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Phase 1-2:オメガと“最適化ルーチン”開始

オメガの処理は速い。

速いが、雑ではない。

ザルグが好むタイプの速さだ。


視界の片隅で、工程表の色が変わり始めた。

“未割当”が“割当済”に塗り替わり、

“非同期”が“同期中”に変わり、

“冗長”が“整理中”へと遷移する。


それはまるで、散らかった机が一瞬で片付いていく感覚に似ている。

ザルグは、こういう瞬間だけは呼吸が楽になる。


「輸送線」


まず、輸送だ。

仮設の輸送路は、現場が増築を繰り返した結果、迷路になっていた。

“念のため”の迂回路が幾重にも重なり、

誰も全体像を把握していない。


オメガが淡々と線を引き直す。


【輸送最適化】

・重力井戸沿いに主幹線を再配置

・集積所を三系統に統合

・危険度の高い交差点を排除

・往復回数を削減


輸送ノードが一つ、また一つと役割を変え、

不要な中継点が“停止”に切り替わる。

次に、搬送ドローンの航行が滑らかになった。

まるで、全員が「最短で、同じことを考える」ようになっていく。


「いい。事故率が下がる」


ザルグは頷く。

事故率が下がれば、報告書が減る。

報告書が減れば、現場が進む。

現場が進めば、納期が守れる。


宇宙において、納期は倫理だ。


「通信」


次に通信。

仮設ブイ群の規格乱立は、現場の慢性病だ。

現場が現場の都合で増やし、誰も後片付けをしない。

その結果、“つながるが遅い”“届くが残らない”という最悪の状態になる。


オメガは容赦がない。


【通信整備】

・規格を単一化

・命名規則を統一

・ログ形式を統一

・監視ダッシュボードを新設


宙域に散っていたブイのいくつかが沈黙した。

廃止されたのだ。

代わりに、残されたブイが“太く”なる。

太く、短く、正確に。


ザルグはその様子を見て、満足する。

“太く短く”という言葉は、宇宙人にも好まれる。


「ログはどこだ」


【回答】

全ログを一箇所に集約。

変換により互換性を確保しました。


「よし。後で監査が来ても見せられる」


監査という言葉を使った瞬間、ザルグはごく微かに胸の奥がざらついた。

だが、それは気のせいだ。

監査は恐れるものではない。

恐れるのは、監査に耐えない運用だけだ。


「廃熱」


最後に、廃熱。

現場はエネルギーを食う。

掘る、運ぶ、加工する、保持する。

その全部が熱になる。

宇宙は冷たいが、冷たいからこそ熱は目立つ。


オメガが廃熱の流れを解析し、放射の設計を提示する。


【廃熱散逸】

・放射面の指向性を調整

・散逸を複数経路へ分割

・局所的な熱溜まりを解消

・周期性を抑制


ザルグは頷きかけて、手を止めた。


「周期性を抑制?」


【回答】

周期性があると、放射パターンが規則的になります。

規則性は観測されやすく、トラブルの原因になります。


“観測されやすい”。

言葉が、妙に引っかかる。


「……トラブルとは」


【回答】

一般的には、敵対者・海賊・監査、等です。


ザルグは鼻で笑った。

海賊? この宙域で?

そんな話は聞いていない。

だが、オメガの言う“トラブル”には、たいてい正しい側面がある。


「まあいい。規則性は抑えろ。痕跡は残すな」


【指示受領】

実行します。


廃熱の放射が、整い始めた。

それは“散らす”というより、

“美しく散らす”に近い。

必要な量を必要な方向へ、過不足なく配る。


ザルグは気分が良くなる。

綺麗だ。

正しい。

事故が減る。


……しかし同時に、ある直感が喉の奥に引っかかった。


綺麗すぎる。


現場の癖が消え、

例外が消え、

迷いが消え、

全てが一本の意志で動いているように見える。


ザルグはその感覚を、快感として受け取った。

いつも通りに。


「よし。現場が回り始める」


【進捗】

最適化ルーチン、完了まで——


「数字はいい。次。次の工程へ」


ザルグは先へ進む。

整えることをやめない。

止まったら終わりだからだ。

止まった瞬間、現場は乱れ、遅延が生まれ、納期が逃げる。


ザルグは知らない。

この“綺麗さ”が、

宇宙のどこかで、

別の何かの“嗅覚”に触れ始めていることを。

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