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城勤めの魔術師が勇者に選ばれました。
研究者でもあった魔術師は城を離れることを渋りましたが、最終的に魔王を倒すために旅に出ました。
ただひたすらに最短距離を選んで進んでいった勇者は、きっと魔術師が初めてでしょう。
無表情に剣を振り下ろした魔術師が同じ人間とは思えなかった、とのちに同行していた仲間は語りました。
城へと帰った魔術師は勇者の資料を集めだしました。
城の中の書物をすべて読む権限を持っていた魔術師は過去の勇者の書記を読んだことがありました。
長い歴史を持つ国です。その歴史に見合った通りに勇者を生み出してきたのです。
そして勇者に関する資料が最も多いのが城でした。
それらへと眼を通していた魔術師の疑問が勇者となったことによって確信へと変わったのです。
勇者は誰も彼も既視感を覚えていました。
魔王へと振り下ろす剣に、魔王の死体に、血だまりに。
いつの勇者だってそれを書き記しているのです。
偶然?そんなはずはありません。
あの強烈なまでの、それでいて一瞬後に忘れてしまいそうな、そんな想いが偶然なわけがないでしょう。
魔王による呪いかとも思いましたがすぐに頭の中から消し去りました。
呪いをかけるのなら命にかかわるものにすればいいのです。
対価が自身の命で呪いが既視感だけなど、呪う意味がありません。
だから呪われているのは聖剣でしょう。
聖剣が勇者に既視感を覚えさせるのです。
ならば、と魔術師は新しい魔法を作り上げました。
賭けにしては分の悪い、というかリスクしかありません。
それでも試してみる価値はありました。
自身の疑問に対しての行動力とそれにともなう実力は折り紙つきだと魔術師は自分で思っていました。
だから迷うことなく自身へと魔法をかけたのです。
残されたのは勇者だった魔術師の死体でした。