21話 少年、初めて鎚を振るう
(´・ω・`)当たり前のことですが、剣って重量で斬るので軽きゃいいってもんじゃないんですよね……
ゲームだと重量制限があったりするので、割と最近まで軽い方が扱いやすいと勘違いしてました。
前回、見本としてナイフを渡された勇樹は、ジェイドに言われるままナイフを打ってみる事となった。
「まるっきりの素人ですけど、オナシャス!」
「うむ、まずは打つ前に触って金属の質を調べる所から始める。どんなに腕が良くとも、扱う物が悪ければ粗悪品しかできん」
ジェイドは煩雑に積み上がっていたインゴットから数本を抜き取ると、勇樹向かって放り投げるように渡す。
1本1kgはありそうなインゴットを突然投げられ、落としそうになりながらも慌てて受け取る。
勇樹は受け取ったインゴットを、真剣に両手に持って何かを比べるように持ち上げ、時々叩いて音を聞いて頷いた。
「うん、さっぱりわかりません!」
「む、何故だ」
「いや、何故と言われましても……寧ろどうやって分かるんですか?」
「土の声を聞けば分かる」
精霊族には、自分の司る属性の精霊の声を聞く能力がある。
彼らにとってそれは自然な事であり、ノームには触っただけでその土地を知る事が出来るという能力を持っていた。
この能力によりノームは、上質な鉱石を選り分けて使用する事が出来るのである。
「お前も出来るようになれば、上達が早くなる」
「無理ですよ!? 僕はノームじゃないですし!」
無茶を言うジェイドにツッコミながら勇樹は渡されたインゴットを返した。
渡したインゴットが雑誌でも積み上げかの様に乱暴に置かれるのを見て、勇樹は複雑な気分になる。
ふと疑問が湧き上がり勇樹はジェイドに聞いてみた。
「そういえば、その金属って何なんですか? 見た所、銀っぽい色ですけど」
「これか? これは加工前のミスリルだ」
「こ、これがミスリルっすか……」
ファンタジーでお馴染みのレア金属のインゴットが、端材の如く部屋の隅に薪などと一緒に積み上がっているのを見て、勇樹はなんだか切ない気分になった。
この世界でもミスリルは希少な金属なのだが、大地を操る事が出来るノーム達にとってはちょっと深い地層あって取り辛いだけの金属に過ぎなかった。
「銀が欲しいならタンザの所へ行け、魔法道具や錬金術には銀や金を使う物も多い」
「……いえ、延べ棒だけ貰っても手に余りそうなんで遠慮しておきます」
現在、勇樹はノームの住居を間借りして居る為、金属のインゴットなど貰っても使い道がなく、また通貨すら使う場所が無い。
全てが里の研究所になっているここは、食料や調理法を専門に研究する部門があり、専ら里で出てくる食事はそこの実験で出た廃棄品になる。
なのでノームの里では欲しい物は全て、余所の部署の不用品を貰ってくるという、物々交換すらないという需要に対して供給が余る小さなコミュニティだからこそ成り立つ形式を取っていた。
ジェイドは放り投げたインゴットに見向きもせずに、腰に差した鎚を引き抜いて勇樹に手渡した。
「とりあえず1本打つから合わせて振れ」
「え、いきなりですか? なんかこう、師匠の技術を脇で見て覚えろとか、椅子に座って手順を講義するとか……」
「ない、振って感覚を掴め」
「……サーイェッサー」
勇樹はジェイドに目で促されて、金床を挿むように向い合せに座る。
ジェイドは手慣れた様子で、ハサミで板金を掴むと炉の中に突っ込んで温め始める。
「そういえば、この炉に入ってるのって炭じゃないですよね。石炭とかですか?」
「いや、これは火の魔石だ。魔力を含んだ鉱石を加工するのに炭や石炭では火力が足らんしエンチャントも付け辛い」
「なるほど……」
轟々と音を立てながら燃え盛る炉の中で、板金が朱く染まって行く。
炉が吐き出す熱を浴びて、勇樹の額に汗が噴き出る。
「せんせぇー、不満じゃないんですけどせめて防火の魔法とか使わないんですか? 火の前にいると皮膚が焼けそうで痛いんですけど」
「使わん、火を直に浴びんと感覚は掴めん」
「でも、皮の水分がどんどん奪われるし、融けた金属が撥ねたりしたら火傷じゃ済まないですよね?」
勇樹の問いに、ジェイドは口角を歪め何かを企んでいる悪戯小僧のようにニヤリと笑うとボソリと呟いた。
「安心しろエリクサーなら里にストックが幾つかある。指の1本や2本は欠けても1日で生やせる」
「欠けること前提!?」
「そんな事より始めるぞ」
ジェイドが鎚を構えるのを見て、勇樹も慌てて鎚を持った。
その後、寝る直前までの数時間も、2人はひたすら鎚を振るい続けた。
最後には勇樹の腕は不自然に痙攣して感覚すらなくなっていた。
次の日、泥の様に眠ったおかげか体力は回復したが、腕はまだ痺れたように感覚が薄かった。
「おかしい……異世界に来る前とはスタミナもステータスが倍以上違うのに、何でこんなヘトヘトなんだ……」
自分の一部である筈の腕が動かし辛く、朝食が食べ難い事に勇樹は思わず愚痴る様に呟いた。
するとそれを聞いたジェイドが口を開く。
「ステータスの数値で全てが決まるなら、人族はここまで栄えてなどいない」
「……なるほど、ステータスには表記されない部分がある訳ですね」
ステータスには表記されない長所や弱点は幾らでもある。
例えばステータスの敏捷の数値が高いからと言っても、それが短距離に向いているのか長距離に向いているのかは判別できず、全く同じステータスでも個々で個性というのは必ず出てくる。
