【8ー16】
【8ー16】
「妻も娘も、あの事故で死んだ! その責任をとるべき人間が何の裁きも受けずに生きているのが憎くて何が悪いんでさぁ!?」
「それでも、あんたは!」
張った魔力盾に鉄パイプがぶつかる。軽い音だが確かな振動を伝えてくる。
空を切る音が四方八方から聞こえる。盾で弾いた鉄パイプは再び浮かび上がり美樹に飛んでいく。
飛びのこうとした美樹の足を何かが掴んでバランスを崩す。
テレキネシスで干渉され身体のバランスを崩された美樹を狙って鉄パイプが飛んでくる。空中に張った盾がそれを弾き返す。
「裁かれないのなら、自分で裁く!」
「それは私刑でしかない!」
「そうでもなきゃ、救われない人間が居るんでさぁ!」
走る脚を見えない手が掴んでくる。美樹は身体のバランスを崩し地面に転がる。起き上がろうとした美樹は首を強く絞められる感触を感じた。喉元に何かが強く押し付けられる。
「ーーかっ!?」
テレキネシスの見えない手が美樹の喉元を締め上げた。目の奥に熱い物がこみ上げる。呼気が締め付けられ狭まった気道の隙間を通る度に、壊れた笛のような音を鳴らす。
視界が揺らぐ。視線の先が上を向く。
上井が鉄骨を持ち上げた。上井の背後で一本の鉄骨が浮かび上がる。
「怨むな、とは言いません」
「い、や……それは、い、たいじゃ、すまないって」
鉄骨が上井の斜め後ろの辺りで浮かびあがり、上井が腕を振り下ろした。鉄骨が上井の真横を通り美樹へと向かおうとした。
「5.02B-Xスライドシフト」
美樹の呟いた魔法は世界を塗り替えた。
世界がずれた。一瞬にして、ほんの些細に。世界はずれた。
飛ばされた鉄骨の位置が横にずれる。上井の横を通り美樹に向かう筈だった鉄骨の位置がずれ、鉄骨は上井に直撃した。
「!?」
上井が吹き飛ばされ美樹の首にかかっていた圧力が消えた。
美樹は咳き込みながら上井の側へ駆け寄る。
「諦めろ上井」
「……これで、あなたは納得するんですかい」
その問いに美樹は答えなかった。
一人の犯罪者を逮捕し、それを法が裁く。そして殺される筈だった一人が助かる。
それは確かに正しいのだと誰かは言うはずだった。
それは頷ける事なのかと言う問いに答えは出せなかった。
私が教えてもらいたいよ。