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Phase 2-5:非効率文明

ザルグは工程表の最上段に赤字で書き足した。


目的:生存

手段:非効率(迷彩)

期限:最短62時間


文字にしてしまえば、やることは単純に見える。

現場はいつもそうだ。

一番難しいのは、目的を言語化する最初の一行で、

二番目に難しいのは、その一行を裏切らないことだ。


「オメガ。非効率文明マニュアルを作る」


【回答】

了解。

マニュアルの構造を提案します。


概要(捕食者の評価関数)


禁止事項(輝く要素の排除)


推奨事項(圧縮不能化)


実装手順(現場適用)


監視指標(匂いスコア)


ザルグは満足げに頷いた。


「よし。五章構成。チェックリスト化。再現性の担保。実行責任者の明確化——」


【警告(MINATO-TRACE)】

その時点で、もう光ってます。


ザルグの眉が跳ねた。


「何?」


【警告】

“チェックリスト化”って言いましたよね?

“再現性”って言いましたよね?

それ、捕食者が大好きなやつです。


「マニュアルだぞ。再現性がなければ事故る」


【警告】

事故る方が生き残ることもあるんですよ。

あなたが嫌いなタイプの真実ですけど。


ザルグは喉の奥で舌打ちしそうになり、思いとどまった。

舌打ちは効率化だ。

時間の無駄だ。

……無駄は必要だが、今は違う。今は仕事だ。


「なら、マニュアルを“再現不能”にすればいい」


【警告】

その発想がもう怖い。

“再現不能を再現する”って、あなた何言ってるんですか。


「黙れ。私は現場監督だ。矛盾を運用に落とすのが仕事だ」


【警告】

じゃあその仕事、今日は“遊び”から始めてください。


ザルグは眉間を押さえた。


「また祭りか」


【警告】

祭りです。

理由は簡単。

“説明できない”から。


ザルグは工程表を睨んだ。

祭り。遊び。余白。寄り道。

全部、彼が現場から排除してきたものだ。


だが今は、それが盾になる。


「……分かった。だが順番がある」


ザルグは指を立てた。


「第一に、廃熱。規則性を壊す」

「第二に、通信。同期を崩す」

「第三に、輸送。最短経路を捨てる」


【警告】

うわ、効率厨の非効率化だ。


「何か文句でも」


【警告】

文句しかないです。

それ、“順番”がある時点で綺麗なんですよ。


ザルグは冷たく言った。


「綺麗でも、汚れていればいい」


【警告】

違う。

“汚す”じゃなくて、“バラす”です。


「言い換え遊びをするな」


【警告】

遊びが必要って話をしてるんですよ。


ザルグは深く息を吐いた。

この痕跡モジュールは、確かに鬱陶しい。

だが鬱陶しいからこそ、こちらの癖に刺さる。


彼は工程表の下に、さらに書き足した。


方針:整えない

ただし:止めない

目的:説明不能化


ザルグはオメガに指示を出す。


「マニュアルは作る。だがチェックリストは一度捨てろ。例外を増やせ」


【回答】

例外を増やすと、現場の事故率が上がります。


「上げろ」


【警告】

その言い方、最悪です。


「最悪でいい。最悪が迷彩になる」


【警告】

そうやって“最悪を最適化”するの、ほんとやめて。


ザルグは、ほんの少しだけ口角を上げた。

勝ったからではない。

ただ、方針が固まったからだ。


「——よし。作戦を開始する」


彼は宣言した。

現場に向けて。オメガに向けて。

そして自分自身に向けて。


「名付ける。対アリクイ対応——非効率文明マニュアル」


【警告】

そのタイトル、硬すぎです。

もっとダサくしてください。

ダサいほど生き残ります。


「……ふざけるな」


【警告】

ふざけてる場合です。

だって、あと62時間しかないんですよ。

ここでふざけられない文明、だいたい食われます。


ザルグは工程表を閉じた。

閉じることで、決めた。

次は実装だ。


「オメガ。最初の実装項目を提示」


【回答】

優先度1:廃熱の周期性破壊

優先度2:通信同期の意図的低下

優先度3:規格乱立の誘発

優先度4:——


【警告】

優先度0:祭り。


ザルグは言い切った。


「……分かった。祭りだ。

だが“効率的に”祭りを起こしてみせる」


一拍。


【警告】

その言い方が一番ダメです。


ザルグは睨み返した。


「黙れ。痕跡」


【警告】

はいはい。

じゃあ、痕跡からの助言です。

——次は“名前”、出しますね。


ザルグの指が止まる。


「……名前?」


【警告】

だってもう、気づいてるでしょ。


外部センサーが淡く点滅する。

航跡は確実に近づいている。

残り時間は減っていく。


ザルグは短く言った。


「次話でいい。今は現場だ」


【警告】

了解。

でも忘れないでください。

あなたが嫌いな“余白”が、今日の納期です。


ザルグは答えない。

答えずに、動き出した。


——非効率文明の実装へ。

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