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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【8章・正義は遺した】
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【8ー14】

【8ー14】


「立川総一郎はもう居ない。私達の保護下に移動した。もう諦めろ、上井」

「お嬢さんは一体何者で」

「魔法使いだよ」


上井がポケットから何かを放り投げた。野球の硬球だった。下手投げで飛んできたそれを身をそらして避ける。硬球は後ろで間の抜けた音を立てた。


「傷付けたくないんですが、許して下せぇ」

「いや、傷付くもなにも」


耳元で風の切る音がして、何かが私の顔の横を通り過ぎた。耳が熱くなる。

私の真横を通過した硬球が上井の前の空中を何かの意図を持つかのように浮いていた。


突然、硬球が弧を描き私に向かってくる。

念動力で操作しているのか。


「そうまでして、なすべきことなのか、殺人が」

「許してくれとは思っちゃいません」


硬球が動いた。白い残像を残しながら硬球が眼前まで迫った。咄嗟にかばった左手に沈み込むように硬球がぶつかった。

跳ね返った硬球がまた急に軌道を変えて私の真横に回り込み勢いをまして向かってきた。

それを躱した時、気付けば上井が目の前に居た。

上井が黒い何かを突き出して私に押し当てて。


「許してくだせぇ」




スタンガンで気絶した美樹を放置して、上井はホテルから逃げ出した。アスファルトの夜道を通行人を突き飛ばしながら走り抜けて行く。

まだ捕まる訳にはいかない。

立川総一郎に裁きを下すまでは終われない。


立川裕子の死は世間に同情的に伝わるだろう。

志半ばで凶刃に倒れた国会議員。そしてその娘を亡くし哀しみに暮れる父、と。

そこには、同情と涙を誘う色付けだけが先行し、隠された事実は明かされない。


それでは意味がない。全てを白日の下に晒すには、立川総一郎の死と上井の独白が必要となる。

資産家と国会議員の殺害は大きな関心を引く。その大衆の関心をメディアの色付けだけでは誤魔化しきれない。必ず上井の独白は求められる。


立川総一郎の全ての責任は死をもって償われる。

上井は己の高揚を抑えきれなかった。


ようやく仇がとれる。


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