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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【12章・太陽は沈んだ】
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【12ー3】


【12ー3】


なんだ、この状況は。

と誰もが口に出さないが思っていると思われた。こよりだけはマイペースを崩さないように見えた。


「これめっちゃ美味しい! うんすごく美味しい」

「だろ?」

「いやー来てよかったよ」


お前は何をしに来たと言うのだ。

革新派である弘佳達と行動を共にしているようには見えないし。前回の新宿区でのテロで決別した筈である。アルカナ計画の責任者から情報を引き出しに来たのか。

こよりはどれだけの情報のライフラインをもっているのか。政府内部にでも内通者がいる気がする。


新宿あらやどはワイングラス片手に言う。


「オレはもう関わるつもりはない。政府だろうが革新派だろうが」

「そう言われてもこっちも仕事なんだよ」

「キュウリョウドロボー……」

「連れて帰って来いってのが上の指示なんだよ」

「キュウリョウドロボー……」

「璃瑠ちょっと黙って」

「こっちも素直に帰れと言って帰ってくれるとは思ってないさ。そっちの質問には全部答えてやる、それで手を打ってくれ」


新宿の提案に弘佳は頷いた。私達はそれで手を打つというわけにはいかないが、彼女の話は聞いておきたい。


「もともとこちらはそのつもりですわ」

「あんたは何処まで知っている」

「何処まで知りたい?」

「アルカナ計画というものは本当に次元干渉を目的としたものだったのか」

「あぁ。だがしかし」

「しかし?」

「それは計画途中であまり重視はされなくなった」

「兵士としての完璧な魔法使いの完成を目指したからか」


それの成功例が璃瑠であり、上位次元干渉を目的とした魔法使いの成功例が美智であるとは聞いた。


「それもあるが、オレの研究対象が変わった。魔法の本質だ」

「魔法の本質?」

「一応念を押すが、ここから先はオレの確証のない推測を多分に含む。それとあんたらは多分引き返せなくなるが良いのか?」


新宿の何かを含んだ言い方に璃瑠が不機嫌そうに答える。


「引き返せなくなるってどういう事ですか」

「お前らの中の世界がひっくり返り崩れる」

「ここまで来たら引けねぇよ」


私の返事に新宿は鼻を鳴らした。


「魔法は熱エネルギーの、エネルギー保存の法則を無視している。あれだけ莫大なエネルギーを生み出すには下地がない。言ってしまえば無から有を生み出している。逆にオレ達は魔法使いが何処からエネルギーを生み出しているか考えた。何処かにエネルギーがあって、それを現実へとフィードバックしてくる、つまり魔法の存在する領域があると考えた」

「何処からかエネルギーを引っ張って来てるってこと? こと?」

「そうだ。無から有を生み出すのではなく、何処かにある有を無の空間へと引っ張ってくるとな」


作れないからもって来ると。

エネルギー保存の法則を今更解くまでも無いだろうが、簡単に言うとエネルギーが形を変えたとしてもその総量は変わらないというものである。

私達が魔法でどんぱちやった時に生じるエネルギー量は多すぎると言う事だ。

それを説明するのがMa元素であるが、このMa元素自体もかなりあやふやなものである。


「エネルギーを引っ張ってくる元、それが上位次元か」

「上位次元にある莫大なエネルギーつまり、魔力をこの次元へと引っ張ってくるわけですね」

「……それを可能とするのが魔法使いです」

「魔法の存在する領域、この次元より一つ上の場所。それの居場所をオレ達は突き止めた」

「それは何処なんだよ」

「ここだよ」


そう言って新宿は自分の側頭部の辺りを指差した。人差し指でこめかみを突つく。

意味が分からず私は首を傾げる。


「エカタス理論というものを知っているか」


我々をその存在として確立し得るのは観測者による認識によるものである。逆説的ではあるが、観測者に認識されるものならばその観察物は存在するものである。観測者が観測しているならば、それが実在しないとしても存在として確立する。それを否定する術を観測者は持たない。

故に観測者の内に共通の認識を抱かせる事が出来れば、無より有を確立すると等しい。それは即ち現代の魔法となり得るのではないか。


この話、いつか璃瑠とした気がする。梨花と話をした後だったか。

そう言えば、あいつはどうしているのだろう。


「観測者の認識によって全ての存在は確立される。量子力学の話だろ?」

「あぁ。つまりだ、観測者が認識したものは真偽はどうあれ事実となるという事だ」

「それが?」

「魔法というわけだよ」


こよりが食べる手を止めた。

新宿の話がだんだん大きくなってきたのを感じる。


「魔法使いは周囲の認識を歪めこの世界の構造へと介入することの出来る。つまりだ、魔法使いが魔法と言うものを自身で認識しそれを周囲にもみせることでそれを現実へとフィードバックしているんだ」


魔法使いが魔法というものを認識し、周囲に見せる。それによって現実にフィードバックする。

その言葉を脳内で何回か反芻するも理解に辿り着かなかった。


「魔法と言うのは実在しないとでも?」

「いや観測されることで存在は確定される。周囲の人間、つまり観測者達がが魔法が『観えてる』ならそれはもう実在すると同義だ」

「周囲に魔法が存在していると誤認させると言うことですか?」

「誤認だとしても魔法で火をつければ火は出るし、誰かを攻撃すれば傷付く」

「それを誤認と言い切るのか」

「存在していると認識しているからな」

「んな強引な」

「脳内概念の具現化。周囲の観測者たる人間が魔法使いの生み出した概念を共有することで現実とする」


私達が魔法としてきたものは実在しない誰かの妄想だと。それを周囲の人間が存在していると信じ込んでいるから現実になるだと。

そんな、それこそ妄想の様な話だった。


「それが魔法だ」


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