【1-25】
【1-25】
「お前、入間沙織が旅行カバンを持っていたって嘘をついただろ?」
その嘘はあるミスリードを引き起こす。
入間沙織が自分から失踪を選んだのではないか、というミスリード。
そのミスリードを引き起こさせる理由は何か。
逆に考えればいい、入間沙織が学園に居ないという、かりそめの真実で隠れてしまう答えは何か。
入間沙織が失踪を選んだと私たちが思い込んで得する人物は誰か。
「薬師寺早苗、お前は入間沙織をメールで呼び出しこの視聴覚講義室に監禁した。
それが私の出した結論だ」
私の結論を聞くと薬師寺早苗は笑顔になった。拍手までしてみせる。
「すごい、すごい。刑事さんのお話はよく出来てると思うよ。うん、おもしろい。でもそれじゃ肝心のサオリンは?
ここにいるんでしょ? どこー? サオリンどこなのー?」
彼女は手を顔の上にかざして辺りを見回す。
無邪気な仕草。
部屋を一通り見渡して私に向き直る。挑発的な瞳の奥を私は覗き込もうとする。
「ここの鍵を三日間失くしたと言っていたでしょ。鍵を複製するのに三日もあれば十分だ」
「それで合鍵を作って私がここに自由に入れるようになっていたって刑事さんは言いたいの?」
理解が早くて助かる。
「でもそうだとしても、サオリンがこの視聴覚講義室に居ないんだったらただの思い違いだよ。
ここに監禁しているっていうならどこに居るのー?」
「居ないな」
それを聞いて薬師寺早苗が口を開こうとしたのを私は遮る。
「いや、正確には『誰も居ない講義室の映像』を見ているわけだ。いや見せられているわけだ」
私は視聴覚講義室の映写機のスイッチを入れた。
スクリーンに映像が流れ出す。一昔前の洋画だった。何かの授業で使ったのだろうか。
「目から入る情報というのは簡単に言うと光が物に反射しそれが眼の中で像を結び脳に伝えてるわけだ。
この映写機による映像も同じだ。そう見えるように光を反射させてるわけだ。
で。もし、この教室の空間にプロジェクターに投影するように偽の視覚情報を貼り付けることが出来るとしたら、わたしたちが見えるのは実際にあるこの教室の映像ではなく、その上に重ねた偽の視覚情報しか見ることが出来ない」
「刑事さんのお話が難しくてわかんないんだけど」
「私たちの見てる景色に別の景色を上書き出来れば、ここにいる入間沙織が見れないってこと」
存在さえ気付かせないプロジェクターなどあるわけもないし、どんなに精巧な映像でもプロジェクターに映されていれば私たちは気付く。
だが仮に空間に精密な映像が投影できたら。私たちの視覚情報に上書きが出来たなら。
「それを可能にするのが『魔法』だ」