【1章・少女は欺いた】
【一章・少女は欺いた】
私、伏見美樹は課長のデスクまで呼び出された。課長は笑顔で私に紙を一枚手渡す。
地図だった。ネット上から印刷したものらしい。簡単な地図の上の一点に赤いマーカーで丸がつけてある。
聖マリア学園。なんというかエロティックな響きである。
「聖マリア学園?」
「なんていうかエロイだろ」
中学生レベルのこの中年オヤジのにやけた顔にイラっと来たが、同じことを考えていた自分もイラっと来た。
私が公安部公安六課に着任して三ヶ月。
この課長は女子高生刑事ってエロイだろ、なんて理由で私を引き受けたらしい。
高校は中退してるが年齢的には高校二年生ということになるのであながち間違いでもないが。
私が普段捜査の時には女子高校生の制服を着るよう命じられているのは、この課長の利己的な理由で無いと思いたい。
「んで、どんな事件?」
捜査資料のデータを携帯に送ってもらいながら私は聞く。
事件の概要から関係者からの聞き込み内容まで一通り揃っていた。
一週間前、正確には6日前に起きた事件らしい、公安六課に回ってくるにしては遅い気もする。
「女学生が一人姿を消した。所轄の捜査では不可能と判断され六課に回された」
「魔法絡みっすか」
「もしかしたらそういうことになるかもしれない」
課長が薄い茶をすすりながら答える。ちなみに髪も負けず劣らず薄い。
お茶パックを3回使いまわしたくらい薄い。
後ろから声がした。
「おはようございます美樹さん。今日も死相が出てますね」
「おはよう。私は、めっちゃ元気だよ」
「そうですか、残念です」
私のパートナーである璃瑠が板チョコかじりながら立っていた。
まさか朝飯がそれか。
私より二つ下の15歳と一部の殿方が目の色を変える年齢でありながら、公安部員である。
茶色が多く混ざった細い髪は顎のあたりで切りそろえられ多少の癖があるため少し内向きに巻いている。
白い肌は少し紅潮し小鼻に薄い唇と美少女たる素質は十分に持ち合わせているのである。
さらに特筆するならば細い眉は絶えず不機嫌そうにひそめられ、目は不快感にまみれている。
そして私が元気だったことにショックを受けたのか、落胆の色が見える。
もう一度言うが、私の現パートナーである。
「では美樹さん、現場に行きましょうか」
「ああ、付いて来るの?」
璃瑠が満面の笑みを見せた。
「美樹さんの死に顔を見るまで側を離れないつもりですから」
「なんだろうね、告白にも聞こえなくないんだけど、うれしくねーよ」