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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【12章・太陽は沈んだ】
228/282

【12ー11】

【12ー11】


日が出る少し前の明るくなりかけた空の頃。コートを着込んでもかなり寒く、突き刺すように冷気が潜り込んでくる。しかし高揚していた。

朝起きた時には既に弘佳は居らず、私達は取り残される形となった。それが彼女なりの優しさなのだろうか。


旅支度をした美智と新宿あらやどが白い息を吐きながら立っていた。それと向かい合うようにして私と璃瑠は立っていた。それから半歩引くようにしてこよりも居た。


「五時間後、あんたが川に転落死したという通報をする。出来るだけ遠く人目のないところへ行くんだ」

「アテはあるよ」


弘佳をずっと探していた美智は諦めた素振りだったがたえず辺りを気にしていた。


「それじゃ」

「ああ。」


なんて返すべきなのか分からず私は曖昧に頷いた。


「ありがとう」


その言葉はもういい、と私は新宿を止めながら追い出すように出発するように急かす。

私達を背にして歩いて行く二人の後ろ姿を私達は見送る。登り始めた陽の光が凍り付いた結晶に反射して眩しい。足音は私達の吐き出す白い息の立てる音にかき消され始めた。

これで良い。

私はこれで良かったと思っている。


新しい旅立ちを選んだ二人の後ろ姿を見てそう思う。


「美樹さん」

「なんだよ」

「これで良かったと、思いますよ」


璃瑠の言葉は最後まで続かなかった。短い、本当に短い鋭い音がした。静寂を突き破ってその音は轟いた。スロウ・モーションで私の目には見えた。新宿が何かに突き飛ばされたように頭だけがよろめき、そして力なく崩れ落ちた。


「新宿を逃がすどころか革新派のテロリストに手渡すですって。一体それが何を意味するか分かっているの」


M24ーS。陸自で型落ちしたスナイパーライフルだなぁ、とぼんやりと思った。

名前はなんだっけ、あぁ川越だ。確か。

雑誌記者の彼女が何故スナイパーライフルを持っていたのか分からなかった。


彼女が新宿を狙撃したのだという事実はぼんやりと時間をかけながら私の脳内へ浸透する。


「公安としての自覚がかけているんじゃないの」


何故、この人は私が六課だと知っているのだろうか。

何故、この人は新宿と美智の正体を知っているのだろうか。

つまりだ、私達の知らないうちに六課は『援助』を送り込んでいたのか。


なんだよ、それ。


川越が話を続けようと私達の元へ歩み寄ってくる。しかし、それは途絶えた。銀の煌めきだけが辛うじて見えた。

川越の首が飛んで、それに続いて血が吹き出す。

美智がゆっくりと刀の背を返す。

見えなかった。美智が私達を飛び越して川越を斬るまでの一連の流れが。


「……あなた達は……こんな……!」

「違う」

「……3.02A-05Jフェーズフローズ」

「違う」


これは。

こんなのは。

私が望んだことじゃない。


鈍い音と同時に白銀が舞った。踏み込んだ美智の手首を璃瑠が蹴り上げた。その足を踏み下ろす前に美智が刀を横凪に振り切る。璃瑠が咄嗟に張った魔力盾に刀の刃がぶつかる。しかし、美智はそのまま振り切った。魔力盾ごと璃瑠が吹き飛ぶ。

私と美智の間に空白が生まれた。その一線を美智が一気に駆け抜ける。

その瞳に浮かぶのが何の表情か分からずに私は動けなかった。


「美樹さん!」

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