい。

 ただその一言だけあればアッパーとコウとの関係は説明できる。


 そうクロノスに言ってアッパーはサハラ砂漠にある方角に向くと、全身に強化の力を張り巡らせて走る体勢に入る。

 なるべく早く仲間を救い、そして妹とアンダームーンでできた友人たちと共にコウの元に行くと決意をその胸に抱きそして――。


《――どこに行こうって言うの~?》


「ッ!?」


 突如耳元に鳴る『女性の声』。

 そしてこれから立とうとしている『天つ名町』から感じる『見知った気配』。


「この声、この気配は……ッ」


『どうしたの!?』


《あ~なんていう最高の舞台! この舞台で私のコンサートが始まるのね!》


 心臓がバクバクとうるさく鳴る。

 まさか、もしやと頭に思い浮かびながらも感情が認めたくないと苦悩する。


《綺麗な景色! 幸せな人々! 私を表現するのに最高のシチュエーション!》


 何故ここにいるのか。

 何をやるつもりなのか。

 どうしてこうなったのか。


 疑問が尽きない。

 しかし時間が足りない。


《私の歌を聞いて! これが私の『欲望(デザイア)』!!》


 その瞬間、『天つ名町』中に美しくも儚い欲望の葛藤が鳴り響く。

 聞けば心を揺さぶる筈の歌。

 聞けば感情を揺さぶる筈の歌。


 しかしそれは、人々の苦痛を増加させる『音』だった。


「ぐ、うああ……ッ!?」


 スピリットのような内的要因で起きる苦痛じゃない、久しぶりの外的要因による苦痛がアッパーを苦しめる。

 頭が『天つ名町』に鳴り響く曲のテンポと共に痛みが生じる。


「『全力強化(フル、ブースト)』……!!」


 これは耳を伝って脳にダメージを与える類の歌だ。

 スピリットとの戦いを想定して『全力強化』をするという理由もあるが、それ以上にこの歌に対する耐性を今すぐ上げなければまともに動けない。


『アッパー君! 町の人々が……ッ!?』


 クロノスの声に急いで『天つ名町』にいる住民を遠目で見るアッパーの視界に、住民が頭を抑えてうずくまる光景が映った。


「クソ、無差別かよ!」


 アッパーはもうこの『歌』に対する耐性が生まれているため苦痛は感じなくなったのだが、一般人に関しては耐性を得ることなど無理な話であり、その場で苦しんでいた。


「どうして……どうしてだイス(・・)!!」


 叫ぶように声を荒げるアッパー。

 彼が叫んだその言葉は共に任務に参加した仲間の一人の名前であり、今はスピリットの元にいるはずの女性の名前。

 そして、今この状況を生み出している元凶の名前でもあった。

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