【3章・運命は輪となった】
【3章・運命は輪となった】
六課に出勤してみるとオペレーターの八坂皐と璃瑠が温泉饅頭を前に顔を突き合わせていた。
なんだ、饅頭マジックでもやるのか? 饅頭マジックってなんだよ。
私が入ってくるのに気付いて璃瑠と八坂が頭をこっちに向けた。
「おはようございます美樹さん」
「おはよう璃瑠」
「今日も可愛いですね、黒豚みたいで」
「今日から、ベジタリアンにでもなるよ」
ちなみに豚は雑食である。どうでもいいか。
二人の横に座る。
「で、何やってんだ、お前ら」
「璃瑠ちゃんの機嫌が悪いので愚痴を聞いていたんですよ」
璃瑠から負のオーラが漂っている。森の中で会ったら魔女と勘違いしかねないほどに。あぁ、でも魔法使いか。
昨日帰ってきた箱根旅行は殺人事件に巻き込まれたのと、それの後処理で日程は完璧に潰れてしまった。
土産は買えたが、土産話は無い。
悪いのは私だろうか。いやない。悪くない。
でも謝っとく。
「ごめん、璃瑠。旅行ダメにして」
「別に美樹さんが悪いわけじゃないですから」
璃瑠は温泉饅頭を次々と口に放り込みながら不機嫌そうに呟いた。紙パックのオレンジジュースをラッパ飲みしながら、璃瑠が私を睨む。
それが朝飯ではあるまいな。
仕方ない、と私は思って提案する。
「分かった。じゃあ今度の休みにどっか行こうぜ」
ケーキバイキング以外で。あれには、二度と付き合いたくない。以前一度璃瑠に連れられて付いて行ったことがあるのだが、見てるだけで十分だった。
「私と美樹さんがですか?」
私の提案に璃瑠が慎重に問い返す。
他に誰が居るのさ。
「ほ、……本当にですか?」
「ああ」
妙に嬉しそうだったので、驚いたが機嫌が少し治ったので良しとした。
あと、私の分の温泉饅頭が残ってないのも許し……許した。