【4ー11】
【4ー11】
『犯人の名前が判明した、村山隼人。東京都立西部区第三高校の二年生』
マンションの一室で無造作に積み上げた機材の前で鷺ノ宮こよりは眉をひそめながらヘッドホンをつけていた。
窓からは離れた位置に東京都立西部区第三高校が見える。
『犯人は学校内の人間を体育館に軟禁中であり、無差別の殺人を起こしている』
「ふぅん。村山って誰だっけ、うん覚えてない。
……んにゃ、思い出した、うん嫌いなやつ」
記憶を手繰り寄せてると、部屋のドアが開いた。
中年の女性が入ってきた。
「こよりちゃん、お茶を淹れたのよ」
「ありがとう、小平さん」
「こよりちゃん、急に帰って来るからおばさん驚いちゃったわ」
盗聴で警察の無線を傍受していたが、これ以上有意義な情報は無さそうだった。犯人の名前が分かっただけでも充分だが、どうしようかとこよりは思案する。
公安六課が動き出しているようなので、あまり目立つ動きはしたくない。
だが、犯人の身柄確保の為に舞台を体育館に突入させて友人に何かあっては困る。それに犯人からの危害を受けたかどうかも気になる。
美樹は無事だろうか。村山と同じクラスの筈だ。
「ごめんね、ちょっとこっちに来る用事があったから、そうあったの」
本当は現場近くに腰を据える場所が欲しかったのだが。東京都立西部区第三高校で、魔法使いによる立てこもり事件が起きたという情報を聞いてこよりは飛んできたのだった。
そして古い知り合いである小平の家にあげてもらう事にしたのだった。
「こよりちゃん、あの事故の後、急に引越していっちゃったから」
「うん」
「今は、何処に住んでいるのかしら? 学校は?」
「目黒区に住んでるんだよ、そう住んでる」
小平の淹れてくれたお茶を飲む。小平もこよりの前に腰を下ろした。
盗聴用の機材について小平は何も聞かなかった。
「それより、小平さん。今、高校の方で事件が起きてるみたいだけど」
「なにかあったみたいで、高校の周りの家は非難させられたようなのよ。心配だわ」
「ここは?」
「二軒隣の勇太君の所まで避難勧告が出たんだけど家は無かったわ。勇太君覚えてる? こよりちゃんと中学校も同じだった」
「うん。野球部だったよね、そう野球部だった」
「事件って何が起きたのかしら」
情報規制がかかっているようだ。マスコミからは一切情報が流れてこない。
魔法絡みなので当たり前ではあるが。
「美樹ちゃん、無事かな、無事だといいけど……」
本当なら今すぐにでも学校に侵入したい。こよりが歯がゆい気持ちでいると、小平が意外そうな顔をした。
「あら? 聞いてないの?
美樹ちゃん、高校中退したのよ」
「え?」
「てっきり今も連絡を取り合ってるのだと思ってたわ。美樹ちゃん、こよりちゃんが引越したあとに学校辞めたのよ」
「そうなんだ、なんだ」
なら安心ではないかとこよりは苦笑した。ここまでした立場がないではないかと。
「なんでも自衛隊になるとか」
自衛隊?
こよりは混乱した。
傍聴していた無線が騒がしくなった。ヘッドホンを片耳に当てる。
『美樹さん!? 突入は駄目です!』
『伏見止まれ! 落合を潜入させてお前は狙撃ポイントを探せ!』
何の冗談だ、とこよりは思った。
妙に知った名前が聞こえてきた。
考え過ぎだ。
傍受しているのは公安六課の無線だ、だからそんなことがある筈がない。
伏見美樹なんて名前、十分あり得る名前ではないか。
『うるさい! 止めるな璃瑠!』
聞き慣れた声がした。
伏見美樹の声が。