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奥手な二人は脱いだら淫ら(R15版)  作者: 矢崎未紗
第三章 儚い星空

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第17話 かわいそうでかわいい姿

「ね、謙志くんは……私以外の女の子とえっちしたこと、ありますか」

「ない」


 行為が終わり、服を着て、ベッドの上で隣り合って寝転ぶ二人。

 桃音の質問に即答した謙志は、片腕を桃音の腰に回して抱きしめながら、幼子が甘えるように、桃音にひたいをぐりぐりと押し付けて白状した。


「俺……性的な動画を見る時、ずっと消音にしてたんだ」

「消音……音声なしで見てた、ってことですか」

「ああ……」

「それは……どうして?」

「声が……どの女優の声も、駄目なんだ。誰の声を聞いても何か違って……どうしようもなく萎えるんだ。それに、いいなって理想に思うプレイじゃないのも駄目で」


 こじらせて、煮詰めて、高望みしまくって積み重ねた「理想」。それに少しも近くないことが予感できたから、元カノ二人に欲情したことは一切なかった。


「大学に入ってからなら、女子と付き合ったことはある……。けど、セックスは無理だった。一瞬ふれるぐらいのキスならしたけど、全然理想じゃない女子と性的な雰囲気になるのは無理で……だから、やらしいことをしたのも、そもそもこの部屋に女子を入れたのも……全部、桃音が初めてだ」

「私は……いいの?」


 謙志の頭をやさしく、穏やかな手つきでなでながら桃音は尋ねた。


「桃音は……声も、してくれることも、言ってくれることも……俺がすることへの反応も……全部、本当に……かわいい」

「私は、謙志くんの〝理想〟どおり?」

「ああ……」


 謙志は桃音の身体をぎゅっと抱きしめた。いや、桃音に抱き付いた、というほうが正しいかもしれない。


「俺……自分は誰ともセックスできないんだと思ってた」

「ふふっ……私ともまだ、本当のセックスはしてないですよ?」

「そうだな。でも、桃音とならできるって、確信してる。そう思えるだけでも、俺には奇跡だ」

「じゃあ……謙志くんはどんなふうに、初めてのえっちをしたい?」


 桃音は謙志の背中をなでながら尋ねた。とても大きく、広く、分厚さを感じる男性の背中。桃音の小さな手でなでてもなでても、全範囲には届かない。


「そうだな……」


 謙志は桃音からただよう優しい匂いを嗅ぎながら考える。

 女子と性行為ができる気がしていなかったので、人生で一度きりの、初めてのセックスについて深く考えたことはない。だが、それを桃音と一緒にできるのなら――。


「桃音に……食べられたい」

「えぇ? もう、謙志くんってば」


 抽象的な表現だが、それはつまり、桃音に上位に立ってほしいということなのだろう。

 恥ずかしがって教えてくれないかもしれないと思ったが、思いのほか謙志が赤裸々に希望を述べたので、桃音はそんな謙志がかわいくて仕方ないと思った。


「私もね……中高と六年間女子校だったのもあるけど、どんな男の子なら自分は好きになれるのか……その理想が具体的にどういうものなのか、全然言語化できなくて……私が好きになれるような男の子なんていないって、思っていたの。それが、謙志くんに逢ってやっとわかったの」

「俺……?」


 謙志は不思議そうな声で尋ねた。


「うん……どうしてか、私には謙志くんがかわいく見えて仕方なかったの。謙志くんをいじめて、困らせて……戸惑う謙志くんの表情を見たいなって……それはきっと、とてもかわいいんだろうなって……。そんな意地悪な考え、しちゃいけないって思ったけど」

「意地悪ではない、と……思う。あの……それは俺の理想にも……近いと思う……」


 痛いことをされたいわけではない。残虐な仕打ちを受けたいわけでもない。だが、理想の女の子に誘惑されて、甘くいじられて、切なくお預けをされて、我慢させられたあとにご褒美をもらう。そんなプレイをしたかった。「意地悪」という言葉が当てはまらなくもないが、桃音の欲求は、桃音に翻弄されたい謙志の願望と「ピタリ」と当てはまる。


