【5ー1】
【5ー1】
「よう」
「え、あ、……ふ、……伏見?」
非常用階段の陰に居た村山に私は声をかけた。ここに人が来るとは思っても居なかった様で酷く狼狽している。
「……な、なんでここに?」
「私の特等席だから。むしろこっちの台詞だよ」
村山の座っている階段の一段上に腰を下ろす。ビニール袋を漁って村山にパンを一つ投げた。
「うわっ」
「間違ってクリームパン嫌いなのに買っちゃったんだけど、食べてよ」
「え、……い、いいの?」
「あげる。お前弁当捨てられてたし」
気にしてみると村山の受けているイジメは酷いものだった。自転車にチェーン錠なんて可愛いものなのかもしれない。
「あ、ありがとう」
「このメロンパン、中にクリーム入ってないタイプじゃねーか。間違えたぜ」
新商品だったから買ってみたら失敗した。
「メロンパンの中にクリーム入ってないのとか、口パッサパサになるんだよなぁ。ねぇ?」
「ぼ、僕はクリーム入ってない方がす、好きかな。い、異論は認めない」
「中にクリーム入ってないとか、やる気ない商品だと思うよ」
メロンパンの表面の形を作るだけで満足してるんじゃないよ。
仕方ないが、とりあえずかじる。
口の中パッサパサ。
「あ、あの」
「んー?」
「じ、自転車の鍵はどう、やっては、はずしたの?」
「だから秘密だって」
「ご、ごめん」
「魔法みたいなもんだよ」