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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【9章・死神は舞い降りた】
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【9ー6】


【9ー6】


梨花にとって姉はいつでも近いようで遠い存在だった。容姿、才能、全てが姉の方が上だった。母は出来の良い姉を溺愛し、姉の写真とコンクールの賞が増えて行く事を喜んでいた。

梨花は要領が良いとは言えなかったし、バイオリンが弾ける気配も無かった。学校の成績も良くはない、というよりも悪かった。

羨ましくはあった。しかし、遥かに上の方に居るせいで梨花は嫉妬すら覚えなかった。けれど姉はいつも梨花に言った。


「梨花の方が凄い事沢山持ってるよ」

「あたしにあるかな」

「あるよ。梨花はすぐ誰とでも仲良くなれるし、誰にでも優しいから」


そう言って姉はいつも梨花の頭を撫でた。

それは姉の姿はその姿かバイオリンを弾いているときの姿しか思い出せないほどに印象的だった。


そんな姉が交通事故で死んだ。

飲酒運転のトラックに轢かれて即死だった。

梨花はその光景を確かに憶えていた。姉と並んで歩いていた時の光景を、梨花の目の前いっぱいにトラックが迫った事も。

けれど気づいた時には梨花トラックから離れた場所にいて横に居たはずの姉がトラックに轢かれて居たのを見ていた。車体の隙間から血に塗れた顔だけをこちらに向けていた姉の表情を今でも梨花は鮮明に思い出す事が出来る。


姉が死んで姉を溺愛していた母は衰弱し、日々の生活がままならないほどだった。


それの世話をしても母は梨花を拒絶していた。姉の死んだショックのせいだと分かっていても梨花にはショックだった。


「お姉ちゃん……なんで死んじゃったの……」


泣きたくてもそれを見せる事の出来る相手がいない。梨花は一人布団のなかで涙を噛む。


物音がして梨花は目を覚ました。気づかないうちに寝てしまっていたようで制服のままだということに気が付いた。シワになってしまう、と梨花は少し落ち込んで布団から這い出す。

母が居た。

両手でポリ容器の中の液体を振り撒いていた。梨花の部屋で母は一心不乱に。

無言でそれを続ける母の姿に何か得体のしれない気味の悪さが重なって見えた。

母の撒いている透明な液体が鼻を突く異臭を放っており、それが何なのか梨花は気付いた。ガソリンだ。


「何をしてるの、お母さん」


ポリ容器のガソリンの残りを母が頭から被った。


「ねぇ……何をしてるの……」


母がライターを取り出し指で弾く。その赤色が揺らめいて空気を撫でて。


「やめて! お母さん!?」


その火は母の撒いたガソリンに引火した。


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