【16ー14】
【16ー14】
「世界から認められない痛みを知らぬ君が!」
「認める勇気を知らないあんたが!」
美樹が野方へ魔力で生成した無数の刃を降り注がせる。野方の頭上へと降り注ぐ大量の魔力刃が野方を突き刺す直前に跡形もなく消えていく。そこへ向かって美樹が急降下をかける。
「でぇぇぇい!」
野方との距離がほぼゼロになった瞬間に美樹は黒蛇の引き金を引く。黒蛇が限界を越えた魔力砲撃を撃ち出そうとしその銃身が爆ぜた。行き場をなくした魔力が崩壊し膨大な魔力が爆発する。
誘爆した魔力が白く周囲を塗りつぶし爆発音が地面を揺るがす。熱へと変わったエネルギーが衝撃を伴い狂ったようにのたうち回る。抉り穿ち無へと帰す。
無音へと変わった。美樹は頭を上げる。地に臥せた身体が動かせず頭だけ動かした。視界の全てが砂嵐がかかったようになっていた。
身体が針に刺されたような痛みが全身を襲う。喉の奥から血反吐が気泡音を立てながらこみ上げる。瞼の裏側から嘔吐感がこみ上げる。
野方が無傷で立っていた。
「これで終わりか。君の存在は興味深かったが、私の目的のためには危険すぎる」
銃身が融解し使い物にならなくなった黒蛇。魔力爆発で傷ついた身体。意識が深淵へ引き摺られて消えそうになる。
「君の存在を消す」
「やって見ろよ、この野郎」
美樹は自らの身体を引き起こす。脳内の何処かが欠けた様に意識が飛びそうになる。
美樹の攻撃は全て無効化されてしまう。野方が存在を否定する以上、何もかもが無に帰す。ならば野方が否定できないものはないかと思案する。
「結局は行き着く先は否定だ」
「あんたを否定して私はこよりの夢見たものを信じてみせる」
「それは矛盾だ」
「だとしても!」
美樹が自らの位置を大きく上へずらす。野方が至近距離で放ったライフルの熱線が美樹を貫く。朱の血飛沫が輪となる。止めどなく吹き出した血液が霧散する。撃ち抜かれた衝撃で浮かびあがった身体を美樹は自分の意識の下へ引き寄せ直した。
野方が続けて熱線を撃ち出す。回避も受け身もままならないまま、撃ち抜かれ弧の字で硬直した身体は貫かれる。一瞬の痛覚の許容範囲を越えたエラーの後に全身に太い針が体内から突き出されたかのような痛みが駆けめぐる。
野方の元へ落下する美樹。それに向かって野方が手を突き出す。
「消えろ!」
野方が否定できないもの。
どうしたって彼自身が否定してはならないもの。
美樹が野方の突き出した手に向かって自らの両手を落下しながら突き出す。
野方の生のシステムは誰かと異なるものではない。私達はその仕組みから逃れることは出来ない。野方であってもそれは否定できない。
美樹が残った力を全て振り絞りスライドシフトを発動する。視界に映る世界の一部にあたりをつけてそれを思いっきり引きちぎるように脳内で力を込める。
「あんたが何でも否定できるってなら自分の生さえ否定してみせろぉ!」
一瞬だった。
美樹のスライドシフトにより世界はずれる。野方のいる世界の一部が横にずれる。距離にして数十センチ。
胴体との位置をずらされ居場所を失い地に吸い込まれるように落ちていった野方の首。押し出されるように横にずらされた首は一瞬宙をさまよった後、重力に引きずり込まれ静かに落下する。生を失い見開かれた野方の瞳が反射したのは誰も居ない世界だった。