【7ー8】
【7ー8】
「魔法じゃなきゃ、あたしは認めてもらえない……認めてもらえないんだよ」
それはきっと誤解だ。誰だって必ず必要とされ認められ想ってもらえる人がいる筈なのだ。
その事実は魔法なんてものではない。
けれどそんな綺麗事を信じるにはきっと彼女は若すぎる。
「なんでそんなに思い詰めてるんだ……」
階段を降りる音がして私は口をつぐんだ。何処か慌ただしい音が一人分。
リビングに男性が入ってきた。さっき来た立川の客だと気付く。
近くで見るとやはり背が高い。180越えてそうだ。
頬の跡はやはり何か怪我の跡のように見えた。
「あら、お二人さんは」
「親戚です」
便利だな、親戚の子供っていう言い訳は。便利過ぎて信用出来ないくらいだ。
「立川さんにこんなお嬢さんがいたとはねぇ。上井博彦と言います、お見知り置きを」
「美樹です、こっちは梨花」
「立川さんにこっちでしばらく待つように言われましてねぇ。ちょいとお邪魔しますよ」
「立川さんはまだ部屋ですか?」
「えぇ。十分かそこら時間が欲しいって話でして」
時計をチラッと見ると四時になる五分前だった。
にしても、なんだ、この人。落語家か何かなのか、この喋り方は。
いや、確かに私だって敬語間違ってたり使えてなかったり男みたいな喋り方とかも出たりするよ。
でも、これはレベル高いよ。
「あの、上井さんは立川さんとはどういった知り合いで」
「いやなに、大学時代のサークル仲間でして。熱帯魚愛好会なんてのにね」
「熱帯魚愛好会? 変わってますね」
部屋の至る所が魚模様で統一されているのはそういうわけだったのか。
「立川さんの部屋は凄いですよ。あれだけ見事なものは専門店でも見れませんねぇ」
「そうなんですか」
何か横文字が文頭から文末まで入る話を上井は続けた。装置の名前なのか魚の品種なのかさえイマイチ分からなかった。
なんでも、プレコなる種類が好きらしい。水槽のコケをとってくれるのだとか。
後で立川に自室の水槽を見せてもらおうかな。
梨花は私達の会話には加わらず携帯電話を触っていた。さっき入れたオセロをやっている気がする。
上井の話が一段落つくと上井の携帯電話が鳴った。上井が携帯電話を開いて見ると腰を浮かせた。
「急用が出来まして、ここらで失礼します」
「何か立川さんを待っていたんじゃ?」
「いえ、急ぎでもないもんで」
立ち上がって帰ろうとしたので、私は出口まで送ることにした。
上井と並んで二人で玄関に向かう。リビングから玄関まではなかなかに距離があった。玄関で腰掛け上井はのんびりと靴紐を結ぶ。何故か指先の動きが鈍く上手く結べていなかった。何か別の事に気を取られている感じだ。
その時、二階の方から物音がした。
何か重い物を勢いよく落とした様な音が続いて、ガラスが割れる様な音も聞こえた。