【5ー5】
【5ー5】
「なあ村山」
「な、なに」
非常用階段の窓からは中庭が見えた。覗き込むと、暇そうにしている学生たちが見えた。時間の過ごし方は様々だった。
「こうして見下ろして見ると、世界はちっちゃいな」
「な、なにそれ」
「なんか私達がもがいて苦しんで嫌っている世界は、こっから見えてるわけだけどさ」
四階から見る景色は思ったより鮮明ではなかった。顔まで正確には分からないは当たり前として、中庭で時間を過ごしている生徒の一人一人の見分けすら付かない。多分、目を離した隙に彼等の立つ場所が変わっていたら私は気付けないに違いない。
「誰が異質なのか、なんてこっからじゃわかんねぇよ」
「い、異質な人が、い、いないだけかもよ」
「それは違うぜ。私達は完全な同質であることは不可能だ。全く同じ人間なんていない。見方次第で立つ場所次第で私達はいくらでも差異を産んでいく」
そういった意味では異質な人間など居ないのかもしれない。同質なんて定義すら揺らぐのだから。
「私達はどうなれば満足なんだろうな」
「へ?」
「どんな世界が欲しい。村山ハーレムでも作るか?」
クラスの女子全員がお前に好意をもって接してくる。まさしく、それなんてエロゲだよ。
「は、ハーレム……」
「想像すんな、気持ち悪い」
「ご、ごめん」
中庭で数人が何処からかサッカーボールを持ってきて蹴り始めた。今だにスポーツに熱中出来る人種が一定量居ることに少し感動を覚える。
いくら技術が進歩しても、肉体の直接的な快感には勝てないのか。
「おかしな話だけどさ、あいつらに同情したくなってきた」
「ど、同情?」
「もし今、私が消えたらさ、またあいつらは新しい異質を探し回る。創り出そうと躍起になる。そうして同質の仮面を被っていた誰かを引き摺り下ろして異質のレッテルを貼って、同じ事の繰り返しだ」
「……。」
「それはこの地球上の何処でだって起こってる。移民問題、民族紛争、宗教戦争、人種差別、貧困。異質としてきたものなんて見方を変えたら酷く不安定でしかない」
「そんな世界で何を願えば良い?」