【16-13】
【16ー13】
観察者を上位観測者とする魔法で世界だって変えられるだろう。観たいものを叶え観たくないものを消し思い通りに自分の意志を押しつけることが出来る。世界が内包する存在の確定を自らによって選択できる。
けれどそれは歪んだことだ。目を伏せたって、確かに「そこにあるという事実」は消せない。観ないことは出来る。認めずにいることも出来る。そうやって逃げおおせ、たどり着いた地で心は生んでしまった歪みを呑み込めるだろうか。
「それじゃ駄目なんだ、何も変わらない。そうやってたら心が哀しみを生んでしまう、何かを傷つけてしまう」
「それを否定出来るだけの力が魔法にはあるのだよ」
「そんなの見ないフリをしてるだけじゃないか!」
黒蛇が金属の悲鳴を上げていた。最大出力で撃ち続けた砲身は既に限界を迎え熱で焦げはじめている。
野方がライフルで熱線を連射する。無数に降り注ぐその雨の中を美樹が魔力盾を張りそれに身を隠すように地面近くを跳ぶ。熱線を身を捩り回避するとこぼれた熱線が地面を焦がし瓦礫を打ち上げる。その威力の断片が否応なしに感覚で伝わってくる。
バレルロールの要領で美樹は熱線の雨を櫂潜る。熱線が盾に掠るとその衝撃で美樹は弾かれる。
「っぅ!」
「君ほどの強さと傲慢さ、一体どうやって全ての人間が持てるというのだね! 誰もが君のようであるはずがない!」
美樹が弾かれた衝撃で滑りながら着地する。一閃の熱線を魔力盾で弾いて受け流す。真横を熱線が地面を焼きながら通過する。砕かれたアスファルトの欠片が舞い上がり熱風が美樹の髪に絡み付く。
「全てを拒絶して見ようとしないあんたに何が見えるものか!」
「見えるさ! 人が人である故のしがらみを否定できない姿が! それを私が解き放とうというのだよ! この国にこびりついた人の欲という汚れを落とすのだ!」
「それはあんたの見方だ!」
「君がそれを否定するのかね!」
美樹が熱線を直前で跳んで回避すると空を蹴って加速をつける。野方の頭上をとると魔力の無数の刃をばらまく。細かな半透明の刃は半回転してその切っ先を野方へ向けると一斉に降下していく。
「私達はきっと進化する、痛みだって何だって認めて立ち向かっていける! 私はそれを信じてる!」
「世界から認められない痛みを知らぬ君が!」
「認める勇気を知らないあんたが!」