「よかった……。私、謙志くんとお付き合いできて本当に嬉しい……。だから、初めてのえっちは謙志くんのお望みどおり、私が謙志くんを食べてあげるね」


 桃音は謙志のひたいにちゅ、と音を立ててキスをした。

 そうして二人はしばらく黙って抱き合っていたが、しばらくすると、今後の互いの予定を確認し合った。

 謙志は、実は二日後から三泊四日で帰省する予定であること。一方の桃音は、来週から大学の図書館が二週間の休館期間に入るので、その間に日帰りで祖父母宅へ顔を出しに行く予定であること。それから、桃音の月の障りの予定日なども。

 それらを踏まえて、次はえっちなことはなしで、どこへ出かけるデートをすることにした。桃音の財布に余裕があるなら、定番ではあるが水族館か映画に行ってみようと。そして、秋合宿の前にもデートをして、可能なら本番行為にチャレンジしてみようということになった。


「ふふっ……えっちの予定も立てるなんて、ちょっと不思議」

「え、あ、ご……ごめん。ムードとか……なくて」

「ううん。心の準備も……身体の準備もできるし、いいの」


 全身脱毛をしている結美と違って、桃音はまだ脇の脱毛を始めたくらいなので、処理すべきムダ毛が多い。えっちの予定が決まっていればボディケアが入念に行えるので、むしろ助かる。


「どんなふうに謙志くんを食べちゃおうかな……考えておくね」

「あ、ああ……」


 桃音はふんわりと笑う。

 その笑顔はとても優しくてかわいくて、まるで天使のようなのに、その笑顔に自分は卑猥なことされるのだと思うと、謙志は再び下半身に熱がこもるのを感じてしまった。



   ◆◇◆◇◆



 それから、夏休みは一日、一日と確実に過ぎていった。

 桃音は祖父母に顔を見せに行ったり、アルバイトに励んだりした。図書館が休館している間は、一日八時間は働いていた。そんな日が四日も続くと、あっという間に身体が疲れてしまう。父や兄、姉はこれよりも多く働いているのだから、お金を稼ぐということは本当に簡単なことではない。社会人になった時に困らないように、今のうちに運動の習慣でも作って、少しでも体力をつけておいたほうがいいかもしれない。


(でも、どうしたらいいかわからないから……今度、謙志くんに相談しようかな)


 運動とほとんど縁のなかった桃音はそう考えた。

 帰省から戻ってきた謙志とは、予定どおり水族館デートをした。室内の蛍光灯の光を吸い込んで青く光る水槽はとてもきれいで、その中をゆったりと泳ぐ魚たちを見ているとなんだか癒された。ペンギンと一緒に写真が撮れるコーナーでは、桃音は少しテンション高めにスマホで撮影した。小さくて愛らしいペンギンの隣にしゃがみ込み、どんな表情で写ればいいのかわからない、と困っている謙志がとてもかわいかったのだ。

 そんなデートの間、謙志はなるべく桃音と手をつないでくれた。桃音の歩調を感じ取り、桃音の歩くペースに合わせるためだ。それに、喉が渇いていたり手洗いに行きたくなったり、休憩が必要になったりしていないか、細かく確認してくれた。その気遣いが嬉しくて、桃音は終始笑顔で謙志を見上げた。




 そうして真夏が過ぎて、月が変わる。後期の授業開始まではまだ二週間以上がある残暑の日、謙志と桃音は大きな駅の近くにあるラブホテルに入った。アプリで部屋を予約できるらしく、謙志が事前に予約しておいた部屋だ。

 謙志も、もちろん桃音も、こうした場所に来るのは初めてのことで、部屋に入ってから二人とも、妙に口数が少なくなってしまっていた。

 付き合う前のぎこちなさが戻ってきてしまったような二人だったが、どうにか順番にシャワーを浴びてバスローブを着て、キングサイズのベッドの上で向かい合うところまでは進んだ。しかし緊張してしまって、そこからなかなか動けずにいた。


「あの雨の日を……思い出すね」


 服が濡れたままではいけないから――その一心だった謙志に連れられて、初めて訪れた男の人の部屋。そして、欲に任せて互いにさわり合った肌。

 あの時は緊張と混乱が強かった。それは今のこの状況でもあるのだが、あの時と今とでは、明確に違うことがある。それは、お互いに好き合っていると、しっかり確認できているということだ。

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