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ブーストアッパー ~加速する強化の先で~  作者: クマ将軍
プロローグ 願いを受け継ぐ貴方に
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第1話 能力の覚醒

 今はまだ自我の無い貴方へ。


 我々の運命は破滅へと向かっている。


 それは決定されたことで、未来では過去の出来事になっている。


 過去を変えることは出来ない。


 それが世界のルール。


 何故なら過去は既に起きていた出来事なのだから。


 滅び行く私達に不安は無い。


 唯、未練があるとすれば貴方の成長を見ることが出来ないこと。


 だから貴方に託す。


 我らの本能を、皆を守り敵を滅せ。


 私達の使命を、人と寄り添い孤独を癒せ。


 願わくば、貴方の道を貫くように。




 ◇




 2014年8月5日、日本。


 その月であれば学生達が夏休みを謳歌している月だ。

 皆が皆、思い思いに自由な時間を予定に組み込む幸せな日々を過ごす、そんな月だった。


 だがそんな幸せな時間の中、とある場所で悲劇が起きようとしていた。


「はっ……はっ……!」


 ある一人の少年が必死に走っている。


 目の前には向かいの歩道に渡るための横断歩道があり、現在の信号は赤。

 走る少年と横断歩道の間にはそれなりの距離がある。


 だがその横断歩道の真ん中に、一人の幼い少女が立っていた。


 手に持っているボールを見れば、恐らく少女はボールを追いかけるために横断歩道の真ん中に入ってきたのだと想像に容易い。

 だが最悪なのはそんな少女に向かっていく一台のトラックの姿があったのだ。

 なのにブレーキの音は聞こえず、それどころか速度は微塵も緩まない。


 猛スピードでこちらに向かってくるトラックに少女は呆然と立ち止まっている。

 動くにしても遅すぎる距離である。

 あと数分もすれば誰もが想像する最悪な状況が出来上がるだろう。


 だからこそ、少年はその少女を助けようと必死に走っているのだ。


「間に合え……ッ!」


 別に知り合いでもない赤の他人同士。

 しかし周囲の人々の様にただ呆然と見殺しをする事もなく少年は必死に走っていく。


 体が勝手に動く。

 本能が少女を助けろと身体に命令していく。


 だが間に合わないと理解してしまった。

 目の前の少女を助けることはどう見ても無理なほど少女との距離は遠い。


「間に合え……間に合え……!」


 まるで呪詛のように体に命じ込む少年。

 例え間に合っても精々が少女とトラックの間に割り込めるだけ。

 少女もろともトラックによる人肉の粗挽きが二つ出来るのが現実だ。


 だから諦めの思考が走るのを止めろと言ってくる。

 見知らぬ少女のために死ぬなと囁いてくる。


『だけどもしここで走るのを止めたら俺は自分の事を許すことが出来るのか?』


 気付けば少年は少女の前にいた。

 勿論前方には猛スピードで迫ってくるトラックがあり、既に少女と一緒に避ける程の距離は無かった。


 ――残念な事に、これで運命は決まった。

 

 途端に、感覚が加速し周りがスローモーションになっていく。

 これが走馬灯だと気付くのに時間は掛からなかった。


 だが走馬灯であれば再生されるはずの過去の記憶が流れない。


 目線で辺りを見渡すと突然現れた少年に驚愕する人々が見える。

 そして目の前のトラックを見ると運転手は居眠りをしておりこの状況に気がついていなかった。


 だがそれを少年が気付いて一体何になるのだろうか。


『俺はここで死ぬのか』


 これは死に際に訪れる死を覚悟するための猶予期間だろうか。

 ならばと少年は受け入れるしかない。

 自分の死を悟り、今まさに迫る『死』を受け入れるように目を瞑る。


 だがそれでも心の底では霧が掛かったように今の状況に納得がいかない自分がいた。


『何に納得がいかないんだ』

 

 だから、少年はその納得の行かない自分に質問をした。

 もう諦めた自分に、諦めていない自分を諦めさせるために。


 ――まだ少女を助けていない。


 驚いた。

 もう一人の少年は、脳の奥底を響き渡らせ少年の問いに答えたのだ。


『もう無理だ少女は助けられないし、俺は死ぬ』


 ――俺はまだ死なないし、少女は助ける。


『どうやって?』


 ――俺を信じろ。お前に死ぬ運命は無い。





 どれ位目を瞑ったかは分からない。

 だが幾ら待っても未だに衝撃は来ず、身動きを取る事も出来ない。


『やはり……俺は死んだのか?』


 案外死ぬ時は何も感じないのだろうか。

 それにしても未だに自分の意識があることに疑問を抱く少年である。

 

 恐る恐る目を開けるが何も見えない。

 身動き出来ない代わりに首を動かす。

 すると、後方から光が差し込んでいることに気付いた。


「うぐ……ぐっ!」


 その光に向かって動こうとしたが身体は何かに挟まって動けない。

 だがそれでも無理して力を入れると急に己の身体に挟まっていたものが広がって行くのを感じた。

 

 幸いとばかりに自分の身体の方向を後ろに転換する。

 その際、己の身体を挟んでいたのは何やら硬いものだったと分かる。


 しかしこれも先程のように無理して力を入れると、案外とそれらが動く。

 それを掻き分けていくと視界一杯に光が広がった。

 

「ひっ」


 最初に聞こえたのは小さな女の子の悲鳴。

 その声に訝しげながら、少年は光に慣れていくと目を開けれるようになった。


 だが目を開けた先には少女がまるで幽霊を見ているかのような表情でこちらを見ていたのだ。


「……えっ」


 周りを見渡すと周囲の人々も少女と同じ表情でこちらを見ていた。

 そして自身の後ろを見ると、真ん中を中心にひしゃげていた大型トラックの姿が目に飛び込んできた。


「な、何が起こったんだ?」


 少年が混乱するのも無理は無かった。




 ◇




 その日の夜、夏であるにも拘らず冷たい風が吹きすさぶ高台に二人の少女がいた。

 二人の少女は夜の街を高台で見下ろし、互いに自身の耳に手を当てる。


「こちらアイ。予定通り対象のいる町に着いた」


 パッと見中学生にしか見えない少女がそう呟くと、二人の少女の耳に女性の声が聞こえる。


『了解♪ では貴女達の新しい家を対象の家の隣に用意していくわね♪』


「しっかしこんな遅くに急いで行かなくてもいいだろ? オレめっちゃ眠いんだが」


『もう~折角の新しい仲間かも知れないから張り切ろうよ!』


「学園長の言うとおりだサイ。シャキッとしろ。あと何回も言うようだが淑女がその口調で喋るのは良くない」


 だがサイと呼ばれた少女は不満らしく眠たげな表情で愚痴る。


「淑女は姉ちゃんだけでいいよ。それで対象は……えーとなんて名前だっけ?」


 サイの発言により姉であるアイは脱力し、無線で聞いていた学園長と呼ばれた人物は笑った。


「な、なんだよ……」


『あーあっはははっ!! あーもう本当にサイちゃんは残念ねぇ♪』


「サイ……お前ってやつは……それじゃもう一度確認するぞ」


「任務は能力を覚醒した対象を仲間にすること。名前は――」


 ――斎藤広樹という。


 それは、一人の少女を救った少年の名前だった。

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