門限破り

　学校の帰りに公園にヨリミチしたら、モンゲンをやぶってしまいました。

　お母さんは怒っておうちに入れてくれません。お父さんも怒って口を聞いてくれません。

　ずっとずっと鍵を開けてくれるのを待ってたのに、誰も出て来てくれません。

　だからぼくはずっとずっと待ってます。

　でも、誰も鍵を開けてくれません。

　ぼくはいつも部屋の窓を開けっぱなしで学校に行っています。

　だけど窓から入れません。かなしいです。

　朝になったけど、鍵は開かないままです。

　お父さんとお母さんは黒い服を着てお仕事に行ってしまいました。

　ぼくのことをまだ怒っているのかな。

　玄関の横で座って待っています。

　ぼくのランドセルはおうちの中だから学校にも行けません。

　こまったなぁ。

　今日の給食はカレーだから、ぼくはとても楽しみだったのに。

　体育もあるし、図工の時間はスケッチ大会だって先生が言っていました。

　だから今日は学校に行きたかったのに、つまらないです。

　夕方になったらお母さん帰って来るかな。

　お父さんが帰ってきたら、ごめんなさい、しなきゃ。

　許してくれるかな。

　おうちに入れてくれるかな。

　入れてくれたらいいな。

　玄関の横で座って、ぼくは待っています。

　早く帰ってこないかな。

　もうすぐ夏休みになります。

　夏休みになったらお父さんとキャンプに行くヤクソクをしています。

　お母さんとスイカを食べるヤクソクをしています。

　でも、おうちに入れなくて着替えてないから長そでのままで、あついです。

　まだかな。まだかな。早く帰ってこないかな。

　昨日は暗くなるまで待ったのにお父さんたちは帰ってきませんでした。

　でも、誰もおうちにいないはずなのに明かりがついていました。

　おかしいな。どろぼうさんなのかな。こわいな。

　ぼくが玄関の横で見張っているから出てこれないのかもしれません。

　ちょっとこわいけど、お父さんたちが帰ってくるまで見張っておこうと思います。

　そしたら、きっと、ぼくのこと許してくれて、おうちに入れてくれるよね。

　早く帰ってこないかな。

　玄関の横で座って、今日も待っています。

　お仕事いそがしいのかな。

　いっぱいザンギョウしないといけないのかな。

　今日はみんなでごはんが食べたいな。

　お父さんにも、お母さんにも、いっぱいごめんなさいしなきゃ。

　おうちに入れてもらえるまでごめんなさいしなきゃ。

　今日の給食はなんだったかな。

　理科のジッケンがあるって先生が言っていたけど、なんのジッケンだろう。

　ときどきテレビで見るような楽しいジッケンだったらいいな。

　ペットボトルでロケットを作るのとかとてもたのしそうです。

　先生に作りたいって言ったら作らせてもらえるかもしれません。

　でもその前におうちに入ってランドセルを取って来なきゃ。

　二階の窓は開かないし、玄関の鍵も開きません。

　背伸びしてピンポンもならしてみたけど音が聞こえません。

　しかたがないのでピンポンって何度も言ってみました。

　どうしたのかな。

　お父さんとお母さん、早く帰ってこないかな。

　今日もおうちに入れません。

　お父さんたちはまだ帰ってきません。

　玄関の横に座って、ぼくは待っています。

　だけど、トモダチができました。ユウコちゃんです。

　赤い模様がいっぱいついたふわふわのワンピースがかわいいです。

　ユウコちゃんも、モンゲンをやぶってしまってお父さんたちから怒られています。

　ぼくと同じでシメダシされているんだって。

　お父さんたちが帰ってきた時にココにいなかったら怒られるかな。

　でもユウコちゃんと遊びに行きたいな。

　ぼくがヨリミチした公園にはユウコちゃんのトモダチがいます。

　知らない遊びをたくさん知っていて、おもしろい人だってユウコちゃんは言います。

　ユウコちゃんがぼくをトモダチにショウカイしてくれるそうです。

　でもぼくはココでどろぼうさんを見張らなきゃいけないので、ザンネンです。

　ユウコちゃんもザンネンだってしょんぼりしていました。

　お父さんたちが帰ってきたらぼくもユウコちゃんと遊びたいな。

　ユウコちゃんのトモダチにも会ってみたいです。

　ぼくの知らない遊びをたくさん教えて欲しいです。

　早く帰ってこないかな。

　ピンポン、ピンポン。

　お母さんは出てきません。

　お父さんも出てきません。

　どろぼうさんはどこに行ったのかな。

　今日はくもっていないのになんだかくらいです。

　雨はふりそうにありません。

　お日さまを見てもなんだかくらいです。

　今日も玄関の横に座って、待っています。

　ユウコちゃんがトモダチといっしょにぼくのおうちの前を通りました。

　にこにこ笑って手を振ってくれました。

　ユウコちゃんのトモダチはユウコちゃんのほかにもトモダチをつれていました。

　みんな赤い模様の服です。かわいいです。

　おようふくかわいいね、って言ったらぼくの服も赤くてカッコイイって。

　ぼくは嬉しくて、やっぱり玄関の横に座って、待っています。

　お父さんたちにぼくの服がカッコイイって言われたことを早く教えてあげたいです。

　あ、でもお父さんたちにごめんなさいをするのが先でした。

　モンゲンをやぶってしまってごめんなさい。

　早く帰ってこないかな。

　ピンポン、ピンポン、ピンポン。

　今日は昨日より一回多くピンポンって言ったのに、気付いてくれませんでした。

　お父さんは見つかりません。

　お母さんも見つかりません。

　どろぼうさんも見つかりません。

　今日はまっくらです。

　晴れなのにまっくらです。

　もう夏休みは始まってて、ラジオ体操にも行かなくちゃいけないのに、まっくらです。

　おうちの中もまっくらです。

　ユウコちゃんのワンピースの赤い模様がはっきり見えます。

　ユウコちゃんのトモダチは遠くに行ってしまいました。

　昨日はユウコちゃんがお見送りに行っていたんだそうです。

　だったらぼくも行けばよかったかもしれません。

　だけど、お父さんたちが帰ってくるかもしれないから、僕は待っています。

　今日も玄関の横に座って、待っています。

　ユウコちゃんも一緒に、待っています。

　おうちの鍵は開きません。

　ぼくのランドセルはおうちの中です。

　ぼくはずっと、待っています。

　ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン。

　ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン。