第10話 加速する物語の先へ
原因不明のエネミー襲来を退け今広樹達は瀕死の状態で生き残っているエネミーを始末し回る。そんな中、広樹は既に警戒を解いている姉妹とは違い未だに警戒をしていた。
(なんだ……? なんか誰かに見られているような感覚が……)
こちらをじっと見つめる視線。それはまるでこちらを敵視している様な感覚で、今現在その視線から向けられている広樹は不気味に感じていた。
全力で感知系を強化しても雲を掴むように今でも視線の持ち主を掴むことが出来ないでいた。
「どうしたんだ広樹?」
広樹はその場でキョロキョロしているため当然周りは疑問を抱くはずで事実、広樹の様子を見かねたサイが先程の質問してきた。
「いや、なんか誰かに見られているなーって」
広樹は未だにキョロキョロしながらこちらに近づいたサイに振り向かずに正直に答えた。
「そうか? オレは何も感じねえけど」
だが自身の能力でさえ感知出来ない視線の持ち主を、『念力』という能力を持っているサイには感知することが出来ないのは明白でそんな答えを予測していた広樹はサイをスルーして探し続けた。
一方、質問に答えたのにスルーされたサイはというとそんな広樹を見て頬を膨らませていた。誰が見ても拗ねているという表情だ。
「あっ! お前の姉ちゃんに聞いたほうがいいなこれ」
何せ、初見とはいえ広樹の強化した感知をすり抜けた『バスタースパイダー』の攻撃を予知したアイがいるのだ。
そんな彼女ならば今広樹が感じている視線の謎も解けると思い、アイの元へと視線を向けるが……。
「アイ!?」
「姉ちゃん!?」
アイが倒れていた。幸い周囲のエネミーは粗方始末し終わっていたので危険はないが、広樹は急いで自身の身体を強化し、一気にアイの元へと駆け寄る。
アイの呼吸は荒く、身体は震えていた。顔を見ればそこには顔面蒼白で、目元は濃い隈が出来ていた。
「おい、おい! 大丈夫かアイ!?」
「……い……」
「い?」
「……眠い……」
一瞬、時が止まった。急いで来て見れば単なる急激な眠気で倒れたらしい。遅れて来たサイは姉の容態を見ると手を顔にやり、あちゃーという様な様子をしていた。
どうやら自身の姉が倒れたことに悲鳴を上げたが冷静になると何故アイが倒れたのか見当がついたらしく、自身の懐からホットアイマスクを姉の目元に置き溜飲を下げた。
「おい、自分で納得してないで俺に説明しろ」
「え? あ、ああすまん。その前に姉ちゃんは起こさないでくれ、死ぬほど眠いんだ」
まるで某一人で第三次世界大戦が出来る大佐が出てくる映画のような台詞を吐いた彼女に広樹は少ながらずイラッとした。
広樹がイラついていることに速攻で気付いたサイは慌てて具体的に説明をし始めた。
「えーと、姉ちゃんが能力を使うと急激な眠気に襲われるって説明したよな?」
「なるほど、それじゃあアイが倒れたのもアイの能力による副作用って訳か」
「それもある。だけどそれ以前に姉ちゃんは未だに昨日以前の副作用を終えてねぇんだ」
自身の能力を試すために街の外へと出かけた広樹を探すために一回。そして、広樹に自身の紹介を手っ取り早く説明するために能力を使った。それが二回目。どうやらその二回も使った能力の副作用である睡眠をアイは未だに終えていなかったのだ。
「だけど急激な眠気に襲われて寝るんだろ? 起きるにも起こすにも苦労するはずだが」
「そこはまぁ……仲間の一人に『声音』の能力を持っている奴がいてな、予め緊急事態に備えて細工していた携帯にかけて姉ちゃんを起こしたんだ」
(なるほど。どうりであの時、電話をするなんて言ったんだな)
だがもしサイが動いてくれずにそのままだったら、もしアイがここ場に来てくれなかったら、あの時広樹は怪我を受けていたのかもしれない。
そこまであの『バスタースパイダー』の砲弾はあの時の広樹にとって脅威だと感じさせた。
あの時、アイが起爆させずに火薬を切った瞬間を広樹は見た。
火薬の量と密度は異常で、それは確実に自身の強化した防御力を貫き怪我をさせるほどの威力を持っていると感じる程だ。
治癒能力を強化すれば怪我ぐらいなら回復させることは出来るがその間にエネミーは襲ってこないという保証はない。
少なくとも広樹はそう思っている。実際はその時助けに来たアイの見立てでは例え直撃しても広樹の防御力を貫けないだろうと、判断していたが実際の威力を確認していない広樹はそのまま脅威だと感じたようだった。
広樹は改めて自身の副作用を省みずに助けに来てくれたアイとアイを連れて来てくれたサイに感謝をした。
「なぁサイ、情けないよな。あれだけ啖呵を切ったのに二人に助けられて。二人がいなかったら危なかったぜ」
そんな言葉を聞いたサイはきょとんとしたような表情をし、苦笑いを浮かべた。
「別に、男は見栄を張っても――!?」
「!?」
未だに寝ているアイを除いて、広樹とサイは突如強くなった敵意を含めた視線に驚愕する。
「お、おいこれが広樹の言っていた視線とやらなのか!?」
「クソッいきなり強くなっ――」
瞬間、広樹たちの身体はまるで重力を無くしたかのように下へと落ちた。
「――嘘だろ?」
広樹は呆然とそう呟くしかなかった。寝ているアイを抱え、落ちている身体を制御させ上を見る。そこには手の平大のハエが五角形に並んでその中央から元いた場所の空間が見える。
「あれって……まさかディメンジョン!? あいつ等単体で空間を干渉するなんて聞いたことないぞ!?」
ディメンジョン。
それが広樹達を今まさに下へと落ちている現象を作った存在らしい。周りを見れば、元は朝の時刻で明るかった空はまるで夕暮れのようなオレンジ色だった。
(空間を干渉するということはまさか違う国の空に転移されたのか!?)
だがその考えは直ぐに打ち消されることになる。何故ならば広樹は、夕方の時間帯のはずなのに空には青く輝く惑星と銀色に輝く星が見えたからだ。
「……地球と月……?」
見間違えるはずもない。あれは間違いなく、テレビや教科書で見た地球と月だった。
もしそれが本当ならば、今広樹たちがいるこの場所は一体なんなのだろうか。空もある、空気もある、重力もある、そして見渡す限りの境界線が見える。
――おかしい。
これほどの環境、何故誰も話題にしないのか。明らかに惑星規模の、そして地球以外でも住めるような惑星を見落とすことはないのに。
「マジかよ……広樹、多分オレたちはここで死ぬかもしれない……」
一緒に落ちているサイがそんな弱音を吐いた。だがそれも仕方ないことだった。広樹もまた、今起きている状況に絶句していたのだから。
四方八方に広樹たちを取り囲む四つの光景。
前には炎の塊。後ろには水の塊。
左には嵐の塊。そして右には、土の塊が。
そんな軽く目では測れないほどの四体の巨体が広樹たちを取り囲んでいたのだ。
「災害級のエネミーが四体……」
サイの絶望を呟く言葉が広樹の耳に入り、そして消えた。




