【8ー10】
【8ー10】
上井博彦は立川裕子の葬式会場となっているホテル、プリンストーキョーの最上階までエレベーターで上がった。
部屋は既に調べてあったし、後で伺う事も伝えてあった。
廊下は静まり返り葬列でさえもう少し賑やかだろう。
ホテルの部屋のインターホーンを押す。
「先ほど約束しました上井です」
ガチャリとインターホーンが切られて、部屋のドアロックが解除されたのがランプと音で通知された。
ドアを開けて中に入ると、電気がついていなかった。
どういうことか、と上井は訝しむ。
大きな音がした。暗闇の中から叩くような音が。それが三回ほど続いて上井は身構える。
すると突然部屋の明かりが点いた。
部屋の真ん中で美樹が立っていた。手には大きな模造紙を畳んだような物を持っている。
「そちらさんは確か立川さんの親戚の……」
「美樹っす」
「一体全体、部屋の電気もつけねぇで何をしてるんで?」
美樹は上井の質問には答えず手に持っている模造紙を折り畳んだ物を見せた。
「これ知ってます?」
「紙鉄砲……ですか?」
「そうそう。これをこうしてやって、思いっきり振ると音がなるんすよね」
紙鉄砲を鳴らして美樹は笑ってみせた。
破裂音は大きいが、こうして聞くと大した事はない。
まさか、自分を驚かす為だけに部屋の中に潜んでいたのかと上井は悩む。
「ポルターガイストって知ってます? 心霊現象としてよく言われるんすけど、物が飛んだり音がしたりするやつです。
「立川総一郎さんは何処ですかね、会う用があるもんで」
「いやー、まぁその話は後で。それより、私の話を少し聞いてかない?」
「急ぐ用事なんで、行かせてくれませんかねぇ」
「恨みでも晴らしにいくのか?」
美樹の一言に上井は反応する。
立川裕子の親戚だというのは本当だろうか、と疑う。この子は何者だと。
「立川裕子を殺害して、さらに立川総一郎まで殺す気か」