【13ー14】
【13ー14】
璃瑠自身をまるで弾丸の様に撃ち出し爆発的な加速を受け璃瑠は霧風を構え突撃する。
高田梨花が叢雲・雨を突き出す。
最低でも刺し違えようと高田梨花は踏み込んだ。
それは一瞬だった。
衝撃波が白い波を打ち、展望台の強化ガラスを弾き割る。鋭い轟音は遠くなり外の喧騒に掻き消される。
砕け散る音がして床に金属の塊がぶつかる。
璃瑠の霧風が正面からぶつかった叢雲・雨を砕きその一太刀は高田梨花の身体を貫いていた。かのように見えた。
「ぁぁ……」
切っ先は高田梨花の首をギリギリで避けていた。叢雲・雨を破壊しながら、高田梨花には刃が触れる事もなく寸前で剣は止まった。
寸前で止まり細かく揺れる切っ先が高田梨花の視線を釘付けにする。
「あ、あたし……」
「はぁっ……はぁっ……投降してください……次は上手くやる自信がないですから」
璃瑠が霧風を降ろした。高田梨花が手に握った叢雲・雨の砕け散った姿を見て力無く膝を突く。
「あたし……負けちゃったんだ……あたし……!」
武器だけを破壊し無力化を図った璃瑠の圧倒的な技量を見せ付けられた。
それを前にして武器もなく立ち向かうのは無理だと高田梨花は悟った。
負けた。
その事実は高田梨花に無力感を突き付ける。戦って結果を残して、そうでなければ自分の居場所は見つからない。認めてもらえない。
それがただただ、胸を締め付ける。
高田梨花の無線から石神佐樹の声がした。
『梨花!』
「佐樹ちゃん、ごめんなさい。あたし負けちゃったごめんなさい。あたし何の役にも立てなかったねごめんなさい。こんなんじゃ、あたし何の意味もないよね。勝てなきゃ結果を残せなきゃこんなあたしなんて誰も認めてくれないよね」
『違う!』
石神佐樹の突然の大声に高田梨花は戸惑う。
たった一言。単純な一言だった。
『私はあなたが居てくれさえいれば良かったのに』
それはきっと誰もが欲しがっていた言葉なのだ。それだけを求めていた筈だった。
高田梨花の頬へ気付けば大粒の涙が染み出す。それは頬から顎へ伝い引力に惹かれ落ちていく。
「ごめんね……あたし……馬鹿だね」
泣き崩れる高田梨花を見て璃瑠は床に放り投げた。乾いた金属音が高田梨花の嗚咽の音に呑まれそうになる。
もし仮に、違う場所違う時、違った運命で出会えていたのなら。
こんな終わりではなかったのだろうか。
高田梨花にいつかの自分を重ねてしまう。
斬れなかった。そう出来た筈でそうする筈であったのに。寸前でそれを止めた事が正しかったのかは分からない。
彼女は昨日の自分を越えて、追い越していけるだろうか。
「美樹さん」
『こちら伏見。どうぞ』
「制圧完了。事態収拾へ向かうよう本部へ」
『了解。』
美樹が応えて無線はまた慌ただしくなる。その喧騒の向こうで美樹が璃瑠に呼び掛けた。
『璃瑠』
「なんですか」
『ありがとう』
「それは……どうも」
【13章・塔は開かれた完】