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AAAA

王子様のお仕事はいつも笑っていることです。

だけどそれは弟に任せればいいことと王子は武芸に励んでいました。

守られるばかりではなく、自分の手で守りたいものは守る決意をしていたのです。

王子が守りたいのは国であり民でした。

だから王子が勇者になったのは必然だったのでしょう。


王子は頼りになる仲間を引きつれて旅に出ました。

その目に映るのは残酷な現実ばかりです。

自分の守りたかった国はこれほどまでに荒れ果てていたのかと驚きました。

救いを求める人々へと手を差し伸べ、王子としてできる限りのことをしました。

けれど救えるものと救えないものがあるのです。

知識としては知っていましたが現実としてつきつけられるとあまりに辛いものでした。

目を背けたいとも思いましたがこの国の王子なのです。

しっかりと眼に焼き付けました。


そしてさまざまなものを乗り越えて魔王の前に立ったとき、王子は思い出しました。

王子は幼いころから同じような夢ばかり見続けてきました。

振り下ろす剣と、飛び散る血。

登場人物は変わっても同じような場面ばかりをなぞるそれを無意識のうちに忘れようとしていました。

しかしここがその夢の中の舞台ではないでしょうか。

あれは勇者が魔王を倒す場面なのではないでしょうか。

だからといって何の意味があるのでしょう。

勇者は魔王へと切りかかりました。


そしてついに魔王へととどめを刺そうとしたとき、仲間の暗殺者が動きました。

暗殺者は王命を受けていたのです。

とある魔術師が勇者だった代から勇者が皆自殺していました。

一度も例外はありませんでした。

それを魔王による呪いと考えた王は暗殺者へと命令を出しました。

すなわち、魔王へととどめを刺すのを勇者から横取りしてしまえへというものです。

殺した者が呪われるなら、勇者以外に殺させてしまえばいいのです。

親として王子が死んでしまうのが耐えられなかった王の命令に、暗殺者は応えました。


王子は暗殺者が動いたのを見て反射的に動いていました。

手にしていた聖剣を、魔王ではなく暗殺者へと振り落したのです。

驚愕に目を見開いて王子を見る暗殺者に、王子は冷たい目を向けました。

そして暗殺者が動かなくなると今度は仲間へと剣を向けました。

仲間はわけがわかりませんでした。

暗殺者が勝手に動いたことは驚きましたが、旅の目的は魔王を倒すことです。

言ってしまえば勇者ではなく仲間が魔王を倒してもいいのです。

王子も手柄を独り占めしたいという人ではなかったのでますますわけがわかりませんでした。

わけのわからないまま誰も動かなくなりました。


勇者が魔王に向き直ると魔王は呆然と勇者を見ていました。

その顔を見て勇者は思わず笑いました。


「仏頂面よりそっちのほうがいいな」

「……は?」

「貴方の名前を聞こう。幾度も私に殺されて、幾度も死んでいく貴方の名前を」


王子はそこにいませんでした。

魔術師でもありませんでした。

聖女の息子の魔法は次の魂に夢を見せました。

何度も何度も目に焼き付いた、どの勇者も既視感を覚えた場面を夢で思い出させるようにしたのです。

その魔法は奇跡を起こしました。


「かつて私を友と呼んでくれた、私の代わりに犠牲にしてしまった、私の大切な貴方の名前は何というのだろうか」


“始まりの勇者”を呼び起こしたのです。

全ての勇者と同じ魂を持った、初めて世界を救った者でした。

もう忘れてしまったんだ、と悲しい顔で告げる勇者に魔王は涙を流しました。


「俺の名前を忘れてるのか、ばかやろう」

「すまない。泣かないでくれ」

「俺はずっと覚えてたっていうのに」

「わかっている。つらい思いをさせた」

「本当に……っ」


かつて世界に魔法が生まれました。

そのせいで世界はバランスを崩したのです。

バランスを崩した世界は人柱を求めました。

運の悪いことに当時はただの人だった勇者と魔王が選ばれてしまったのです。

どちらかが死ななければなりませんでした。

どちらかが殺さなければなりませんでした。

友人だった二人はできないと首を振りました。

ならばと世界は二人につらい現実を見せました。

多くの人が死んでいく光景を目の前で見せ続けました。


そして二人は涙を流しながら剣を取りました。

どっちが勝っても恨みっこなしだと歪な笑みを浮かべて、二人は殺し合いました。

そして死んだ魔王と殺した勇者が生まれたのです。

勇者は友人を殺して世界を救ったのです。

生き残ってしまった勇者は泣きながら願いました。


“どうかこのつらい記憶を忘れさせてください”


友人を殺してしまった現実を忘れてしまいたくて、そんなことを願ってしまいました。

それが友人を置き去りにしてしまうことなど考えもしませんでした。

世界に選ばれてしまった二人は魂が消滅することを許されず、幾度も世界に生まれてきました。

振り当てられた役割はそのままに、勇者は様々な道をたどりました。

振り当てられた役割はそのままに、魔王はおなじ道をたどりました。


魔王はいつも勇者を待っています。

自分のことを覚えている勇者を待っています。

それでも振り下ろされる剣に次こそはと何度も願いました。


そしてその願いがやっと叶ったのです。


「もう忘れるなよ」

「もちろん」


二人は笑い合いました。

もう魔王へと振り下ろされる剣はありません。

それが世界を破滅へと導こうとも、もう二度と殺し合う気なんてありません。




世界の終わりまで二人は隣で笑っていました。







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