【11ー8】
【11ー8】
何が起きた。弘佳の目指した高次元との接触が起きたと言うのか。そして何が起きた。
目の前に広がる光景は何も変わっていない。しかし、何かが起きたのは確かな筈だった。
何も変わっていない? 何かが違う。何かが。
視界がぼやけているような何かが。
『……伏……伏見……、……応答しろ!』
無線から漏れるノイズの向こう側からどなり声が響いた。
「伏見、現在ビル屋上にて敵魔法使い2名と交戦中!」
『今の膨大なエネルギー反応は何だ!?』
「詳細不明!」
なんて説明する。まず第一にそんな大規模な魔力放出があったと言うのか。
私達は動けなかった。微妙な距離感を保ったまま牽制状態のまま。
それを破った音。
「あ……あぁ!」
それは悲鳴だった。入間沙織の悲鳴であった。渇いた空気の中で存在を叫ぶ音であった。その悲痛な叫びの元へ視線を向ける。
「!?」
「なにこれ、何よこれ!?」
「どうなってんだ!?」
入間沙織が居た。
確かに彼女だった。しかし、その姿は何かが違った。一拍置いて違和感が押し寄せる。その理由を脳が訴える。
入間沙織の姿の向こうに数メートル先のビルの地平線が見えた。ビルの地平線はぼやけ、視界に霧がかかったようで見え辛い。
透けていた。彼女の身体は。光とそれに乗った視覚情報が彼女の身体をすり抜けていた。
「透けてる……?」
「なにこれ、ねぇなにこれ。私一体……ねぇ、答えてよ!?」
動けなかった。入間沙織が、その身に起こっている事態が理解出来なかった。
人の身体が透けている。
沙織がゆっくりと歩みを進める度にその身体は更に薄く消えそうになって行く。
「こ、こここ………………………わ、わわわわたたわたわたわたしは」
沙織の足元すらも透け始めた。まるで実体が無いかのように。目を離せなかった。
沙織の身体の先にビルのぼやけた地平線が見える。屋上に設置された室外機か何かがぼやけて見える。
沙織の足元が歪んだ。沙織の周囲が薄れた。
ビルの屋上全体が薄れて行くように見えた。
気付けば私の足元も透け始めていた。
「消える……!?」
「美樹さん!」
私の手が取られ、後ろから必死な声がした。
「璃瑠!?」
「離脱します!」
視界に映る何もかもが薄れて行く。私の胴に後ろから璃瑠が腕を回すと璃瑠が地を蹴った。璃瑠に引っ張られ宙に浮く。
「消える消える消える……!? 私消える!?」
沙織のその言葉で全てが。
消えた。