【5ー10】
【5ー10】
回収班が担架に乗せて村山を運んだ後に私と璃瑠だけが非常階段に取り残された。
慌ただしく緊急隊員が駆けていったが私は追わなかった。そんな私を見て璃瑠は目を逸らす。
璃瑠は何も言わない。私は何も言えない。
誰も知らない陽の差し込まない日陰の階段で私達は何を語るわけでもなく。何を見るわけでもなく。
この場所はいつだって何処かカビ臭い。けれど今は血の臭いが混ざっていた。
「あちゃー間に合わなかったか、うん残念」
あまりに場違いな声がした。私達は即座に振り向いて上の踊り場に銃口を向ける。
見知った顔が、いる筈のない人間がそこにいた。
白のはしごレースで飾られた黒のワンピース。フリルのついた黒のハイソックス。頭の上から爪先まで黒と白で統一されており、肌も白い。
長い金糸の髪が揺れた。何処か日本人離れした顔。カラーコンタクトをいれている為に瞳の色は嘘の様に青い。
ようやく見付けた。
「鷺ノ宮こより……!?」
「イジメられたから復讐って古いよねー、うん古い」
こよりは階段を悠々と降る。璃瑠が辻風を構える。
こよりが階段を一段一段降りる度にレースで縁取られたスカートの端が踊る。
「なんでここに居るかって? そりゃ美樹ちゃんを心配してだよ? うん心配」
私達のいる踊り場の二つ上の段差でこよりは立ち止まった。璃瑠は構えたまま動かない。私達とこよりの距離は2メートルもない。璃瑠なら一瞬で制圧出来る距離だった。
こよりはそれを気付いていないかのように無視して私に笑顔を向ける。
「でもでもー、なんで美樹ちゃんが公安六課にいるのかな? うん、なんで?」
「……こより。このまま大人しく私に逮捕されろ。頼むから」
私は言葉を絞り出す。ようやくこよりに、声が届く距離にきた。探し求め追い続けたこよりの影を踏める処まで来た。
「うーん、それは出来ないよねー? 出来ない出来ない。あたしはやらなきゃいけないことが一杯あるからさー、そうあるからさー」
「……なんでもいい。私と一緒に来い、こより」
「それはあたしのセリフだよー、逆逆。なんで公安にいるのか理解出来ないなー、うん無理」
「お前を止める為だよ」
「止める? なんで? 美樹ちゃんにとっても悪い話じゃないんだよ、むしろ美樹ちゃんの為だもん」
「なら私の為に捕まってくれ」
どうしてこんな事をしているのか、問い掛けたかった。けれど、いざこよりを前にして言葉は出てこない。
こよりに向けた銃口の先は変えない。人差し指をトリガーガードからゆっくりと引き戻し引き金に触れる。
それを見てこよりは泣きそうな表情に変わる。
「ねぇあたしを撃つの? 撃つの? ねぇ? なんで?あ たしを撃つの? 美樹ちゃんが? あたしを? 美樹ちゃんが? おかしいよね? おかしいよ? だってあたしだよ?」