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奥手な二人は脱いだら淫ら(R15版)  作者: 矢崎未紗
第一章 曖昧な理想

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第02話 不思議と湧き起こる気持ち(中)

「うん、カメラも完全に個人の自由だよ。うちは写真同好会じゃなくて、あくまでも天文研究会。ようは星が見えればヨシ! だから、星空を撮影するのはおまけみたいなものなんだ。会としてあれをしろ、これを買えって強要はほぼなくて、そこそこ暖かい格好をして街中じゃ見られない星空が見られれば満足、って感じで構わないよ。実際、カメラで写真を撮らない会員も普通にいるしね」

「そうなんですね。思ったより気軽そうでいいね」

「うん……」


 結美に頷きながら、桃音は再びブースの写真に視線を向けた。小さいサイズではあったが、真っ黒な木々の輪郭の向こうに星空をとらえた写真が、桃音は妙に気になった。星が捕らえられていて窮屈そうに見えるのに、その窮屈さにむしろ美を感じるような、そんな雰囲気の写真だ。


(ここ……いいかもしれない)


 目いっぱい楽しみたいと思っていた大学生活。親友の結美と一緒に入れるサークルを探していたが、この天文研究会は雰囲気といい活動内容といい、かなり希望に合致する気がした。


「素子会長、おはようございまーすっ」

「おっ、野中と松浦だ。おはよー」


 そんなふうに結美と一緒に素子と話していると、二人の男の先輩が近寄ってきた。桃音は少しばかり警戒しながら、恐る恐るその二人に視線を向ける。

 野中・グレン・将樹と名乗った先輩は黒髪に紺色のジャケットで耳に小さなピアスをしており、いかにも大学生という感じの気さくでさわやかな先輩だった。そしてもう一人の松浦・デイビット・謙志という名の先輩は、ツーブロックの短いこげ茶の髪で、黒いジャケットだった。将樹よりも背が高く、自動販売機くらいはありそうだ。何かスポーツをしているのだろうか、首ががっしりと太く、眉毛は整っていたがとても自然で、無口なためかやけに眼光が鋭く見えた。


(怖い……感じ……だけど……)


 将樹からどの写真が気に入ったのか尋ねられ、桃音は控えめな声で答える。すると、思わず見惚れた写真の撮影主は、なんと謙志であるとのこと。威圧感を覚えるこの巨躯には似合わず、ずいぶんと繊細な星空を撮影するものだ。桃音はそう思った。


「野中はちょーっとばかし、軽薄な感じがあるけどね?」

「ええ~……まあ、この堅物の謙志に比べたらそうかもしれないけどさー」

(堅物……)


 結美や素子、将樹の会話を聞きながら、桃音はちらりと謙志を見上げた。

 機嫌が悪いわけではないのだろうが、将樹と違って決して愛想がいいわけではない謙志は、基本的にずっと黙っている。堅物という言葉がぴったりだ。

 その後、桃音と結美は記念講堂で行われた全学部の一年次共通オリエンテーションを終えると、二号館一階にある学生食堂「おりべ」に向かった。まだ大学内のどの施設にも建物にも慣れていない二人は緊張しながら食券を買い、受け取り口に並ぶ。そして食券と引き換えにそれぞれうどんとカレーライスを受け取ると、トレイをテーブルに置いて椅子に腰を下ろし、一息ついた。


「天文研究会、結構よさそうなサークルだったね」


 カレーライスをスプーンですくいながら、結美はそう言って笑った。

 新しい環境というだけでとても緊張してしまうが、結美という親友が常に一緒にいてくれるだけで心強い。自分一人だったら、こんなふうに学食に入ることすらできずに四年間を過ごしてしまうところだっただろう。


「桃音の家族も許可してくれそうじゃない?」

「うーん……でも、活動が夜でしょ? 大丈夫かなあ」

「きっと大丈夫だよー。桃音だってもう大学生なんだしさ。それくらい、そろそろ自由にしてもらおうよ」


 家族――特に兄と姉は、桃音のことをいつまで経っても小さな子供だと思っているようで、桃音の帰りが少しでも遅いとかなり心配をする。高校を卒業したらアルバイトをしたいと桃音は常々希望していたのだが、「遠くだと行き帰りが心配だから、マンション近くのファミレスじゃないと駄目!」と兄と姉が言うものだから、素直な桃音は高校を卒業すると同時にすぐファミレスに行って面接を受け、そしてそこでアルバイトを始めた。


「でも、結美ちゃんのお父さんも心配するんじゃない?」

「まあ……それはそうだと思うんだけど……帰る時間を事前に伝えて、それを守れば大丈夫だと思う!」


 結美の両親は年の差夫婦だ。驚くことに、その差はニ十歳。結美が産まれた時、結美の母はまだ二十六歳だったが、父のほうはすでに四十六歳だった。だからなのか、結美の父はとにかく娘の結美のことを心配し、大事に思っている。それこそ、桃音の兄と姉が桃音を心配するのと同じくらいに。

