【1-11】
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魔法の歴史は古く日本においても妖術と呼ばれ古典作品の多くにも登場している。
魔法という言葉に共通する意識は常人では不可能な奇跡的な結果をもたらすものということである。
中世ヨーロッパにおいて魔女狩りなるものが行われた歴史を鑑みれば、魔法というものは確かに信じられていた。
しかし、例えば魔女の仕業とされた謎の病なんてものは衛生環境による伝染病であったりなど現代社会に至るまでの過程で多くの不可解な出来事は科学的説明で決着がついた。
「入間沙織は魔法使いではなかったのでしょうか」
公安六課が担当する魔法というのはそれらのような「おとぎばなし的」なものではない。
魔法は確かに存在する、それは某小学生探偵ですら解けないような犯罪を引き起こす。
それは許されるものではない。
璃瑠の推測、入間沙織が魔法使いではないかというそれに、私は単純な疑問を呈す。
「だけど、入間沙織が魔法を使ってまで内密に学園を出る理由はなんだ?」
学園から出ること自体は簡単だ。荷物だって適当な嘘で誤魔化せる。
外出届けとIDカードのチェックさえしっかりこなせば、守衛に止められることも無い。
しかし、それすら入間沙織は嫌った。
「出ることを誰にも知られなくなかった、にしても翌日には発覚するでしょうし。確かに妙ですね」
入間沙織は家出だか寮出だかする理由がない、そう周囲は思い込んでいた。さらに学園から内密に出ることはほぼ不可能である。
だから消えた、という話が出た。
魔法を使ってまで誰にも知られずに学園を出るほどの理由。
親の元にも学園の元にも連絡をしない訳。
入間佐織の周囲の評価からすれば失踪事態がおかしなことであるのに。
こういう時は基本に帰れだ、と誰かが言っていた。
そう言おうとする前に璃瑠はタブレットPCを取り出して何かを睨み付け出した。チラッと覗くと捜査資料であった。
やっぱり私要らないんじゃないんですかね。
「魔法を使ってまで内密に出る理由、まず失踪の理由すら分かってないしなぁ。
ル-ムメイトでさえ理由は思いつかないって言ってたし」
私のぼやきに璃瑠は顔を上げた。
「……そのルームメイトの薬師寺早苗って人が旅行カバンって言ったんですよね?」
「そうだよ、さっき会った」
璃瑠が数秒考え込むと急に押し黙った。
璃瑠が黙ったので私は紅茶に口をつける。
やっぱ高い味だよこりゃ。ヘルペスが出そう。
貧乏性だから。