【2ー30】
【2ー30】
「それで君に頼みたい事があってね」
「なんでしょうか?」
「とある武装グループの持っているデータが欲しい」
野方の後ろの窓から見える瞬く夜の灯りの中に何人の人間がまだ寝ずに居るのだろうと梨花は思った。
「データ……ですか?」
「どうしても手に入れたいものなのだが、向こうはこちらの交渉に応じる気はないようでね」
野方のグラスの中で氷山の欠片の様な氷が音を奏でた。
「それでだ、君はその武装グループの拠点に潜入しデータのコピーを極秘に行いそれを持ち帰って来て欲しい」
「温和にですか」
「無理そうなら派手にやっても構わない。データさえ手に入ればね」
どちらでも君の好きな様にと野方は付け加えた。それの後始末をする位の余裕はある、と。
「そのデータはなんのデータなのですか」
「気になるかな?」
「あ、その言えない様な物なら構わないんですけど」
「いや、君がそれを理由に気乗りしないと言われても困るからね」
そんなことはなく、ただの好奇心だったのだがと梨花は後悔した。
「リニアモーターというものを知っているかな?」
「えーと、リニアモーターカーとかのですか」
「そうだ。電磁誘導によって推進力を得る技術のことなのだが、これを魔法に転用する実験がどうやら成功したようでね」
リニアモーターカーは数年前に稼働を開始したらしいが梨花は使ったことがなかった。
「この実験に成功したというのは驚くべきことだ。それでこのリニアモーターの魔法転用のデータがなんとしても欲しい」
「それをあたしがコピーしてくれば良いんですね」
「その武装グループは最近急成長を遂げていてね。どうやら下井貿易という会社のバックアップを受けているらしい。とはいえ君が苦戦するような相手でもないから気にすることもないさ」
「が、頑張ります」
【2章・隠者は待ち続けた完】