 そんな父のことが大好きな結美も、いたずらに父を不安にさせるつもりはないようで、少しばかり窮屈さを感じながらも女子校という環境で健全な青春時代を過ごしてきた。だが、大学生になったのだからほんの少し羽ばたきたい――そんな気持ちが結美の中にはあった。


「パパは心配してばかりだけど、ママは『大学生活、思い切り楽しみなさい』って言ってくれたし……ほかのサークルも見て比較してみるけど、桃音の家族の許可が得られたら、二人で一緒に天文研究会に入ろうよ、ね?」

「うん。結美ちゃんと一緒なら安心で……嬉しい」

「そう? えへへっ、照れるな~」


 中高一貫ではあるが、二人が同じクラスになったのは高校一年の時で、どちらかというと遅めだった。二人とも手芸部の所属だったので、中学の時も部活の時間に話したことはあったが、しっかりと交友を深めるようになったのは高校生になってからのことだ。

 それぞれ理由は違うが家族がとても心配症で、少々家族に束縛されることもあるものの、自身もそんな家族を大切に思っているという共通点があり、共感し合えることが多くて二人はどんどん仲良くなった。大学の進路もきっちりと合わせたわけではないのだが、桃音が、将来は経営者を目指して玉苑スフィア大学の経済経営学部に行きたいのだと話すと、結美は何かを触発されたようで、同じ大学を目指して猛勉強をした。そして学部は違うものの二人ともこの大学に受かり、新しい環境での学生生活を一緒にスタートさせたのだった。


「ねえ、桃音は共通公開の講義、どれをとる? 学部が違うから、共通公開講義ぐらいしか一緒に受けられないよね」

「そうだね。えっと……青年心理学とか、面白そうじゃない?」

「え、何それ、そんなのあるの? 面白そう!」


 それぞれのランチを食べ進めながら、二人は配られた時間割の冊子をめくり、どんなふうに時間割を組んで履修登録をしようかと相談し合った。



   ◆◇◆◇◆



 オリエンテーションや履修登録の期間が終わり、いよいよ大学の講義が始まった。桃音と結美は緊張しながら日々講義に出席しつつ、かなり遅くなったが、天文研究会に入ることを正式に決めて手続きをした。


「結美ちゃん、ここじゃない?」

「あ、そうだね、ここだ。うぅ……遅れちゃったけど大丈夫かな」

「きっと大丈夫だよ。ほら、行こう?」


 そして四月最後の金曜日。すべての講義が終わった桃音と結美は大学を出て帰路についた。二人の家は同じ路線の数駅違いの場所にあり、結美が先に降りるのだが、そこまではルートが一緒だった。

 ところが、電車に乗って少し経った頃、二人のスマホへ天文研究会会長の素子から連絡が入った。なんでも、事前連絡が遅くなってしまったが、新歓コンパが今日あるとのこと。

 そのメッセージを見た二人は急いで電車を降り、それぞれの家族に連絡をした。そして新歓コンパに参加する許可を得ると、大学があるレンテバー駅に急いで戻ったのだ。


「あっ!」


 指定された居酒屋がある雑居ビルの階段を上り、恐る恐る店内に進んだ結美が何かに気付き、声を上げる。桃音がそちらに視線を向けると、座敷席の一番端に座っているあの堅物な先輩――謙志が操作し終わったタブレットを台座に戻したところだった。


「あの……遅れてごめんなさい。天文研究会の新歓コンパって、ここでいいんですよね? 今から参加でも大丈夫ですか?」

「え……ああ、大丈夫だ。将樹!」


 結美が恐る恐る尋ねると、謙志は座敷席の奥に向かって声を張り上げた。呼ばれた将樹が桃音と結美に気付き、朗らかに手招いてくれる。そんな将樹のおかげで、二人は遅れながらも新入生歓迎会の輪の中に入ることができた。

 桃音よりも積極的で社交的な結美が主に、ほかの一年生や先輩たちとの会話を進めていく。桃音も時折話したが、基本的には聞き役に徹していた。


(松浦先輩は……あまりこういう雰囲気は好きじゃない……のかな)


 それぞれの高校の思い出話や、これからの大学生活の話が止まることなく続く。それを聞きながらも、桃音はちらりと、一番端にいる謙志を何度も見た。将樹が話を振れば謙志は答えたが、それ以外は基本的に話さない。ただ淡々と、全員の飲み物の世話や食器の上げ下げ、店員とのやり取りを行っている。今日はそういう役割を担っているのかもしれない。


(なんだろう……この気持ち……)


 主に漫画を参考にして育んできた、恋愛への憧れ。自分はどんな男の子を好きになるのだろうかと考えたが、少女漫画のヒーローも少年漫画のヒーローも、どうも桃音の好みではなかった。

 だが、謙志を見ていると、なぜかふっと湧き上がる気持ちがある。自動販売機くらい背が高くて、首が太くて胸板も厚くて、やけに屈強な体つき。将樹のように気さくでさわやかな雰囲気ではないため、とても気軽に近寄れる印象ではない、堅物な男性。それなのに、桃音は謙志を見ていると、ふと思うのだ。

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