【5ー7】
【5ー7】
「ふ、伏見!」
「……村山」
停留所でバスを待っていると村山に声をかけられた。走ってきたのか息が乱れている。
「ふ、伏見が、そ、その学校を、やめる、って聞いて」
「うん、やめる」
「な、なんで。こ、この、ま、前の事故で、け、怪我したから……?」
「もう治ったよ。松葉杖必要なくなったし」
バスが停留所で停まった。ドアが陽気な音と一緒に開く。空気が噴射するような音がする。
「村山、ちょっと後ろに乗せてけ」
自転車の荷台に乗せてもらっている間、私達に会話は無かった。村山は二人乗りに慣れていないせいでひどく不安定なので会話を振る勇気は無かった。
一つだけ村山に私が言ったのはとある行き先だった。
数年前に改修工事が済んだ石神井公園に着くと自転車は砂利で揺れた。私は飛び降りる。砂利が私の着地を音で伝える。
「いやーついたついた」
人工揚水を行っているものの、この公園に池がある。池を中心に沼沢植物群や雑木林といった自然の景観で溢れていた。
池のまで歩いていって、池を囲う木風の手すりにおぶさる。
村山は、少し迷ってから後ろのベンチに腰掛けた。
「な、なんで、が、学校を辞めるの」
「あの鴨、なんか色変じゃね」
「ぼ、僕ならとも、ともかく……ふ、伏見が、や、やめる理由、な、なんてなないじゃないか」
「鴨ー。おい、そこの鴨だよ、アホそうなお前だよ」
私は振り返る。
村山の動揺に私は明確な答えを出さなかった。
無言が時間をまたぐ。村山が言葉を絞り出す。
「さ、鷺ノ宮は、どうするんだよ」
「こよりはもう学校には来ないよ」
「そ、それはどういう」
「私はこよりを止める。方法なんか分からないけど、こよりを止める。だから学校なんか辞める」
「と、止めるって、な、なにを」
「革命」
村山が固まる。
革命なんて言葉が出たことに村山は困惑していた。
「だからもう、多分会うことは無いと思う」
「……。」
「今までそれとなく楽しかったよ。じゃあね」
「あ、ふ、伏見!」
「なんだよ?」
「ぼ、僕は、その、伏見が、そ、そのなんていうか、伏見の、伏見のことが……。……ご、ごめん、なんでも、なんでもない」
「そうか」
思い出して、鞄の中の小ポケットのファスナーに括り付けた小さな巾着を取り外す。それを村山に向かって投げ渡す。
「匂い袋。記念に渡せそうなものそれしか無いからさ」
京都で買った良いやつだせ、と付け加える。
「村山、立ち向かえ、あきらめの現実を享受するな。立ち向かうということを履き違えるなよ」