【6章・月は繋げた】
【6章・月は繋げた】
目に見えて、今日のこよりは不機嫌そうであった。弘佳は慎重に言葉を選ぶ。鷺ノ宮こよりは優秀だ、魔法使いとしても、活動家としても思想家としても、だが冷静さに欠ける点がある。
不機嫌そうな一挙一足に、横の美智は度々萎縮する。
度胸をつけて欲しい。
「で、何?」
「頼まれていた落合璃瑠のデータですわ。といっても月並みなものしかありませんが」
「ホント月並み、ホント」
公安部所属。近接型魔法使い。詳細不明。
目についた単語を拾っていく。有益なものはなさそうだった。
報告データを不機嫌そうに見ていくとこよりは一つのキーワードに引っかかった。
「なに? アルカナって、なに?」
「落合璃瑠に関連する情報全てが秘匿情報ですが、一つだけ共通するワードがありましたの」
「それがアルカナ?」
アルカナはタロットカードの組の事を言う。タロットは一組78枚であり、この内の22枚は寓意画の描かれた世間一般でイメージされるタロットそのものであり、それを大アルカナ、残りの56枚の組を小アルカナと呼ぶ。
何か関連性はあるのだろうか。
「アルカナのヒントどっかにアルカナ? ごめん、なんでもない、ないよ」
「い、いえ……。とりあえず、今回はこれ以上のデータはありませんわ。もう少し突っ込んで調べてみないことには」
「あたしのギャグを? ギャグを」
「調べませんわよ」
「渾身なのにー、ちょー渾身」
「あれで?」
「アルカナかー。少なくとも落合璃瑠は並の人間ではなかったね、うんなかった」
前回の戦闘で確信した。スピード、魔力運用、反応速度、技術、力。どれをとっても高レベルだった。
だが、何か違和感があった。どこか余力が残っているような、なんと言うか全力ではない気がしたのだ。
美樹の横に璃瑠が居る。近いうちにまた璃瑠との衝突は避けられないこととして、起こるだろう。
記憶の中の美樹の顔が浮かんできて、こよりは顔をしかめた。
「とりあえず、今回はここまでですわ。ではこれで」
「うん、ありがとう、じゃあね」
こよりが店を出ていくと美智が弘佳に聞く。
「……良かったのですか?」
「構いませんわ」
「……ですけど」
「あなたは関係ない。関係ないことですわ」