勇樹は、ジェイドが言わんとしている事に気が付いて、感心したのだが……
「まあ、鍛冶の技術に関してはスキルが半分以上を占めるがな」
「あれ!?」
スキルには技術の向上以外にも、手順の短縮や効果の倍増といった効果もある。
とどのつまり、勇樹は単にやり慣れない事を使い慣れない筋肉を使って筋肉痛になっているだけなのである。
「どんなにレベルやステータスが高かろうが、慣れない事をすればそうなるに決まっている」
「クッ……まさか異世界にこんな落とし穴があろうとは……!」
改めてこの世界がゲームではなく、現実である事をこんな事で自覚した勇樹であった。
「じゃあ、今日も始めるぞ」
「え? いえ、今日は腕も上がらないので出来れば休みたいかな~なんて……そうだ! 今日は金属について教えてくださいよ。主にミスリルとかそっち方面を!」
「む、そうだな。扱う物の特性は知っておいた方が良いか」
上手く誘導できたとホッとする勇樹。
しかし、数分後には後悔する羽目になった。
食事を終えて工房にやってきたジェイドは幾つかのインゴットを取り出した。
それぞれ宝石の様に光る金属、白っぽい銀色の金属、緋色の金属、昨日見たミスリル、独特な文様のある金属が金床の上に並べられた。
「まず右からアダマンタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネ、ミスリル、ダマスカス鋼だ。主にこの5つが魔力を通しやすい、または通しにくい金属としては有名だ」
「通しやすいのは分かるけど……通しにくいのはどうしてですか?」
「魔力が通しにくいというのは、それ即ち魔法に対する耐性が高いという事だ。特にアダマンタイトは魔力の絶縁性と硬度が高く重量もある為、城の壁などに良く使われていた」
「なるほど、けど大きさが多少バラバラな中でアダマンタイトのインゴットだけやけに小さいのは何故ですか?」
勇樹の言った通り、アダマンタイトのインゴットだけが他の金属の半分程度の大きさしかなかった。
「大きさが違うのは重さを1kgで統一しているからだ。そして、アダマンタイトだとこの大きさにしかならんのだ。だからこれは性能の割に盾などの装備には向かん」
「え、これだけで1kgあるのか……」
パスポート並みのサイズしかないインゴットを見て、その重量に若干引き気味になる。
これだけで1kgでは真面な盾を作ろうと思えば1百kg近くになってしまい持ち歩く事すら叶わない。
「次がオリハルコン、硬く伝導率が良く魔力を通す事で重量を自在に変える事が出来る、武器や道具に良く向いている金属だ。但し扱うのが物凄く難しい上、希少性も高いのでほとんど出回らん。ウチでもオリハルコンはあまり扱っていない」
「おお、これがファンタジーでお馴染みの幻の金属……っ!」
オリハルコンと言えば大概のゲームやマンガなどでは最上位アイテムであり、それを使った道具は伝説級というのがテンプレである。
そういう物を嗜んでいた勇樹としては、感動の一言であった。
「こ、これを使った剣とかはないんですか!? 剣じゃなくても槍とか楯とか斧とか!」
「いや、ナイフは数本あったかもしれないが剣は無いな。作る意味が無い」
「なんで!?」
幻の金属との対面にテンションが上がっていた勇樹は、伝説級の武器が見られるかも知れないという期待を裏切られて、少し食い気味に詰め寄る。
「人族には伝わっていないが、これらの上位金属があってな。態々次点のオリハルコンで作る意味が薄いのだ」
「地味に酷い理由だった!?」
「里にオリハルコンが少ない理由も、殆どがそっちの金属を作る材料にされる為に必要最低限しか取り置きが無いのだ」
「ま、幻の金属が次点扱い……なんて世知辛い世の中なんだ……」
崩れ落ちる勇樹を気にも留めずに、ジェイドは緋色の金属を指差す。
「これはヒヒイロカネ、コイツの特性は自信が魔力を内包し、随時放出している事にある」
「魔力を、放出?」
「触って見ろ」
ジェイドに言われ、隣のミスリルのインゴットと触り比べると、金属らしい冷たいミスリルに対してヒヒイロカネはほんのり暖かかった。
「特にヒヒイロカネは、融点が決まっていてそれより高くても低くても融けない性質を持っている」
「うわ、それって結構大変じゃないですか」
「安心しろ、絶えず魔力を送り続け高温を維持しなければならないのは他も一緒だ。寧ろオリハルコンなどは叩く時も魔力を込めるのは必須事項だ」
「それの何が安心なんですか!?」
ジェイドの冗談ともつかないセリフに思わず金床に突っ伏してしまう勇樹。
だがそんな勇樹を見てジェイドは、鎚を取りだして勇樹の顔の前に置いた。
「という訳だ」
「という訳ってどういう訳?」
「後のミスリルは加工前だと銀と変わらんし、ダマスカス鋼は炉の温度さえを付けていれば割とすぐに覚えられるだろう。打て」
「えーっと、今日は腕が動かないんですけど……」
「金属の扱いは聞くよりも慣れろ。何、練習用の予備なら幾らかあるので安心しろ」
「……へーい、結局こうなるんですねー」
勇樹は渋々、ジェイドと向い合せに座った。
その日は半日以上、金板を叩く音が止まなかった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




