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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【一章・少女は欺いた(後編)】
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【1-28】

【1-28】


「そこの棚のガラス戸、そこに映ちゃってるぜ。カメラを構えるお前の姿が」


 薬師寺早苗はミスをした。基にするデータとして明かりをつけた誰も居ない視聴覚講義室を写真にとり、その写真をこの空間に貼り付けたときに。

 写真を完璧に再現したために、この空間に描写されている偽の映像にガラス戸に映っていた風景も入れてしまった。

 その写真を撮影する瞬間の薬師寺早苗を。


「これ以上の言い逃れは出来ないぜ」


 私の言葉に薬師寺早苗は数秒を静止すると、険しい表情を崩した。何度か深呼吸をして口角を上げて見せた。


「まさかー室内灯で気付かれるとは思わなかったよ」

「あとは芳香剤だな。その匂いにまぎれて刺激臭がした。排泄物はオムツ処理だろうが、臭いがかすかに残ってた。

 最初は気付かなかったけど」


 薬師寺早苗が目を閉じた。彼女が指を鳴らす。

 川のせせらぎの様な音がして、空間が剥がれ落ちていく。空間の端が解れ、光の粒子に変わり粒子が瓦解し粒子よりもっと小さな一瞬の煌きに変わる。

 風に流されるようにしてその煌きは渦を巻き流され溶ける。

 世界はドット絵で、その一ピースが崩れていくごとに元の世界の暗闇がその崩れた隙間から覗く。

 私は壁の室内灯のスイッチを押し込み、ONにする。

 景色の崩れた隙間から光が差す。気付けば足元が崩れていた。

 かりそめの映像が崩壊し、私の立つ場所で色を持った光の粒子が天に昇っていく。

 見えている景色が、私と彼女以外の全ての景色が崩れていく。


 崩れた景色の先、正しい景色の部屋の隅に一人の少女が見えた。写真で見た少女だった。

 床に転がされている入間沙織は手錠とガムテープで自由は奪われていたが、生きているようだった。


「寮の部屋に監禁しとけば、ばれなかったかもな」

「いやだよ、部屋に置いとくなんて」


 崩れた景色はもう既に跡形もない。しかし入間沙織が転がっていること以外は今の景色は何も変わっていない。

 完璧な魔法だった。

 完璧ゆえに彼女はミスをした。

 けれど、いくつもの巧みな嘘に騙されてそこまでたどり着くのに時間がかかってしまった。

 彼女は見事に欺いたのだった。


「すごいね、刑事さん」

「本当を言うと半分ブラフだったよ」


 ガラス戸に映りこんでいた姿は薬師寺早苗だと言い切れるほど鮮明なものとは言い難い。

 だが、十分だ。少なくとも細かい証拠は積み重なっていたのだから。


 入間沙織のガムテープをゆっくりはがしてやる。

 涙で乾いた瞳が助けを訴えていた。

 写真と謙遜がないくらいに入間沙織は美人だった。

 しっかりと通った鼻筋に薄い唇。写真では気付かなかったが口元にはホクロがあった。


「大丈夫か?」


 入間沙織がただ頷く。擦れた声にならない声が口から漏れた。

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