【5章・死刑囚は変わり果てた】
【5章・死刑囚は変わり果てた】
遅れた課題の提出をしようと、担当の教師を訪ねたのだが見当たらず探し回っているうちに随分時間が経ってしまっていた。
小言をお釣りに貰いながらも、無事課題を提出した私は、校門に向かった。
「5時過ぎてるし……、あーどうすっかな。こよりは先帰っちゃったし、バス5時半まで来ねーし」
あと20分以上は待つ事になる。面倒な事になった。暇だ。
自転車置き場を突っ切るようにして行くとバス停留所は近い。まあ、今日に限っては近道をしても仕方ないのだけど。
そこで、不審な男子生徒を見かけた。自転車の前でなにかゴソゴソやっている。
自転車泥棒か。
「おい、そこのお前。何やってんのさ」
「え、あぁ、あ、べ、別に」
「別にじゃないっしょ……って、お前どっかで見たな」
この冴えない感じの顔には見覚えがある。何処で見たんだっけかな。
「ふ、伏見と同じ、く、クラスだから」
「あれ? だっけか? 私と同じ?」
「む、村山。ま、窓際の一番前に、座ってる」
「あー分かった。お前PCの壁紙がいつもアニメだろ?」
斜め後ろの方に座っているので見える。そういえば村山なんて名前だった気がする。
「そ、そうだけど」
「今のは魔法少女まじか☆マジカだったろ」
「へ? そ、そうだけど、し、知ってるの?」
「深夜暇だから観てるんだよ。それより、お前何をしてんのさ」
村山は自転車の後輪に取り付けられたチェーン錠を指差した。
「だ、だれかが、チ、チェーンつけ、つけちゃったんだ」
「は?」
「や、山内のし、わざに間違いないんだろうけど、は、外せなくて、か、帰れないんだ」
「なんだってまた……。」
「い、虐められてるから」
「まぁいいや、ちょっと貸して?」
チェーン錠を見てみると四桁のダイヤル式で、簡単には外せそうになかった。
適当に番号を合わせてみたが、さっぱりである。
少し思案して、私は村山に聞く。
「外して欲しい?」
「そ、そりゃまぁ」
「ちょっと目を閉じて。あと、この事は誰にも言うなよ」
「へ、へ?」
いいから、とっとと目を閉じてろと言い聞かせると、私はチェーン錠を左右の手で強く引っ張りしっかりと張らせる。
そして左右の手の間の辺りを睨んだ。透明なビニールに覆われた鎖を凝視する。
見えてる世界が少しぶれて、チェーン錠が切れた。
「ほら、取れたよ」
「へ? ど、どうやって」
「秘密」
「あ、ありがとう」
「そうだ、お前後ろに私を乗っけてけ。駅前までで良いから」
「え、で、でも」
「いいだろ? 外したお礼代わりだよ。バス来ねーし」