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あさきゆめみしきみへ  作者: 茶竹抹茶竹
【5章・死刑囚は変わり果てた】
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【5ー9】

【5ー9】


私が立ち向かえと言ったのは、そんな意味じゃない。

私が享受するなと言ったのは、こんな結末の為じゃない。


お前が変わろうとしていたのはこんな姿じゃなかった筈だ。

私たちが直面していた世界は、私たちが逃れようとしていた世界は、私たちがもがいていた世界は、こんな形に変われば満足だったのか。


「イジメにイジメで立ち向かうな。暴力に暴力で立ち向かうな。それじゃ何も変わらない」


凝固した塗布性止血パッド。その上から脱いだ私のワイシャツで胴体を巻くように強く縛る。

応急セットで使えそうな物。こういう時は何を使えば良かったんだっけ。落ち着け、習ったじゃないか私は。

安定剤を注射器で投与する。止血は済んだが、出血量が多すぎる。床に落ちた血が乾き始め私の床についた手に張り付く。

視点の定まらない村山の目が何かを探して動く。歯の隙間で息が漏れる度に村山の胸が微かに上下する。


「なんでお前は……」


馬鹿なんだ。私たちが一番嫌った事をどうしてお前まで選んでしまう。


村山が伏せていた眼を開いた。ひそめた眉を少し緩める。乾いた唇をずらす様に開いて、掠れた声をあげる。


「ふ、ふしみ……や、やっぱ……り、僕は駄目な……んだ。……ぼ、僕は、強く……なりた、かった……のに」

「そんな強さなんて、お前に似合わないよ」

「……ふ、ふし……伏見を、守って……あげ……られるくら……い、つ、よ、くなり……たかっ、ただ……けなの……に」


守ってもらうほど私は弱くない、そんな言葉を私は飲み込んだ。

村山が目を閉じ咳き込む。血糊が器官から押し出され村山の口から溢れ出る。赤が村山を染め上げていく。


「お前は本当に馬鹿だよ」

「そう……だね。ふ、ふし、み」


村山の手が私の手首を掴んだ。掴んだという表現は似つかわしくない。力なく触れた。

触れた手に熱は無かった。村山が唇を力なく動かす。まぶしそうに瞼を薄く開いた。


「やっぱり……僕は伏見が好きだ」


力なく触れていた手が静かに降りて行く。村山の頭から崩れるように力が抜けて首だけを支えに頭は倒れた。


「おい村山!? 目を開けろ! 村山ぁ!」


魔法なんてただの兵器でしかない。この世界に、御伽噺の様な素敵な魔法はない。

だから、幸せな結末など起こり得ないのか。


私たちは何を望めば良かったのだ。


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