【16ー12】
【16ー12】
気付けば美樹は現実に引き戻されていた。無数の映像の連続、それに呑まれていた意識がぼんやりと戻ってくる。
瓦礫の散らばる地面で、美樹は突っ立ったままだった。美樹に向かい合うようにして野方がライフルを構えたまま立っていた。美樹はゆっくりと息を吐き出す。
「今のは、あんたの記憶が見せたものか」
美樹が一つの結論を導き出す、今見えたものは野方の記憶だと。以前、東永井ビル消失の際にその場にいた全員の記憶を相互認識した時と同じ様な感覚だった。断片的なものしか見えなかったが確かに感じたものがあった。哀しいという心だ。
もし今のが野方の記憶だというのなら、と美樹は迷う。それだけの悲しみに埋もれた彼の心はどうしてそうも保っていられる。
いや、違う。崩れてしまったからだ、崩れてしまったから此処にいる。そして、きっと私もそうなのだ。
「観たのか」
「自分が哀しいからって、誰よりも哀しいからって、自分が世界の真ん中だなんて思っちゃ駄目なんだ」
野方に自己犠牲による社会保守精神を説いたって意味がないのは分かっていた。そんなものが打ち立ててしまった今の結果に彼は反乱しようとしているのだから。
けれども、と美樹は思う。
なら誰が、一体どんな人が自分の哀しみさえ呑み込んで見せるというのだ。痛みも涙も呑み込んだってより疼くだけだ。
「だから哀しいからって、あんたの心が壊れそうだからといっても私はあんたを否定する。こよりは言った、いつか人は変われると、他者を異質を拒絶することなく分かり合うことが出来るようになると。だから私はあんたの言うことを、あんたの存在を否定しなくちゃいけないんだ」
「それだけの希望を、この世界と人の中で何処に見出すというのかね」
「ここにちゃんと居る!」
痛みだって呪いだって、それを呑み込める人間なんてきっと居ない。だからこそ、私達は生きるのだ。抱え込んだものへ、手放せないものへいつかそれを認めるための勇気を持つために。
全ての存在は観測者によって認識されることで確定される。私達が正面から向き合うことでそれは確かなものとなる。
けれども、認識しなくともその存在はそこにあるのだ。野方の哀しみだって消しきれないのだ。だから感じた。断片的な記憶の中に哀しいという感情を。
「目を背けて何が報われた! 本当にそうであるなら、あんたの心の叫びはなんだ!」
「そんなもの君の誤認識に過ぎない」
野方が魔力をぶち上げる。火柱が立ち上りそれが美樹を呑み込もうとした。美樹がそれを撃ち抜いて爆散させると野方がそこへライフルを向け熱線を撃ち出す。手を地面に付いて半身を捻りそれをかわす、野方が続いて二射目を放つ。スライドシフトを発動し地面を蹴って浮かんだ美樹の身体を一気に上へずらしてそれをかわす。
「可能性を否定して!」
「私にはそれすら否定する力があるのだと!」